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第一章
ついでに壊れた
私は息を切らしながら、学園の広場を訪れた。そこには静けさがあった。
「……?」
前のように、見物客が押し寄せているわけでもない。生徒達の姿はない。あるのは。
「どういうこと……?」
横たわった警備兵、そして金糸雀隊達だった。彼らは地面に伏せている。気絶でもしているの……?
「――あ、シャーロットだぁ。見てみてー」
「アルト!?」
声がした方を見る。アルトがそこにいた。彼は。
――壊れた女神像の上に腰かけて。興奮で目を血走らせ、舌なめずりをしていた。彼の衣服についているのは、血だ。
「な、何をしたの!?」
目の前の惨状の衝撃――あのアルトがと。私は聞かずいられなかった。
「え? 女神像のこと? 勝手に壊れただけだけど」
「勝手に……? 勝手に壊れるなんて」
「うーん? 気づいたら、かな? こいつらシメてたら、巻き添え的に?」
巻き添えって……そう、アルトは故意ではなかった。だとしても――。
「アルト……そうだとしても、君になってるんだよ」
アルトは『えー?』と笑う。大方、兵相手にアルトが大立ち回りしたんだろうね。その時に女神像は巻き添えで壊れてしまった。
アルトは少なくとも、女神像を壊す気はなかったようだった。ただ……彼が壊した犯人とされているのは事実だ。
「つうかさ、シャーロット。こいつらのせいで、なんでしょ?」
「それは……」
横たわっていたのは、金糸雀隊。彼らは確かに……命を奪いはした。
「……私の話を聞いたから。私が、話したから?」
私は両手で顔を覆った。その話をアルトに話したのは……この私。
「……いますぐ、にげろ」
「先生!?」
木にもたれかかって座っていたのはモルゲン先生。かなりの痛手を負っていた。
「……悪い。あいつを、止められなかった」
「……!?」
暴れるアルトを、金糸雀隊に襲いかかる弟を。先生は止めようとしたの?
「兄貴がさ、無抵抗だからさ? 半殺し程度にしといてあげた」
「無抵抗、どうこうじゃない……アルトのお兄さんじゃない!」
……アルト、君は何を言っているの? どうして、そんなことを……!
「えー。そんなこというの? ……じゃあ、殺しときゃよかった」
今からでもそうするか、と。アルトは像から下りた。つかつかと兄の元へと歩いていく。
「だめだよ、アルト!」
「えー? じゃあ、シャーロット……さっきの続き、する? 俺、君最優先だからさ。それでもいいよ?」
「!?」
アルトは私の腰を抱き寄せた。彼は私に触れる――血に塗れた手で。
「……やめろ、アルト」
先生は立ち上がろうとするも、脱力してしまい倒れてしまう。その様をアルトは見下ろす。
「恵まれたオニイチャンは、お優しいなぁ。弟相手だから手加減してくれて。本気で止めてれば良かったのにね」
「……ああ、俺が甘かったな。こんな事になってしまった。でも、避けたいことだってあるんだよ。本気でやり合って――お前を殺したくない」
「……ほんと、ムカつくんだよ!」
アルトは先生の近くにある木を蹴った。木が激しく揺れる。
「ああ、俺が悪かった。だから、逃げろ……」
「ははっ、女生徒の心配とか。モルゲン先生はお優しいねー……逢ったばかりで、もうお気に入りかよ」
「……お前もだ、アルト。すぐにでも遠くに……シャーロットを連れてでもだ」
「は?」
先生は苦しそうに話す。彼は今すぐには動けない状態だった。
「悪いな、シャーロット……弟を頼む。こいつを、どうにか……」
「先生……」
そうだ、と私も気がつく。ここにいる兵達をどうにかしたとしても、第二、第三の追手がやってくる――アルト・モルゲンは国中から追われることになってしまった。
「……」
先生は致命傷とまではいかない。保護されるだろうし、彼にリッカのことを頼むしかない。
今一番まずいのはアルトなんだ。狙われているのは彼を。
「アルトを……」
愛しているという理由で、あれだけ欲望をぶつけてきた。相手は女神像を壊しても何とも思ってない――そんな男を。
「……」
私は俯いてしまった……私は。
「……?」
互いに意識がいっている兄弟は気がついてないけど、私は違った。私は――殺気を察知していた。
「……危ない!」
「え――」
アルトに狙いを定めて短剣が飛んでくる。私は氷の刃で弾き飛ばす。私は飛ばしてきた方向を見た。そこには。
――息が絶え絶えながらも、立ち上がった金糸雀隊がいた。その者は。
「……大罪人め。死をもって償え」
二本目の刃をも投げ飛ばした。咄嗟の事だった。だめ……! 氷の力では間に合わないと判断し――私はアルトを突き飛ばした。
「シャーロット……?」
よろめくアルトが目に映る。
私は……左胸を貫かれ、崩れ落ちながら……。
「……逃げ、て」
最期の言葉、だった。アルトにも、自分にも絶望しながら。
自分で自分が呆れてならない……アルトにどのようにされようと。
『ちゃんと店のこと大事にしてんだからさ。俺、そこはわかってるから』
『俺は大丈夫だよ。ねえ、シャーロット。何かあったら、言ってね。話しづらいことだったら、待つから』
優しかったアルトが消えてはくれなかった。
「シャーロット……シャーロット! くそっ!!」
アルトが叫んでいる。私の亡骸を離さない彼は、残った金糸雀隊からの報復を受け、八つ裂きにされていた。アルトは守るように、私を抱きしめたまま――。
「……」
先生は虚ろな瞳で見ていた。彼の心は喪失しているのか。
「やだよ、こんなのいやだよぉ……」
部屋を抜け出してきたリッカが、静かに鳴いていた。
日付が変わるまでもなく、結末を迎えた。
ゴーンゴーン。鐘の音が国中に響き渡った。顛末を告げる音だ。
――女神像破壊の犯人。アルト・モルゲンは処されたと。
「……今回も、駄目だった」
目覚めると私は鳥籠の中にいた。暗闇の中、うずくまる。
「うう、シャーリー……」
鳥籠の外側で、リッカが項垂れていた。彼は落ち込んでいた。
「……怖い思い、させたね」
私は隙間から手を出して、リッカを撫でた。
「ううん。怖い思いをしたのは、シャーリーだよ……僕、何もできなかった……」
「そんな……」
私は自分の左胸を見た。命を奪ったのは、またしても金糸雀隊だ。
「……」
ただ、今回はそれだけではない。アルトだ。アルトさえ大人しくしてくれたなら。
「……次こそは。リッカ、私も考えるから」
「シャーリー?」
「また、やり直そう」
「うん……」
私が無理にでも自分を奮い立たせる中、リッカは沈んだままだった。彼はちらちらと鍵の方を見ている。
「錠前がどうしたの?」
いつもの大型の錠前、中型が二つではなかったの? ううん、私は驚愕した。
「!?」
中型だった一つが、サイズを増していた。変哲もなかったそれが、いまや変色していた。色は赤黒くなっており、ドクンドクンと波打っていた。鍵穴にあたる部分が口となっており、舌なめずりをしていた。
グロテスクなそれは、他の錠前をも食らいつくそうともしていた。
「僕たちが、やり直したから? ……ごめんなさい、僕もわからない」
「ううん……リッカ、大丈夫だから」
私は視線をリッカに戻した。自分に言い聞かせるつもりでもあった。私は言う。
「やり直しも無駄じゃない。私達、前よりは知ることができてる。ね、リッカ?」
「シャーリー。うん……!」
まだ諦めるわけにはいかないと、私たちは頷き合った。
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