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第一章
行こう、リッカ
しおりを挟むいつものように朝かと思いきや、部屋は暗いままだった。目覚めた私は枕元の時計を確認する。深夜を回ったところだった。
私は寝つけないので、水を飲みに行くことにした。あれ……起き上がるとギシギシと音はない?
「!」
『あの時』のベッドだ。私は身震いした――アルトと愛した日々を思い出されてしまう。
「こんなこと、あるの……?」
自分の部屋は影響を受けたままだった。あのアルトの影響下だってこと、それを思い知らされる。
「アルトが来たり……」
ここでアルトが来るかもしれない、そう思ったけれど。
「そうだった。アルトは今頃は――」
深夜のクエストに勤しんでいたはず。彼が今訪れることはなさそう。来るとしても早朝だ、猶予がある。
「……ん?」
ベッドの上。足元ですやすや寝ているのはモフモフ――リッカが寝ていた。熟睡している。
「君、来たんだ……」
リッカの姿を見て、私の心は軽くなった。
今回は異例な始まり、私は息を呑む。繰り返し続けたことで変化をすることも理解している。今回はアルトとの件が影響でもしているのかな。
「念の為」
私は机の引き出しを開けた。この時点では手に入らないはずのものがあった――学園の推薦状だ。
「これも影響が及んでいる、とか……?」
考えあぐねいていた私、とにかく動くことにした。
「どうせ眠れないし……うわ」
外に出ると、当然猛吹雪だった。無謀だと思う。それでも私は挑む……薪割りを!
専用の斧で薪を割っていった。うん、少しは上達した気がした。
家に戻り、薪を火にくべて。私は暖炉の前に座った。ただ、揺らめく炎を眺めていた。
「……シャーリー? どこー?」
リッカは目をしょぼしょぼさせながら、モフモフと階段を下りてきた。見つけた、と飛び込んできた。私もキャッチする。
「リッカ、ぎゅーだ!」
「わーい!」
念願の抱っこも出来たので私はご満悦だった。リッカも嬉しそうにしている。
「あ、ダンロだ。またつけてくれたんだー」
リッカは私の腕の中から下りると、尻尾を振りながら暖炉を見に行った。匂いもかいでいる。
「あまり近づかないでね。危ないよ」
「はーい」
匂い嗅ぎの確認も終えたみたい。リッカは戻ってきて私の隣に座った。私はリッカを撫でた。
ふわふわの手触り。撫でる手から伝わるのはぬくもり。モフモフの彼は、私に身を委ねてくれる。
火がくべられた暖炉の炎が揺らぐ。外は大荒れの猛吹雪。でも、ここはとても静かで。なんだか別世界みたい。
隣のモフモフが欠伸をしていた。体も伸ばして、私の足元でうずくまる。もう寝る体勢に入っていた。聞こえてきたのは寝息だ。フゴっとなったの、ふふ、聞こえたよ。
――僕は君の味方だっ!
うん、いつもありがとね。私だって君の味方だよ。
「……」
未来が怖い。
未来を迎えられるのかな私達に、未来は訪れてくれるのかな。
怖いんだ。いつだってね、死ぬのが怖いの。
怖いけど、それでも避けられなくて。いつだってそう。死は私を迎えにやってくるから。
「ぐっすりだね」
私の味方でいてくれる、大切な君へ。君にね、教えてないことがあるんだ。
君も知らない――私の最初の死。
こんな時だけどね、そのことを思い浮かべてしまうんだ。私はね、あの頃に囚われているままなんだ。
その日も雪が降っていた。
「――っと」
視線を感じる。リッカは寝てたと思いきや、起きていたみたい。寝ていても、実際はすぐに起きられるんだっけ。私が気になったのかな、心配そうに見ていた。
私はリッカを持ち上げ、抱っこした。この感触がたまらない。彼はよじろいでいたかと思うと、落ち着いていた。私にすっぽり収まるよう、体勢を整えていたみたい。
「君はあったかいね」
鼻を撫でると、今度はフガッ、だって。君は温かいな。
「……」
そうだね、怖い。最初の死なんて、まともに覚えてないから。曖昧だからショックは少ない方だけど、感触だけは残っているから。その時の思いもそうだ。
「片桐先生」
私と一緒に絶命した人。周りにはどうみえたのかな。思い出せないなりに、推察してみよう。
生徒の自殺を止めようとして巻き込まれた? 邪魔になったので生徒を殺した? それとも、生徒の方が、憎しみのあまり殺したのかな――心中とも思われているのか。
「……やっぱり、思い出せない」
今の私は、――『皇冬花』ではないけれど。あの鬱屈としていたけど、平和だった日々とはいえないけれど。
新たなる世界に転生して生きているんだ――この凍てつく世界で。
吹雪は止み、朝日が昇る。私たちは暖炉の前で、すっかり寝ていた。さあ、起きてっと。
「よし」
手短に支度を済ませた。必要なものも持った。さあ、出発――。
「……」
視線を感じる。起きていたリッカがじっと見ていた。
「リッカ。うん、いつもより早いけどね。あの人には悪いけど、まあ、うん」
学園の開門時間に合わせて出発することにした。私の手には既に推薦状があった……うん。そう……彼を待つ必要はなくなったわけで。村の役場で預かってもらうくらいしか……。
「ごはんとお水、あげるね」
私が立ち上がると、リッカは尻尾を振った。ご機嫌な彼は私に質問した。
「ありがとう! あのね、シャーリー。僕もお出かけだね?」
「……それは」
連れていって、いいのかな……? 村の人たちに預かってもらった方が、この子は安全なんじゃ。
「シャーリー」
「……リッカ」
本当にまっすぐな瞳を向けてくる。そうだね……リッカ。君の安全を考慮した上で――一緒に行こうか。
「うん……そうだね。一緒にいこっか」
「わあい、シャーリーと一緒だぁ」
リッカは体を伸ばしながら尻尾を振った。本当に嬉しそうだった。私は笑いつつも、彼に食事を与えた。がっつく。美味しいね、美味しいねぇ。
「リッカのお腹が落ち着いたら、出かけようね。十分早いから」
リッカが食べている間に、私も朝の食事をとり始めた。いつもよりしっかりめに。
「……」
これから自分がしようといていること――今回が正念場なんだ。これまで得た知識を、経験を、思いを。私は無駄にするつもりはなかった。
私が出かける支度をしている間、リッカもお座りをして待っていた。彼も気合十分だね。
「シャーロット、朝ごはんたくさんだった」
「うん。リッカもね」
今日はたくさん食べる必要があった。これからの予定を考えてのことだった。
準備は整った。学園へと向かうことにした。
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