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第一章
アルトに打ち明けよう
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アルトが自室の部屋の鍵を開けると、私たちを通した。アルトの部屋……とりあえず挨拶を。
「お邪魔します……」
「うん、いらっしゃい」
アルトから剣呑とした雰囲気は消えていた。いつもの空気感に戻った?
アルトの部屋は清掃が行き届いており、一つ一つが整理されていた。塵一つさえないような、大層綺麗な部屋だった。私はごくりとする。これは部屋を汚せないと。腕の中のリッカもそうだ。粗相は決してしてはいけないと。
「シャーリー、椅子に座っててくれる? お茶用意するね」
椅子といっても、部屋にある椅子は一つだった。立ってようかな? リッカは腕の中のままでね。
「……あ、そうか。抜けてた。なんで俺、椅子二つ用意しとかなかったんだろ。じゃあ、クッションはあるから。座っててくれる?」
「うん」
アルトが座ったタイミングで座ることにした。お茶まで用意してくれるようなので、さすがに悪く思えてきた。
「あ、お構いなく」
「俺がそうしたいの。とっておきのあるんだ」
「それじゃ、有難くいただくね。せめて手土産もってくれば良かったね」
手伝おうにも、腕の中には震えるリッカがいる。いただく一方になっちゃった。申し訳ない。
「いいんだって。シャーロットは身一つで来てくれればいいの」
「え。あはは……」
身一つ。ううん……深い意味はないよね。私は笑った。
「……」
「あはは……」
アルトが無言でこっちを見てくるけど、私は下手くそな笑いを続けていた。
「はは……」
部屋をじろじろ見るわけにもいかない。リッカを抱っこしたまま、私は窓の外を見ていた。男子寮から見えるそれを目視した――春の女神像は健在だ。
「お待たせ、シャーロット。あれ? 座っててよ」
アルトがカップとお茶菓子をトレイにのせてやってきた。ローテーブルにそれらを置く。
「あ、うん」
背中にクッションを借りて、私は床に直座りした。
「じゃあ、俺も――の前に」
失礼、といったアルトは――リッカを抱き上げた。優しく抱っこすると、よしよしと撫でた。
「……アルト? 犬苦手じゃないの?」
私、てっきり。なんだ、それなら――って思っていたのに。
「うん、苦手だよ?」
彼は柔らかく笑った。発言と表情が合ってない。彼はリッカを抱えたまま、部屋の扉を開ける。リッカをそっと廊下の地面におろすと――部屋の鍵を閉めた。
「アルト!?」
アルトはあれだけ丁重に扱っておきながら、リッカを部屋から追い出したのだ。私は裏切られた気持ちだった。
「うん、苦手だし。俺の空間に入ってくるのが、耐えられなくて」
ドアの外で叩く音と、かすかに吠える声が聞こえる。リッカはそれを続けていた。
「……あっれー? シャーロット、しつけなってないの? うちの寮生、いじめたりはしないだろうけど――追い出したりはするんじゃない?」
「!」
アルトの冷めた言い方に、私は愕然とした。リッカも聞こえたかはわからない、それでも大人しくはなった。
「リッカ、ちょっとだけ待っててね? 話終わったら、お散歩いこうね?」
これも聞こえたかはわからない。それでも私は声をかけずにはいられなかった。
……アルトが犬嫌いなのはわかった。リッカもわかって大人しくしてくれている。リッカ、待っててね。なるべく早目に終わらせるから……。
「……ほんとずるいよな」
アルトが暗い顔して呟く。彼は私の隣に座った。
「……」
二人の背後にあるのは、アルトがいつも使っているベッドだ。うん、いつまでもこうしてられない。私は話をすることにした。
「あのさ、アルト。君は信じられないかもしれない。でも、言いふらしたりしないって。私は信じてるから」
「信じてるよ」
「え……」
いつの間に? ……アルトの顔がこんなにも近づいていたの? 至近距離で私を見つめていた。
「シャーロットの言うことなら、信じる」
「アルト……」
そっか……信じてくれるんだ。見つめられて落ち着きはしないものの、私は意を決して打ち明けることにした。
「――私はやり直しにきたの。私達が死んだ未来を変える為に」
「え、死ぬ……?」
「うん。女神像が破壊されることになって、私が容疑者なってしまった」
「いや、待って。……ごめん、ちゃんと聞くね。なんで君が」
私はきっと、アルトにとって信じ難いごとを話している。それでも彼は耳を傾けてくれようとしていた。ありがとう、アルト……。
「……私にもわからない。私が無実と証明もできなくて。私が、犯人として、処刑されて。私は、あの人達に……」
「あの人達?」
「うん、あの人達……」
「言って」
アルトは問い詰めてくる。うん、アルトは真剣に聞いてくれている。私も打ち明けよう。
「私は……金糸雀隊に殺された。私だけじゃないの、アルトも。モルゲン先生も」
リッカ、と言いかけたところで止めた。苦手、嫌い。それ以上の良くない思いをアルトは抱いている気がしてならなかった。
「……シャーロットが、金糸雀隊に? ……シャーロットが」
アルトはそればかりを繰り返している。
「アルト……?」
「あ、ごめん……話、途中だったよね」
私に呼びかけられたからか、アルトは意識を戻す。
「ううん、話はこれくらいだよ。私、アルトに伝えておきたかったの。自衛にもなるし……協力してほしくて」
「協力……」
「もちろん、危なくない範囲で。それとなく女神像を見守ってもらったりとか」
「もちろんだよ、シャーロット!」
「!」
アルトは勢いよく返事した。私の手を両手で包む。強く握りしめた手から、彼の強い思いが伝ってくる。私は驚いたけれど、その手を振りほどくことはしなかった……できなかった。
「俺、絶対にシャーロットを守るから! 本当に、言ってくれてありがとう……」
「アルト……」
「今度こそ、絶対に守るから……」
アルトは私の両手を自身の額に合わせた。祈るようだった。
……気にしてるの? ――幼少期、私が怪我をしたこと……ずっと気にしていたんだ。
「お邪魔します……」
「うん、いらっしゃい」
アルトから剣呑とした雰囲気は消えていた。いつもの空気感に戻った?
アルトの部屋は清掃が行き届いており、一つ一つが整理されていた。塵一つさえないような、大層綺麗な部屋だった。私はごくりとする。これは部屋を汚せないと。腕の中のリッカもそうだ。粗相は決してしてはいけないと。
「シャーリー、椅子に座っててくれる? お茶用意するね」
椅子といっても、部屋にある椅子は一つだった。立ってようかな? リッカは腕の中のままでね。
「……あ、そうか。抜けてた。なんで俺、椅子二つ用意しとかなかったんだろ。じゃあ、クッションはあるから。座っててくれる?」
「うん」
アルトが座ったタイミングで座ることにした。お茶まで用意してくれるようなので、さすがに悪く思えてきた。
「あ、お構いなく」
「俺がそうしたいの。とっておきのあるんだ」
「それじゃ、有難くいただくね。せめて手土産もってくれば良かったね」
手伝おうにも、腕の中には震えるリッカがいる。いただく一方になっちゃった。申し訳ない。
「いいんだって。シャーロットは身一つで来てくれればいいの」
「え。あはは……」
身一つ。ううん……深い意味はないよね。私は笑った。
「……」
「あはは……」
アルトが無言でこっちを見てくるけど、私は下手くそな笑いを続けていた。
「はは……」
部屋をじろじろ見るわけにもいかない。リッカを抱っこしたまま、私は窓の外を見ていた。男子寮から見えるそれを目視した――春の女神像は健在だ。
「お待たせ、シャーロット。あれ? 座っててよ」
アルトがカップとお茶菓子をトレイにのせてやってきた。ローテーブルにそれらを置く。
「あ、うん」
背中にクッションを借りて、私は床に直座りした。
「じゃあ、俺も――の前に」
失礼、といったアルトは――リッカを抱き上げた。優しく抱っこすると、よしよしと撫でた。
「……アルト? 犬苦手じゃないの?」
私、てっきり。なんだ、それなら――って思っていたのに。
「うん、苦手だよ?」
彼は柔らかく笑った。発言と表情が合ってない。彼はリッカを抱えたまま、部屋の扉を開ける。リッカをそっと廊下の地面におろすと――部屋の鍵を閉めた。
「アルト!?」
アルトはあれだけ丁重に扱っておきながら、リッカを部屋から追い出したのだ。私は裏切られた気持ちだった。
「うん、苦手だし。俺の空間に入ってくるのが、耐えられなくて」
ドアの外で叩く音と、かすかに吠える声が聞こえる。リッカはそれを続けていた。
「……あっれー? シャーロット、しつけなってないの? うちの寮生、いじめたりはしないだろうけど――追い出したりはするんじゃない?」
「!」
アルトの冷めた言い方に、私は愕然とした。リッカも聞こえたかはわからない、それでも大人しくはなった。
「リッカ、ちょっとだけ待っててね? 話終わったら、お散歩いこうね?」
これも聞こえたかはわからない。それでも私は声をかけずにはいられなかった。
……アルトが犬嫌いなのはわかった。リッカもわかって大人しくしてくれている。リッカ、待っててね。なるべく早目に終わらせるから……。
「……ほんとずるいよな」
アルトが暗い顔して呟く。彼は私の隣に座った。
「……」
二人の背後にあるのは、アルトがいつも使っているベッドだ。うん、いつまでもこうしてられない。私は話をすることにした。
「あのさ、アルト。君は信じられないかもしれない。でも、言いふらしたりしないって。私は信じてるから」
「信じてるよ」
「え……」
いつの間に? ……アルトの顔がこんなにも近づいていたの? 至近距離で私を見つめていた。
「シャーロットの言うことなら、信じる」
「アルト……」
そっか……信じてくれるんだ。見つめられて落ち着きはしないものの、私は意を決して打ち明けることにした。
「――私はやり直しにきたの。私達が死んだ未来を変える為に」
「え、死ぬ……?」
「うん。女神像が破壊されることになって、私が容疑者なってしまった」
「いや、待って。……ごめん、ちゃんと聞くね。なんで君が」
私はきっと、アルトにとって信じ難いごとを話している。それでも彼は耳を傾けてくれようとしていた。ありがとう、アルト……。
「……私にもわからない。私が無実と証明もできなくて。私が、犯人として、処刑されて。私は、あの人達に……」
「あの人達?」
「うん、あの人達……」
「言って」
アルトは問い詰めてくる。うん、アルトは真剣に聞いてくれている。私も打ち明けよう。
「私は……金糸雀隊に殺された。私だけじゃないの、アルトも。モルゲン先生も」
リッカ、と言いかけたところで止めた。苦手、嫌い。それ以上の良くない思いをアルトは抱いている気がしてならなかった。
「……シャーロットが、金糸雀隊に? ……シャーロットが」
アルトはそればかりを繰り返している。
「アルト……?」
「あ、ごめん……話、途中だったよね」
私に呼びかけられたからか、アルトは意識を戻す。
「ううん、話はこれくらいだよ。私、アルトに伝えておきたかったの。自衛にもなるし……協力してほしくて」
「協力……」
「もちろん、危なくない範囲で。それとなく女神像を見守ってもらったりとか」
「もちろんだよ、シャーロット!」
「!」
アルトは勢いよく返事した。私の手を両手で包む。強く握りしめた手から、彼の強い思いが伝ってくる。私は驚いたけれど、その手を振りほどくことはしなかった……できなかった。
「俺、絶対にシャーロットを守るから! 本当に、言ってくれてありがとう……」
「アルト……」
「今度こそ、絶対に守るから……」
アルトは私の両手を自身の額に合わせた。祈るようだった。
……気にしてるの? ――幼少期、私が怪我をしたこと……ずっと気にしていたんだ。
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