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第一章
愛される日々⑥
明日はいよいよ、私の誕生日――二人が結ばれる日。幸せの絶頂、そのはずなのに。
「――アルトごめん。今日は別々に寝ていいかな。アルトの部屋だってあるんだし、そっちで」
私はカウンター席に座っていた。アルトはソファに座っていたけど、彼の隣に行く気分にはなれなかった。
「……なんで。つか、こっちおいでって」
断られたアルトは不満を隠しはしない。自分の髪をタオルでガシガシ乱暴に拭いていた。
「大事な日の前だから……一人で考えることがあって」
「悩み事? それなら俺に言ってよ。ほらほら」
「……一人で考えたいの。アルト、お願い」
「なあにぃ? シャーロットはツン期再発かなぁ? それはそれで可愛いけどさ」
そうやって頼むも、アルトはまともに取り合ってくれない。どうやってなだめようかとしか、彼は考えていないんだ。
「ツンとか、軽口とかじゃない。お願い、茶化さないで。まともに取り合って」
「……じゃあ、真面目に聞くね――ねえ、シャーロット? 俺に言えないこと? 一人でって何」
アルトはソファから立ち上がった。カウンターにいる私に近づいてきた。
「――他の男のこと? 俺がわからないとでも思った?」
「それは……」
私は私で無意識に席を立った。彼と距離をとろうとしていた。
「……シャーロットの浮気者。俺、理解のある彼クンを演じてるだけだからね。本当は苛ついてさ……君に近づく野郎どもの、多いこと多いこと」
アルトはじわりじわりと距離を詰めてきた。
「君も君だよ。俺以外に目を向けてさ。俺はこんなにも一途なのに――こんなにも君を愛しているのに」
「うん。アルトが私を愛してくれるのはわかってる。もう充分に伝わってるよ」
「……っ!」
もう、充分に伝わったよ。私の言葉に、苛立っていたであろうアルトは――。
「なら、そのまま黙って愛されてろよ!」
「……!」
衝撃が走った。私……ようやく気づいたんだ。そこにあったのは――アルトからの一方的な愛だった。
「……違う。今のは違うんだ。シャーロット、聞いて」
アルトが慌てて訂正してきた。それでもね……私は告げるね。言わせてほしい。
「……アルトは、ただ愛されている私が良かったの? あなたに甘やかされて、されるがままで――お人形さんみたいな、私が」
「違う!」
「アルト、君は――」
どのアルトもそうだったのかな。どのアルトもって何? なんなんだろう……?
……私は、今の君しか知らないはず。でも、不思議なんだ。色んなアルトを見てきた気がするんだ。
いつも木の下にいた愛しい存在も。優しそうな男性も。その人達だけじゃない――アルト、君だってそう。
「……嫌いに、ならないで。俺には、君しかいないんだ……」
アルトの顔は絶望に染まっていた。うん……アルト。君は後悔しているって、それが伝わってくる。でもね……。
「ごめんね、アルト。私はそれを望めないの」
「シャーロット……?」
「……君と私、二人だけの世界。それは……望んでない」
「……!」
アルトは絶句していた。そうだね、あれだけ幸せだったのにね。でも、幸せだ、正しいと思えていたのは――。
「私も、君も。歪んでたんだ」
私たちが歪んでいたから。
「シャーロット……!」
肩を掴もうとするアルトから体を避けさせ、私は薬品棚の前に立った。
「私達は歪みきってた。ここはきっと、私も――君だって幸せにはなれない未来なんだよ」
私の目に映ったのは、自身のなめらかな手だった。棚の窓に映るのも、美しくなった自分の姿。こうも変わるのかと、自分でも驚くくらいの変貌。
――彼に愛されていた、私。
「……俺が悪かった。一人で寝たっていいから! 君の話や望みも聞くから! ……明日を一緒に迎えよう? やっと、やっと、君と結ばれるんだ……やっとなんだよ」
アルトは私の足に縋りついてきた。懇願し続けていた。とても必死で……でもね。
「それはきけない。私、帰りたい場所があるんだ。覚えてないけどね。ここではないの」
「……ここじゃない?」
「そうだよ――さようなら」
だからね、このアルトに別れを告げる。まだ縋りつくアルトを置いて、私は睡眠薬を飲み込んだ――記憶にはない。ただ、自分の心が知っていた。
『そこ』に何かあると。
「……!?」
あれ……なに、これ……? 私はふらつく、意識が落ちていく……眠り、とは、ちがう……。
「シャーロット!?」
必死に縋りついていたアルトは、私が何かに服用していたことに――今となって気がついた。ただ、気がついた時には――私は絶命してた。
私にもわからなかった。適量を飲んだはずなのに――。
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