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第一章
ドロっとした空
しおりを挟む私は女子寮で待機していた。机を借りて新薬の開発をしていたりしていた……何かをしていたくて。そんな私は窓の外に目をやった。もう日が暮れようとしていた。
「――よし、行こう」
そうなんだ、大人しくしていられる心境でもなかった。
まだ日数があるとはいえ、私も女神像の様子を見に行くことにした。必要以上に近づかないようにして。
「……」
私は胸に手をあてた。このぞわぞわとした感覚はなんだろう……鼓動だって落ち着いてくれない。
日数がある、あるはずなのに……どうしてこうも。
「シャーリー?」
ベッドの上で丸まっていたリッカもそう、窓ばかりを見ていた。そして、部屋から出ようとした私についてくるけれど。
「……リッカ、お留守番しててね? また戻ってくるから」
普通に巡回に行くだけ。それに……危険に近いところまで連れてきてもしまったから。私はどうしても君に安全なところにいてほしくて。
「いってきます」
「シャーリー――」
私は急ぎ気味に部屋を出ることにした。外側からも鍵を締め、急ぐ――。
私は息を切らしながら、女神像のある学園広場へ。先客がいた――モルゲン先生だ。
「……お前も来るのか」
先生は半ば呆れながら。でも、それって。
「お互い様ではありませんか」
「……言うようになったじゃないか、シャーロット?」
「はい」
「……ったく」
先生もそうでしょう? 私たちは穏やかな気持ちではいられなかった。これから迎えることを思うと尚更。
「まあ……なんだ。最終日にさえ近づかなければ、か? といっても、長居はさせないからな」
「はい」
私たちは今は健在の女神像を見上げた。美しくも荘厳な像は、夕焼けの空を背に――。
「……?」
こんな……毒々しくも歪んだ夕空だっけ? というか……空? 目が痛くなるような鮮血の色、脈打つかのような……その、グロテスクでもあって……。
「そんな……」
――『彼の中』にいるかのような。
「……そうくるか」
「……先生」
先生も、私もそう。事態が急変したことを悟った。この異常事態の中、深刻な表情となったモルゲン先生が告げる。
「――早まったのか。急いでくれ、シャーロット」
『彼』は最終日まで待つことなく――『今』、動くことになったのだと。
「……」
焦れた彼が。
「先生……」
先に来るならば、学園の破壊像。おそらく本気になった彼がやってくる。それを迎え撃つのは先生なんだ。私はそんな先生を置いて――。
「――『今度』こそ、約束を守ってみせるさ」
「……?」
先生は確かにそう仰ったけれど……『今度』? ……成し遂げよう、ってことかな?
「……はい」
「ああ」
先生を一人置いていくのはしのびなくても、私は私で果たそう。後ろ髪引かれる思いながらも、私は都へ向かうことにした。
「……」
私は走りながら空を見上げた。学園を出たら吹雪のはず……でも、この赤黒い空の下では、そうはならないんだって――それだけ、彼の影響下にあるんだ。
「……シャーリー」
「!」
都へ向かう途中の路、待っていたのはリッカだった。鍵閉めたのに……いつの間に解錠できるようになったの。
「僕、いやなの……なにもできないの。シャーリーもモルゲンも危ないのに、やだ……」
「リッカ……」
うう、とリッカは俯いた。リッカ……この子はただ、純粋に役に立ちたいだけなんだ。それでも、危険なところに放り込むことにはなってしまう。
それなのに、私は……こう口にしていた。
「……君はずっとそうだったね。力になりたいって」
君はずっとそうだったんだ。そうだね、リッカ。その気持ち、私にだってわかるんだ。
「――それじゃ、力貸してくれる? ちょっと大変だけど、君なら頑張れるよね?」
「シャーリー!」
リッカは嬉しくなったのかな、私の周りを駆け回った。
「じゃあ、まずはこれを我慢してね」
「わっ」
私は粉を振りかけた。リッカはぷるぷると粉を振るい落とそうとするも。
「だめ、じっとしていて」
「うう……」
リッカは払い落したくなる衝動に耐えながらも、粉を全身に浴びた。粉は時間と共に、消えていった。
「吸収できたね。それじゃ、行こう」
「シャーリー。今のなあに?」
「――体力増強剤。魔法の粉だよ」
ここが正念場だ。ドーピングだってしてやるんだ。さあ、挑もう――。
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