春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

ずっと

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 この日も私は自治委員会を訪れていた。学園内でも巨大な力をもっている。彼らが力になっているのなら、心強いことこの上ない。

「ええ、わたくし共も女神像は大事に考えております。ですが、どう貴女のお言葉を信じればよろしいのかしら? 戯言と思うのが普通ではなくて?」

 答えは決まってそうだった。学園の生徒でもない、赤の他人同然からの言葉だから。

「――でしたら、私が一晩中張り込んでます。その上で、ご判断のほどお願い致します」

 一番疑われる私が、一番疑われる状況にいる。聞いたら先生も反対するようなこと。

「……」

 金糸雀隊が来なくなった頃から、私は何度か試みていた。自分が見張るしかないと。猛反対していた先生も、結局は付き合ってもくれていた――結果、共犯扱いとされてしまった。

 自治委員会を巻き込むのは初めてだった。乗ってくれる可能性も低い。それでも勝負に出たかったんだ。

「まあ」

 カイゼリン様はいつもの豪華な椅子に座りながら、思案していた。隣にいるリヒターさんに相談しているようだ。

「……」

 リヒターさんが見ている。彼は私を観察しているようだった。

「――シャーロットさん? わたくしも、同じ女神像を崇拝する身として。我が自治委員を派遣してもよろしくてよ。その一日でよいのでしたら、それくらいはよいでしょうよ」
「カイゼリン様! ありがとうございます!」

 私は深くお辞儀した。感謝の気持ちで一杯だった。

「ええ、かまわないわよ。では――リヒター、一晩中ついていてあげなさい」

 私は勢い良く顔を上げた。まさかのリヒターさん一人……!? 有難い話だけれど、彼にすごく負担がいくよね……。

「仰せのままに、シェリア様」

 リヒターさんは顔色一つ変えずに、カイゼリン様に恭しく接していた。

「……よろしくお願い致します。リヒターさん」
「……」

 リヒターさん、また無言で見てくる……。

「――いえ、失礼致しました。シェリア様の命は第一ですから。お気になさらず」
「はい……」

 すごく忠実な人なんだ、リヒターさんって。

「……うん」

 私の心も軽くなった。自治委員会のアリバイ証言は心強い。




 その夜を迎えた。防寒具を着て、女神像前へと座り込んだ。犯行時間は毎回夜から朝にかけてだった。こっちは徹夜する覚悟。

「……」

 リヒターさんも待機してくれていた。彼の恰好は、自治委員会用の制服だった。つまり、防寒対策が何もなされてない。厚手素材とはいえ、限度があるよね?

「……」
「……」

 二人の間には会話がない。もうね、それでも良かった。といっても、気になっていたことを尋ねてみることにした。

「寒くないですか?」
「寒いです」
「ですよね。これ、良かったら――」

 リヒターさんは即答だった。寒いんだ……それならと私は自分の防寒具を貸そうとする。

「いえ、お構いなく。寒かろうと熱かろうと、この服装に誇りを持つべきだと。シェリア様のお言葉です」

 これだけ寒かろうとそこまでの覚悟が……なら、私は彼の健康を祈るくらいしか。

「立派だとは思います。ご無理はなさらないでくださいね」
「はい」

 リヒターさんは返事をしてくれたけれど、それきり。

「……」
「……」

 またしても沈黙が流れる。うん、もうそれでいいんだ……。



 時間が流れる。賊の気配はないものの、いずれは現れるはず。

「――必死ですね」
「え」

 リヒターさんは一定の調子で言ってきた。私は困惑してばかり……とりあえず煽られているわけじゃないよね? ……リヒターさん、煽ってないよね?
 この人がわからない。なにせ、この表情のなさ。その状態のままで話を続けてきた。

「女神像に思い入れでもあるのですか」
「思い入れは、あります。綺麗だと思いましたし、こう、見守っておられるなって」
「さようでございますか」
「はい、大事な像だと思います。だから、失いたくないんです」

 私のその言葉は、強い気持ちが込められていた。女神像が大事なのも本当、そして喪失しないことで守られる未来もあるから。
 そうだね、リヒターさんの言う通りだ。私たちは必死だった。

「……」

 リヒターさんは黙ってしまった。私も黙ってしまう。


 静かだ。本当に静かだった。このまま、何事もなければいいのにって思っていた――その時だった。
 誰かが倒れた音がした。この場にいるのは、私と――。

「リヒターさん!?」
「……」

 無言で倒れたのはリヒターさんだった。私は慌てて彼の元へ。失礼など気にしてられない。私は顔を近づけて、呼吸を確認する。うん、呼吸はしている。

「でも、頭打ってるんじゃ――」

 頭からいった場合、相当まずいよね……応急処置でも。私が動こうとした時。
 ――覆うのは影。

「だ、誰……!?」

 賊が現れた……!? 振り返ろうとしたら。

「!?」

 大きな手で視界を塞がれた。私の口元に放られたのは、覚えのある匂いの――睡眠薬だった。

「……手荒なこと、したくないんだ。かといって、暴れられても困るし」
「……」

 意識が、混濁していく。私は何者かがに抱え上げられ、そのまま連れられていく。

 何者……ううん、私は『彼』を知っている。彼は――。

 ああ。意識が、遠のいていく。

「ああー……沸いてくるなぁ。次々と、次々と。シャーロットの周りに、邪魔者ばかりが沸いてくる。ねえ、シャーロット。俺がどんな気持ちで見ていたと思う。ずっと」

 ゆらりと揺られながら。

「ずっと。不思議だった。記憶にないはずなのにね。ずっと、ずっと。君が、他の奴と話すのを。他の奴から触れられるのを。他の奴を思うのを。ずっと、見てきて。ずっと、見せつけられてきて。ずっと、ずっと。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――」

 いつかリッカが言っていた――代償とはなんだったのか。意識が落ちゆく中、考える。

『――雪みたいだね。積もって、積もりつづけていく。でも、雪みたく溶けない。ずっと残ってるの』

 それが彼からの思い、愛が含まれているとしたら。不用意に積もり、積もらせてきてしまったとしたら。

 もう溶けもしないとしたら。終わりがないのだとしたら。



 代償とはなんなの。何が代償だったというの。


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