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第一章
見守ることしか
しおりを挟む私はリッカを連れて、男子寮の階段を下りていた。男子生徒が大量にいるし、やたらと見られてもいる。もちろん慣れないけれど……かといって、アルトとも一緒にはいられなかった。私は腰を低く、会釈をしながら下りていったけど。
「寮生発見ーって、授業サボる気かー? こらこら逃げるなー!」
先程の陽気な人。彼はそこらにいる寮生に声をかけていく。一人ひとり名前を呼んでいた彼は、分け隔てなく接していた。アルト相手でもそうだったよね。
「……あ、シャーリーちゃん。帰り?」
「あ、はい……お邪魔しました」
男子寮入口まで来たところで、彼に話しかけられた。私はリッカを抱っこしたままお辞儀をした。
「敬語とかいいってーオレら、タメじゃん?」
「そうだったんです……そうだったの?」
「そっ。でもってオレ、寮長です! ……だからさー、気になって気になって」
彼、男子寮の寮長さんはリッカの背中を撫でていた。そっか……リッカの吠えた声、聞こえていたよね……。
「大丈夫だった……?」
「……うん。色々とお騒がせしちゃって、ごめんなさい」
「……。それは全然ー! キミが辛くないなら、ねっ?」
私はそう返事するしかなかった。この人、初対面なのに話しやすい。きっと、いい人なんだって思う。だけど……本当のことは話せない。
「良かったらさ、また遊びに来てよー? なー、リッカちゃーん?」
今度はリッカの顎の下を撫でていた。この子も緊張が緩んだのか、口元が笑っていた。なんだろ……不思議な人だね。
「……っと、注意しているヤツがこれだよ。オレも学校行かないとなんで、またねー!」
「うん、またね」
私は男子寮長さんと別れた。リッカも彼の背中をいつまでも見送っていた。緊張しいなこの子が懐いてるなんて。
すぐに女子寮には戻らず、リッカを地面に下ろした。散歩として校内を散策することにした。人気のない外れまできたところで、リッカは人語で語りかけてきた。
「……シャーリー、大丈夫?」
「……!」
リッカも心配そうだった。しっぽも下がっている。
「うん、大丈夫だよ……アルトともね、お話できたから」
話はできたけれど、今はアルトの顔も見れそうになかった。
「でも、それじゃ……」
それでいいのかな。ひとまず、アルトが自衛に動いてくれればいいけれど……。
「……そうだ。リッカ、喉渇いたでしょ。売店でお水買ってこうね」
「お水。僕、モルゲンのところまで我慢する」
「モルゲン先生……?」
「だって、アルトとお話したでしょ? モルゲンに教えないの?」
リッカは無垢な瞳で訊いてきた。その純粋さが私にとって、痛く眩しかった。
「……そうだね。モルゲン先生にいただこうね」
「お水ー、お水ー」
歌う犬に続いて私も歩いていく。癒される歌声……。
学園の広場にさしかかった。相も変わらず警備兵や金糸雀隊がついていた。そこには先生もいた。彼は今夜一杯貼るつもりなんだ。他の兵達とも打ち合わせをしていた。
「わふっ」
リッカは私のズボンの裾を加えた。去ろうと言っているみたい。先生もこちらには気づいてない。
「……うん、帰ろうか」
私は迂闊に近寄れない。リッカと共に帰寮することにした。
これだけの警備なんだから。モルゲン先生だってついている。心配するようなことはないと。
ないはずなんだ。
自室に戻ってくると、まずリッカに水を与えた。彼はボウルに顔を突っ込んで飲んでいた。かっこんでいたともいえた。
「無事だね……」
窓から見るのは女神像だ。こうして見守ることしかできない。
歯痒い思いを抱えながら一日を終えた。
――迎えるは、あの日。女神像の破壊がされ、私が犯人にされた日だ。この日がまた、やっていたのだ。
「!?」
私はベッドから飛び起きた。部屋が暗い、まだ夜明け直後だ。胸騒ぎが止まらない。
「……リッカ?」
リッカはすでに起きており、扉を連打していた。早く開けてほしいかのように。
「女神像!」
駆られるように、私はカーテンを開けた。
大丈夫だったはずだ。モルゲン先生も、学園の警備兵も。あの金糸雀隊もいて。女神像が壊されるはずがないと。
期待は打ち砕かれた。黎明の空の下、あるはずのものが無かった。
「ああ……」
――女神像は、破壊されていた。
「……?」
空に舞っているのはビラ紙だ。そこに写っているのは自分の顔写真だろうと。私はそう思いながらも、目をそらさず見た。
「……!?」
私は言葉を失った。
自分の顔写真ではない――『彼』の顔写真だった。
「リッカ、お留守番していて!」
「!」
私は衝動的に走りだす。部屋にリッカを置いていくことにした。反応が遅れたリッカもついていこうにも、扉は閉められてしまった。
寮を出て、私は路をつっきる。目指すは、学園の広場だ。
耳に届いたのは拡声器による声だ。
『春の女神像破壊事件、現行犯逮捕。犯人の名は、アルト・モルゲン。アルト・モルゲン――』
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