春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

後がない



 ちょうど開門の時間となっていた。私は学園の前に立つ。リッカはすでに侵入していた。『モルゲンを呼びに行くっ』って張り切っていた。

「――失礼します。当学園にご入用でしょうか」

 今回はアルトを伴っていないこともあり、門番の人に呼び止められた。

「突然の訪問、失礼します。シャーロット・ジェムと申します。こちらの推薦状について詳しくお伺いしてくて。それで参りました」

 私は推薦状を門番さんに見せることにした。紛れもなく本物のそれを。

「失礼致しました。ただいま、上と代わります。お待ちくださいませ――」
「彼女はこちらで預かる」

 ざっと足音がした。やってきたのはモルゲン先生だ。子犬も抱っこしている。学園の教師ならばと、私をお任せすることにしたようだった。

「シャーロット・ジェム、だな。俺はこの学園の教師で、アインスト・モルゲンだ。今回の推薦の話をさせてもらおうか」
「――はい、お願いします」

 この流れのまま、私たちは教職員寮の面談室へと向かうこととなった。




「随分、早かったな」

 私たちを迎え入れた先生は言う。これまでにない来訪の早さだったから、先生も何らかを察しているみたい。

「……詳細は、いつかはお話させてください。今はとても」
「……そうか」

 先生には話せる心境ではなかった。先生は深刻そうな表情ではありつつも、それ以上追及してこなかった。

「わかった。今のことを考えようか」

 私は立ったまま。リッカは床を歩き回ったまま。なら、と先生も座ることなく壁によりかかりながらだった。

「――私、覚悟を決めました」

 差し迫った状況であると悟っていたから――だから、私は伝えた。

「対峙しましょう――『真犯人』と」

 ――こちらから立ち向かいましょう、とも。私はもう、そこまでの気持ちだった。

「シャーロット……」

 先生は難しい顔をしていた。私の表情や様子もだろうし、先生も先生なりにお考えもあって。

「……後がない、そういうことだよな」
「はい」
「そうか……」

 先生は顔を上げて仰いでいた。そして――『あいつなのか』と。

「はい、先生」
「そう……だよな」

 先生はしばらく黙ったままだった。それもそうだよね……私にとってもだけど、先生こそ。
 それでも先生が見せたのは――強い意志だった。

「そうだな――立ち向かうか。もちろん、守り抜いてみせるさ」

 ――『女神像破壊犯』から、と。先生……。

「俺はもう迷わない――あんな思いは二度と御免だ」

 先生だってそう、覚悟が決まっていた。もう手段も……何もかも選んでいられないような。先生は重苦しい表情で語り出す。

「振り返るとだな? 真犯人は二体の破壊を行っていた」
「はい」

 そうでした。学園のも、都のもでした。先生は苦々しげに提案してきた。

「……本当に心苦しいがな、別行動とるぞ」
「!」

 別行動……そう、そうですね、先生。私は目を見開いてはしまったものの、頷いた。

「……ああ、すまないな。お前は都の方で待機してくれていればいい。俺が……俺が、止めてみせる」
「……モルゲン先生」

 私は思わずにはいられなかった。先生の方がよほど――危ない橋を渡ることになると。真犯人は決まって、学園の方から破壊していたから……。

「ああ、わかってくれるな――お前が覚悟するなら、俺もしなくてどうするんだって話だ。な、リッカ?」

 私の足元にまとわりつくリッカにも話しかけた。彼は、ワンと良い返事をした。

「……お願いします、モルゲン先生」
「ああ。いい子だ、シャーロット」

 無理にでも納得した私を先生は笑顔で讃えた。

「ああ、そうだ。心配するなって。あとは――これ、渡しておくな」

 先生から渡されたのは、円盤上の物。ボタンがいくつかついている。説明書も一緒に渡された。私はぱら見した。この世界における、トランシーバーのようなもの? 性能的にはスマホといえるのかな。

「……。要は通信機器だ。とある筋からとだけ。最終日に使おう」
「最終日ですね」

 私はざっと目を通しただけ、なるほど。この機器製品にもバッテリーのようなものがあり、最悪充電切れで使用できないことがある。むやみやたらと使用は出来なさそう。

「といってもな……何かあったら、すぐ使えよ。俺はお前を優先したい」
「先生……」

 モルゲン先生は生徒思い、私は嬉しくも思った。それでもです、先生。こればかりは頷けません。どうみても危険なのは先生の方じゃないですか。だから、曖昧に笑って返すだけ。先生は顔を顰めてしまったけれど。

「……」

 先生と別行動……うん、気を強く持って。私だって覚悟があるんだから。

 私たちは真犯人が現れる日――女神像が破壊された日まで。像の方を警戒しつつ、日常を過ごすことになった。ここで一旦話がついたと思われたけれど。

「……僕も、僕にも何かできることある?」

 ……リッカの沈んだ声。私は顔を見合わせた。

「リッカ。リッカもね、生き残ること。生きててくれればいいんだよ?」
「うん……」

 私はしゃがんで、リッカを撫でた。彼は俯いたまま……。

「……リッカ?」

 リッカ……元気ないね。作戦決行の前となって、正念場でもある。リッカも緊張するよね。

「お、言ったな。シャーロット?」

 雰囲気を変えるかのように、先生は明るく言った。

「リッカもそうだし、お前もだ。俺だってそうだ。生きてりゃいい。どうとでもなるよ」

 先生は笑ったまま、こうも告げてきた。

「ま、その上でな? これもこなさなくちゃならない――『女神像を守り抜く』。何が何でもだ。そうすれば、俺達の未来はつながる。そうだろ?」
「……はい。はい、モルゲン先生!」

 自分達が生き残る道は、女神像が壊されないこと。それに限るんだ。

 今回の作戦は万全とはいえない、リスクを背負ってのものとなる。不安はあるものの、私はある言葉を思い出す。
 春の女神によるもの――強い意志があれば、乗り越えられると。

「……ふふ」

 私は笑んだ。気合で乗り切れと言われているようなもの。そんな言葉が今、私の原動力となっていた。


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