春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

女神像を守る為の戦い


 息を切らしながら、私とリッカは広場に到達した。遠目で見た女神像は健在だった。そこは安心するも、驚きの光景を目にしてしまう。

 いつもは見事な景観なそこは荒れていた。対抗するのは、金糸雀隊。

「……?」

 ……どういうつもりなの。こちらの話に聞く耳をもたなくなったのに。金糸雀隊もだけれど――彼もそこにいた。辿り着いていた。

「……もう着いたというの」

 像を壊そうとしているのが――アルトだった。私たちより早く辿り着いていたって……。

「……人間じゃない力」

 アルトの元々の強さに加えて――なにか人外の力が働いているかのよう。

「……あ、シャーロットだぁ! どこ行ってたの!? 寂しかったんだけど!?」

 アルトは襲いかかっていた金糸雀隊を一蹴すると、こっちに手を振ってきた。こんな時でも彼はいつも通りであろうとした。
 そのことによってか、私たちは注目された。中心にいる人物……リーダー格であろう人がこちらを指す。

「あの女も共犯だ――始末せよ」
「はっ」

 私も狙われるようになり、金糸雀隊達が一斉に襲いかかってくる。
 私はアルトの共犯者と思われてしまったんだ……狙いが一気に定められる。そう、そっちがそのつもりなら……!

「……リッカ」
「うん」

 私の一声を合図に、リッカは走っていく。見事な跳躍力で屋根に飛び乗り、屋根上を駆け回っていく。

「……やりきろうね、リッカ」

 私は短く詠唱をすると、特定の範囲内に薄い氷の膜を張らせた。私は準備運動がてらに足首をひねると滑り出した。薄くても十分、滑れる。
 それはスケートそのものであり、金糸雀隊の間もすり抜けていく。訓練でもされてるからか、隊が滑って転んでくれることはなかった。ううん、十分。私は彼らを撒けているから。

「何狙ってんだよ!」

 アルトが隊員を殴り飛ばしていた。私を守ってくれているのもあるけど。

「……いけね。像、壊さないといけないんだった。ごめん、シャーロット。すぐ終わらせるからね。……ね?」
「!?」

 一瞬ではあった――アルトの目が赤くなっていたのだ。すぐに元の色には戻ってはいたけど。
 ……またなの? アルトはまた左胸に手をあてていた。服の外からも、そこが肥大化しているかのように見えた。彼は改めて像の破壊を試みていた。

「ああ、シャーロットの犬だっけ? つか、涎? すごっ」

 アルトはこの激戦の中で一人余裕だった。片手間で金糸雀隊の相手をしていた。やはり、アルトは……いまや尋常ではない存在になっているんだね。

「リッカ……」

 リッカは屋根の上を逃げ回っていた。アルトの言う通り、彼の口元は白く光っていて、何かを吐き出しているかのようだった。涎といわれれば、口を緩めきって走っているといわれれば、納得のいくものだった。
 屋根上に登ってきた隊員から、リッカは逃げ続けていた。敵は屋根上だけではない。地上にいる隊員も魔力を発動させ、リッカを狙っていた。

「!?」

 驚いたリッカは転んでしまう。

「リッカ!」

 私は氷の弾を飛ばして、相殺させた。大丈夫、と私は頷いた。

「わふっ」

 リッカも立ち上がり、また走っていった。隊員に追われながらも、ぐるぐる外周を描くように走り続けていた。

「――余所見か」
「!」

 金糸雀隊の一人が――瞬時に近寄ってきた。その者は私の喉元を狙い定めていた。この声はわかるよ――何度も自分たちを殺してきた者だってことを。

「何度もやられないっと!」

 私はスライディングして避けた。ただ、一度躱すも、その者は私を執拗に狙い続けていた。容疑者でも、像を壊そうとしている者でもないに関わらず。

「……あなた。ううん、あなたたちに言いたいことがずっとあって」

 私は滑りながら、攻撃を躱しながら。ずっと思っていたこと、伝えることにした。

「――女神像、ちゃんと守ってほしい。本当に守るべきもの、優先するものなんじゃないの?」

 何度も人を殺しにかかるより。これも言ってやりたかったけどね、そこまで言っている間に追撃されかねないから。

「……」

 目の前の隊員の動きが止まった……ええと、チャンス? その者から逃れることができた。

「……また、シャーロットはさぁ。他の奴に可愛くしちゃってさぁ」

 アルトも手を止めていた。私の言動に怒っているのかな。といっても、襲ってくる相手に対しては反撃はしている。

「可愛くって」

 自分を殺しにくる相手にそういう感覚、ある? それどころでもないし。疑問に思っている私とは違い、アルトはかなり腹が立っているようだった。

「……はあ、先にこいつら全員殺るか? ――は? 壊せ? シャーロット優先に決まってんだろ。今から邪魔者排除しなきゃなんないの――却下」
「アルト……?」

 またなの? アルトは左胸と会話しているようだった。こっちの視線に気がつくと、彼はへらりと笑った。

「……!」

 屋根上のリッカがへたり込んでいた。一見リッカがバテたように見せかけて――合図でもあった。

「リッカ、おいで!」
「シャーリィ!」

 リッカは力を振り絞って、屋根から着地した。小走りでこちら目掛けて。飛び込んだのは私の胸の中だ。

「は? なに、その犬。ちょっと、そこの占拠犬? 俺のシャーロットに、良い気になりすぎじゃない?」
「アルト……うん、アルトにもだね」

 アルトは余裕で反撃をしながら。私は疲弊した犬を抱えながら、必死に躱し続けながら。

「私は、君の物じゃない」
「え……?」
「君が私を守ってくれてた。だから、私も頼りきっていて。歪んでたのは、あの時だけじゃなくて――ずっとだったんだ」
「……シャーロット?」

 アルトの手に白いものが着く。それらは、はらはらと宙を舞っていた。粉状のものだったが、やがて粒となっていく――雪のようだった。広場に、彼らに降り積もっていく。

「アルト。私は強くなるから。君が心配しなくて済むように。余計な不安に駆られないように――君が信じてくれる私になりたい」

 私は微笑むと、リッカを片手で抱える。そして、屈んで地面に片手を着いた。

「――伝え、私の魔力よ。全てを凍てつかせて」

 私の静かなる詠唱と共に、地に氷の力が張り巡らせていく。
 白い粉と呼応して――広場一帯を凍りつかせた。

「はあはあ……」

 アルトも。金糸雀隊も。そして、美しき女神像も―一瞬にして。
 私は勝負に出たんだ。彼らの隙、わずかなチャンスを逃すまいと――全魔力をも注いで。


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