春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
55 / 557
第一章

ついでに壊れた



 私は息を切らしながら、学園の広場を訪れた。そこには静けさがあった。

「……?」

 前のように、見物客が押し寄せているわけでもない。生徒達の姿はない。あるのは。

「どういうこと……?」

 横たわった警備兵、そして金糸雀隊達だった。彼らは地面に伏せている。気絶でもしているの……?

「――あ、シャーロットだぁ。見てみてー」
「アルト!?」

 声がした方を見る。アルトがそこにいた。彼は。
 ――壊れた女神像の上に腰かけて。興奮で目を血走らせ、舌なめずりをしていた。彼の衣服についているのは、血だ。

「な、何をしたの!?」

 目の前の惨状の衝撃――あのアルトがと。私は聞かずいられなかった。

「え? 女神像のこと? 勝手に壊れただけだけど」
「勝手に……? 勝手に壊れるなんて」
「うーん? 気づいたら、かな? こいつらシメてたら、巻き添え的に?」

 巻き添えって……そう、アルトは故意ではなかった。だとしても――。

「アルト……そうだとしても、君になってるんだよ」

 アルトは『えー?』と笑う。大方、兵相手にアルトが大立ち回りしたんだろうね。その時に女神像は巻き添えで壊れてしまった。
 アルトは少なくとも、女神像を壊す気はなかったようだった。ただ……彼が壊した犯人とされているのは事実だ。

「つうかさ、シャーロット。こいつらのせいで、なんでしょ?」
「それは……」

 横たわっていたのは、金糸雀隊。彼らは確かに……命を奪いはした。

「……私の話を聞いたから。私が、話したから?」

 私は両手で顔を覆った。その話をアルトに話したのは……この私。

「……いますぐ、にげろ」
「先生!?」

 木にもたれかかって座っていたのはモルゲン先生。かなりの痛手を負っていた。

「……悪い。あいつを、止められなかった」
「……!?」

 暴れるアルトを、金糸雀隊に襲いかかる弟を。先生は止めようとしたの?

「兄貴がさ、無抵抗だからさ? 半殺し程度にしといてあげた」
「無抵抗、どうこうじゃない……アルトのお兄さんじゃない!」
 ……アルト、君は何を言っているの? どうして、そんなことを……!

「えー。そんなこというの? ……じゃあ、殺しときゃよかった」

 今からでもそうするか、と。アルトは像から下りた。つかつかと兄の元へと歩いていく。

「だめだよ、アルト!」
「えー? じゃあ、シャーロット……さっきの続き、する? 俺、君最優先だからさ。それでもいいよ?」
「!?」

 アルトは私の腰を抱き寄せた。彼は私に触れる――血に塗れた手で。

「……やめろ、アルト」

 先生は立ち上がろうとするも、脱力してしまい倒れてしまう。その様をアルトは見下ろす。

「恵まれたオニイチャンは、お優しいなぁ。弟相手だから手加減してくれて。本気で止めてれば良かったのにね」
「……ああ、俺が甘かったな。こんな事になってしまった。でも、避けたいことだってあるんだよ。本気でやり合って――お前を殺したくない」
「……ほんと、ムカつくんだよ!」

 アルトは先生の近くにある木を蹴った。木が激しく揺れる。

「ああ、俺が悪かった。だから、逃げろ……」
「ははっ、女生徒の心配とか。モルゲン先生はお優しいねー……逢ったばかりで、もうお気に入りかよ」
「……お前もだ、アルト。すぐにでも遠くに……シャーロットを連れてでもだ」
「は?」

 先生は苦しそうに話す。彼は今すぐには動けない状態だった。

「悪いな、シャーロット……弟を頼む。こいつを、どうにか……」
「先生……」

 そうだ、と私も気がつく。ここにいる兵達をどうにかしたとしても、第二、第三の追手がやってくる――アルト・モルゲンは国中から追われることになってしまった。

「……」

 先生は致命傷とまではいかない。保護されるだろうし、彼にリッカのことを頼むしかない。

 今一番まずいのはアルトなんだ。狙われているのは彼を。

「アルトを……」

 愛しているという理由で、あれだけ欲望をぶつけてきた。相手は女神像を壊しても何とも思ってない――そんな男を。

「……」

 私は俯いてしまった……私は。

「……?」

 互いに意識がいっている兄弟は気がついてないけど、私は違った。私は――殺気を察知していた。

「……危ない!」
「え――」

 アルトに狙いを定めて短剣が飛んでくる。私は氷の刃で弾き飛ばす。私は飛ばしてきた方向を見た。そこには。
 ――息が絶え絶えながらも、立ち上がった金糸雀隊がいた。その者は。

「……大罪人め。死をもって償え」

 二本目の刃をも投げ飛ばした。咄嗟の事だった。だめ……! 氷の力では間に合わないと判断し――私はアルトを突き飛ばした。

「シャーロット……?」

 よろめくアルトが目に映る。

 私は……左胸を貫かれ、崩れ落ちながら……。

「……逃げ、て」

 最期の言葉、だった。アルトにも、自分にも絶望しながら。

 自分で自分が呆れてならない……アルトにどのようにされようと。

『ちゃんと店のこと大事にしてんだからさ。俺、そこはわかってるから』
『俺は大丈夫だよ。ねえ、シャーロット。何かあったら、言ってね。話しづらいことだったら、待つから』

 優しかったアルトが消えてはくれなかった。

「シャーロット……シャーロット! くそっ!!」

 アルトが叫んでいる。私の亡骸を離さない彼は、残った金糸雀隊からの報復を受け、八つ裂きにされていた。アルトは守るように、私を抱きしめたまま――。

「……」

 先生は虚ろな瞳で見ていた。彼の心は喪失しているのか。

「やだよ、こんなのいやだよぉ……」

 部屋を抜け出してきたリッカが、静かに鳴いていた。



 日付が変わるまでもなく、結末を迎えた。

 ゴーンゴーン。鐘の音が国中に響き渡った。顛末を告げる音だ。

 ――女神像破壊の犯人。アルト・モルゲンは処されたと。





「……今回も、駄目だった」

 目覚めると私は鳥籠の中にいた。暗闇の中、うずくまる。

「うう、シャーリー……」

 鳥籠の外側で、リッカが項垂れていた。彼は落ち込んでいた。

「……怖い思い、させたね」

 私は隙間から手を出して、リッカを撫でた。

「ううん。怖い思いをしたのは、シャーリーだよ……僕、何もできなかった……」
「そんな……」

 私は自分の左胸を見た。命を奪ったのは、またしても金糸雀隊だ。

「……」

 ただ、今回はそれだけではない。アルトだ。アルトさえ大人しくしてくれたなら。

「……次こそは。リッカ、私も考えるから」
「シャーリー?」
「また、やり直そう」
「うん……」

 私が無理にでも自分を奮い立たせる中、リッカは沈んだままだった。彼はちらちらと鍵の方を見ている。

「錠前がどうしたの?」

 いつもの大型の錠前、中型が二つではなかったの? ううん、私は驚愕した。

「!?」

 中型だった一つが、サイズを増していた。変哲もなかったそれが、いまや変色していた。色は赤黒くなっており、ドクンドクンと波打っていた。鍵穴にあたる部分が口となっており、舌なめずりをしていた。

 グロテスクなそれは、他の錠前をも食らいつくそうともしていた。

「僕たちが、やり直したから? ……ごめんなさい、僕もわからない」
「ううん……リッカ、大丈夫だから」

 私は視線をリッカに戻した。自分に言い聞かせるつもりでもあった。私は言う。

「やり直しも無駄じゃない。私達、前よりは知ることができてる。ね、リッカ?」
「シャーリー。うん……!」

 まだ諦めるわけにはいかないと、私たちは頷き合った。

感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。