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第一章
愛される日々③
しおりを挟む看板は閉店にしたまま。店はお休みにして、二人でゆっくりと過ごすことにした。
私たちはソファに座っていた。アルトの足の間に私は座っていた。暖炉についた炎が揺らめく。
煤汚れなどはほとんどない。部屋の汚れもだ。部屋はいつだって清潔なんだ。料理もアルトの愛情が込められたもの。
生活は満たされていた――アルトが尽くすことによって。
「はい、乾かしましょうねぇ」
アルトがドライヤーにあたる器具を手にもつ。私の髪を乾かしてくれていた。
お風呂上がりの二人のお決まりの時間だった。アルトが私の髪を乾かす……この体勢で。
「いつも私が先だし。というか、自分でやるから。アルトは自分の分をちゃんとやりなよ」
アルト……自分より私を優先するから。彼はタオルでガシガシ拭いて、おしまいって。なんとかドライヤーは使ってくれるようにはなったけど……私との扱いの差がね。
もっと自分を大切にしてほしいのにな。
「だめでーす。却下でーす。シャーロットでもでーす。俺の至福のひととき奪わないでくださーい」
いつものやりとりだった……うーん。
「じゃあ、妥協する。シャーロットのが終わったら、俺にもやって? ……またがって、こう」
抱え上げられた私は、アルトの太ももの上に乗せられた。真正面で向き合う二人となった。
「こ、これって……」
かなり恥ずかしい体勢となった。それは私だけではなく、アルトもそのようで。
「って、実際にやるとやばいわー……なにこれ、やばいわぁ……やっぱ、なしで」
アルトの顔は真っ赤に染まりきっていた。私を下ろそうとしていたけれど……ううん、アルト。
「……いいよ。これからはそうしよう。順番だって、交替にしよう?」
私だってそう。
「触れたいのはアルトだけじゃないんだよ……私だってそうなんだよ」
私も君に触れたいから……彼の濡れた癖毛に、指を添わせた。
「わぁ……」
アルトは声をもらした。そればかり連呼している。
「わぁ……今すぐにでもお願いしてぇ……いや! まずはシャーロットの髪をちゃんとやろう! はいっ!」
私を定位置に戻した。髪をとかしながら、乾かしていく。ゆっくりと丁寧に。
「髪、さらさらだね。綺麗だわぁ……」
アルトはうっとりしながら、私の髪に触れていた。艶々で光沢のある、カナリア色の髪を。
「そうかもね。アルトと暮らし始めてからは、本当にそう思う。綺麗になったって言われるようになったよ」
髪だけではない。肌艶もそう、何もかもが潤っていた。村の人達にも言われるようになった
――本当に綺麗になったと。
「シャーロットは元から可愛いじゃんか……昔から、だっつの」
「アルトがそう思ってくれるなら、嬉しいな」
私は背後のアルトに向けて、微笑んだ。
「……」
アルトは黙ってしまった。そのまま黙り込むかと思いきや。
「……今は乾かす。今は維持する。このキューティクルを守る。今は、今は」
ブツブツ言いながら、私の髪を乾かし続けていた。
「はい、終了!」
と同時に、私を自分の太ももの上にまた乗せて、真向いにさせた。向き合う二人は体を密着させていた。
「あっ、私の番か」
アルトの手つきに心地よくなっていたので、つい反応が遅れてしまった。ソファの上にあるのは道具やタオルに手を伸ばそうとすると。
「……こんなん、こうするでしょ」
「!」
アルトからのキス。軽く、何度も唇を触れ合わせる。
「……」
最初の頃に比べれば、私も呼吸の仕方が上手くなった。もう呼吸困難に陥ることもない。アルトが私のペースに合わせてくれていることもあった。
「……って、アルト。髪、乾かすんじゃ」
……流されていた。アルトの唇が離れた隙にと、道具をとろうとしたけれど。
「いいよ。俺のことはあとで」
「あとでって……!?」
口づけは深くなっていく……私は自然と彼の首に腕を回した。しがみつく形となり、二人はより近づく。
何度も何度も。もう、お互いのことしか考えられなくなっていた。
どれだけ時間が経ったのか。二人の唇は離れた。『はあ……』ともらす彼の溜息が生々しい。
「とりあえずは……このへんで。ほら、もう寝よう?」
「うん……」
寝る前の支度や、明日の準備もある。そうだね、今日はここまで……。
「あらら」
「ごめん……」
アルトの髪は自然乾燥任せとなってしまった。アルトによって立たされるも、腰に力が入らない。嬉しそうに笑ったアルトが抱き上げてきた。
「ね、シャーロット。今夜はこのままベッドに直行しよっか。たまには、ね?」
「うん……」
二人が寝るところは、私の部屋のベッドだった。アルトの自作ということに仰天した。商品としても十分通用するレベルだった。
あの壊れかけのベッドは処分された。新しいベッドは二人で寝るには若干狭いものの、くっつけると特にアルトが満足そうだった。
新品のベッドに二人で眠る。私たちは向かい合って、寄せ合って眠りにつこうとしていた。
「シャーロット……俺、幸せだよ。好き、大好き」
アルトはもう、言いやめることなんてなくなった。何度だって想いを伝えてくる……うん、アルト。
「……私もだよ」
いつだって、優しくて。明るくて。愛で包んでくれる……そんな君が。彼の頬に手を添えて微笑んだ。
「そっか……」
アルトも目を細めて、その手に手を重ねた。ねえ、と彼は話しかけてきた。
「もうすぐ君の誕生日だね」
「……うん」
「まず、籍入れにいってさ。式あげてさ、そのあと俺がご馳走奮ってさ……で、初夜じゃん。初夜なわけじゃん……!」
アルトは興奮気味だった。いけない、と彼は自身を落ち着かせた。
「……結ばれようね?」
駄目かな? と彼は不安そうにしていた。本当に不安そうな顔……。
「アルト……」
その言葉の意味。私にもわかっていた。
「……うん、しよう」
わかった上で……私は頷いた。
「はあ……言ってみるもんだ」
アルトは幸せそうに笑った。そのまま唇で触れてきた。私の頬から、唇、それに―首筋に。
「!?」
くすぐったいとも違う……変な感覚。鎖骨にも触れられたところで。
「……ごめん」
アルトはすぐに止めていた。彼は苦悶の表情を浮かべていた。
「これ以上は我慢しないと……我慢我慢……」
って、唱えながら。アルトはいたって真剣。
「うう……君が可愛すぎるから! ……シャーロットめ!」
「そ、そんなこと言われても」
「きょとんとしてるのも、もうね……!」
「そう言われても……」
エンドレスだった。アルトは際限なく『可愛い』を連呼してきて……。
「もういい、もういいから……」
このままじゃ眠れなくなるから……。
「ああ、だめだ、眠れない……はあ、可愛いなぁ」
吐息混じりにそう言われたら……私だってそうだから。うん、もう眠れない……だから。
「……」
「……」
私たちはしばらく黙ったあと、互いに見つめ合って―唇を触れ合わせていた。
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