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第一章
愛される日々①
暦は二月の下旬となった。寒さは和らぎつつあり、春ももうじき訪れてくる。
春と司る女神の像。対の女神像は健在である――。
ダイヤノクト国にあるのどかな村、エーデル。そこには、氷の魔力と治療薬を提供する小さな店があった。評判はとても良く――若い夫婦が切り盛りしているという。
そこは魔法屋。店名は『シャーロット・モルゲンの魔法屋』――。
「――あ、あの。まだ籍は入れてないんです!」
店は今日も営業だった。今日も盛り上がりを見せており、常連客も会話に花を咲かせていた。盛り上がりというか、一方的にいじられているのは、あの看板についてだった。
そう、看板。まだ結婚はしていないにも関わらず……アルトの先走りだった。
あの看板名だと、誰しもが『やっと、アルトの思いが通じたのか』って。誰もが思ったことみたい。常連さんたち、良かった良かったと泣いていた。
「じゃあ、アルトちゃんの妄想に付き合わされたってことか?」
「思いあまって、勝手にやるとか。そこまでアルトは思い詰めていたのか」
常連さんたち、アルトの暴走って結論づけようとしていた。うん、そこは訂正しよう……恥ずかしくたって。
「あれは、その、アルトが勝手に書き換えたというか。でも……結婚するのは本当です。私の誕生日を待ってからになるので」
この国の結婚年齢。アルトは満たしているものの、私がまだだった。もうじき迎える私の誕生日をもって、二人は籍を入れることとなった。
「えー? 俺達もうさ、結婚も同然じゃない? だって、俺住んでるし」
二階から下りてきたのは、アルトだった。学校帰りの彼は制服から着替え、仕事用の服装に着替えていた。学校帰り、休日はこっちの仕事を手伝ってくれていた。
私は彼に瞳を見つめた。今日も綺麗な――赤色の瞳。
「ど、ど、同棲というか……」
アルトは両手で顔を覆っていた。一人で顔を赤くして、照れていた。そんな彼を周囲は揶揄う。やめてよー、とアルトは満更でもなさそうだった。
「同棲は……まあ、そうだけど」
「シャーロットがデレた!」
やったぁとアルトがはしゃぐ。周りも祝福してきた。デレたって……。
「……とっくにデレてるんだけどな」
「うひゃぁ……」
私の直球の言葉に、アルトは締まりのない笑顔をしていた。
「……って、アルト。看板名の話なんだけど。せめて、アルトの名前も入れようよ……私一人の店じゃないんだし。アルト?」
「うひゃぁ、デレのコンボだぁ……。俺の心臓もたねぇ……」
まだ顔を真っ赤にしながら、アルトは自身の左胸を押さえていた。
「はあはあ。落ち着け、俺! ……ほら、俺さ。学生だし。せいぜい手伝い程度じゃん」
「そんなことないよ。すごく助かってる」
「はあ、シャーロット優し。つか、いつでも辞めたいんだけどさ。もう、辞めたい。辞めてぇ」
これはアルトも気にしていること。私の負担を軽くする為に、もっと店に入りたいって。
「もったいないよ。せっかく学校に通えるんだから。アルトが嫌になったならいいんだ。でも私の為っていうなら、辞めないでほしい」
「はあ、シャーロット天使。わかってるよ。ちゃんとお勉強してきます。店に君を残して。はあ、学生結婚つれぇ……」
アルトは渋々ながらも学園を通い続けている。そうだ、と彼は言う。
「あのさ、シャーロットに推薦状来てたよね。今からでも聞いてみたら? そうしたら、一緒に通えるし。放課後デート三昧じゃん!」
「ふふ、アルト、色んなところに連れてってくれそう」
私は笑いながら想像する。綺麗な景色のところや、告白スポット。雰囲気を変えて二人きりになりやすいところなど。学園内の至るところに連れていってくれそう。
「……あれ?」
まるで実際に行ったことがある感覚だった。そんなはずないのに、と私は疑問を抱いていた。そもそも学園自体訪れたことがないのにと。
学園? 前世でもあるまいし、無縁だったでしょ?
私にはこの場所だけ―アルトの側にいること。それが全てだったじゃない? ……うん、変な感じ。
「シャーロット?」
「ううん、何でもない……今は、いいかな。でも、いつかは通ってみたいな。さすがに推薦状は無効だろうし、自力での受験になるだろうけど」
あの名門校ではなく、もっと学費の安そうなとこだね。とも加えた。
「だね。でもさ、シャーロットの行きたい学校にしてほしい。そこは遠慮しないでね。今度は俺が支えるから。もう、じゃんじゃん稼いでさ!」
「ふふ、いつも支えてくれてるってば」
私はおかしくなってしまい、笑ってしまった。
「……うん。これからもずっと支えるから。シャーロットが笑ってくれるように。君が生きやすいように」
アルトは私を抱きしめていた。突然でもあったけど、彼との触れ合いは私にとっても必然だった。彼の背中に腕を回しだ。さらに強く抱きしめられる。
「――ねえ、シャーロット。結婚式、二人だけであげようね」
「いいの? 私、考えてなかった」
てっきり、あげないものだと思っていた。それで充分だったんだよ。
そっか、嬉しいな……うん。私がはにかむと、アルトも嬉しそうにしてくれる。
「その為にさ、俺お金貯めてきたんだから。慎ましやかだけど、ちゃんとした式。君のドレス姿見たいし」
「本当にいいの? 私もお金出すから……分割になっちゃうけど」
アルトの貯金というなら尚更だよ。私は孤児院への仕送りや、大家に払う金もあるから。どうしても分割という手になってしまう。でもね今度こそ、今度こそ。こちらとしては彼にお金を払いたかった。
「シャーロット」
アルトは私の頬に両手を添えて、顔を上げさせた。どこまでも優しい顔だった。
「二人のお金だよ――俺達は夫婦になるんだから」
アルトはそのまま口づけてきた。私も自然と目を閉じた。充分に触れ合うと、唇は離れた。
「えへへ、リハーサル」
アルトが照れ笑いをすると、私は気が早いと笑った。そう言う私の顔も赤くなっているのにね。
「……」
そっか、夫婦。そんな晴れの日。なら、私はアルトに希望を伝えることにした。
「……ねえ、アルト。ご家族招待しない? 結局、ご挨拶できないままで」
孤児のまま院を出た私と違い、アルトは引き取られていた。彼は家族の話をしたがらない。私もそのままにしていたけど、こうした機会に場を設けたいということもあった。
「いいっていいって。俺からアイツらに報告だけはしとくからさ……俺のこととかどうでもいいだろうし」
「そんな……」
私は深く追求はできなかった。これはアルトの負の部分であり、彼が抱え続けてきたもの。
それでも、時間かけて分かち合っていきたかった。彼の胸にそっと手をあてた。
「いつかは話してね。私だって、支えたいから」
「シャーロット……うん。君には話すから。時間かかってでも」
私からの言葉に、アルトも愛しそうに微笑んだ。
「ご家族……」
アルトにも優しくしてくれた家族はいたはずだと――彼の兄がそう。厳しくはしつつも、弟思いの存在がいるはずなのにと。そんなお兄さんが――。
「……お兄さん?」
私は疑問だった。どこから彼の兄が出てきたの?
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