72 / 557
第一章
女神像を守る為の戦い
息を切らしながら、私とリッカは広場に到達した。遠目で見た女神像は健在だった。そこは安心するも、驚きの光景を目にしてしまう。
いつもは見事な景観なそこは荒れていた。対抗するのは、金糸雀隊。
「……?」
……どういうつもりなの。こちらの話に聞く耳をもたなくなったのに。金糸雀隊もだけれど――彼もそこにいた。辿り着いていた。
「……もう着いたというの」
像を壊そうとしているのが――アルトだった。私たちより早く辿り着いていたって……。
「……人間じゃない力」
アルトの元々の強さに加えて――なにか人外の力が働いているかのよう。
「……あ、シャーロットだぁ! どこ行ってたの!? 寂しかったんだけど!?」
アルトは襲いかかっていた金糸雀隊を一蹴すると、こっちに手を振ってきた。こんな時でも彼はいつも通りであろうとした。
そのことによってか、私たちは注目された。中心にいる人物……リーダー格であろう人がこちらを指す。
「あの女も共犯だ――始末せよ」
「はっ」
私も狙われるようになり、金糸雀隊達が一斉に襲いかかってくる。
私はアルトの共犯者と思われてしまったんだ……狙いが一気に定められる。そう、そっちがそのつもりなら……!
「……リッカ」
「うん」
私の一声を合図に、リッカは走っていく。見事な跳躍力で屋根に飛び乗り、屋根上を駆け回っていく。
「……やりきろうね、リッカ」
私は短く詠唱をすると、特定の範囲内に薄い氷の膜を張らせた。私は準備運動がてらに足首をひねると滑り出した。薄くても十分、滑れる。
それはスケートそのものであり、金糸雀隊の間もすり抜けていく。訓練でもされてるからか、隊が滑って転んでくれることはなかった。ううん、十分。私は彼らを撒けているから。
「何狙ってんだよ!」
アルトが隊員を殴り飛ばしていた。私を守ってくれているのもあるけど。
「……いけね。像、壊さないといけないんだった。ごめん、シャーロット。すぐ終わらせるからね。……ね?」
「!?」
一瞬ではあった――アルトの目が赤くなっていたのだ。すぐに元の色には戻ってはいたけど。
……またなの? アルトはまた左胸に手をあてていた。服の外からも、そこが肥大化しているかのように見えた。彼は改めて像の破壊を試みていた。
「ああ、シャーロットの犬だっけ? つか、涎? すごっ」
アルトはこの激戦の中で一人余裕だった。片手間で金糸雀隊の相手をしていた。やはり、アルトは……いまや尋常ではない存在になっているんだね。
「リッカ……」
リッカは屋根の上を逃げ回っていた。アルトの言う通り、彼の口元は白く光っていて、何かを吐き出しているかのようだった。涎といわれれば、口を緩めきって走っているといわれれば、納得のいくものだった。
屋根上に登ってきた隊員から、リッカは逃げ続けていた。敵は屋根上だけではない。地上にいる隊員も魔力を発動させ、リッカを狙っていた。
「!?」
驚いたリッカは転んでしまう。
「リッカ!」
私は氷の弾を飛ばして、相殺させた。大丈夫、と私は頷いた。
「わふっ」
リッカも立ち上がり、また走っていった。隊員に追われながらも、ぐるぐる外周を描くように走り続けていた。
「――余所見か」
「!」
金糸雀隊の一人が――瞬時に近寄ってきた。その者は私の喉元を狙い定めていた。この声はわかるよ――何度も自分たちを殺してきた者だってことを。
「何度もやられないっと!」
私はスライディングして避けた。ただ、一度躱すも、その者は私を執拗に狙い続けていた。容疑者でも、像を壊そうとしている者でもないに関わらず。
「……あなた。ううん、あなたたちに言いたいことがずっとあって」
私は滑りながら、攻撃を躱しながら。ずっと思っていたこと、伝えることにした。
「――女神像、ちゃんと守ってほしい。本当に守るべきもの、優先するものなんじゃないの?」
何度も人を殺しにかかるより。これも言ってやりたかったけどね、そこまで言っている間に追撃されかねないから。
「……」
目の前の隊員の動きが止まった……ええと、チャンス? その者から逃れることができた。
「……また、シャーロットはさぁ。他の奴に可愛くしちゃってさぁ」
アルトも手を止めていた。私の言動に怒っているのかな。といっても、襲ってくる相手に対しては反撃はしている。
「可愛くって」
自分を殺しにくる相手にそういう感覚、ある? それどころでもないし。疑問に思っている私とは違い、アルトはかなり腹が立っているようだった。
「……はあ、先にこいつら全員殺るか? ――は? 壊せ? シャーロット優先に決まってんだろ。今から邪魔者排除しなきゃなんないの――却下」
「アルト……?」
またなの? アルトは左胸と会話しているようだった。こっちの視線に気がつくと、彼はへらりと笑った。
「……!」
屋根上のリッカがへたり込んでいた。一見リッカがバテたように見せかけて――合図でもあった。
「リッカ、おいで!」
「シャーリィ!」
リッカは力を振り絞って、屋根から着地した。小走りでこちら目掛けて。飛び込んだのは私の胸の中だ。
「は? なに、その犬。ちょっと、そこの占拠犬? 俺のシャーロットに、良い気になりすぎじゃない?」
「アルト……うん、アルトにもだね」
アルトは余裕で反撃をしながら。私は疲弊した犬を抱えながら、必死に躱し続けながら。
「私は、君の物じゃない」
「え……?」
「君が私を守ってくれてた。だから、私も頼りきっていて。歪んでたのは、あの時だけじゃなくて――ずっとだったんだ」
「……シャーロット?」
アルトの手に白いものが着く。それらは、はらはらと宙を舞っていた。粉状のものだったが、やがて粒となっていく――雪のようだった。広場に、彼らに降り積もっていく。
「アルト。私は強くなるから。君が心配しなくて済むように。余計な不安に駆られないように――君が信じてくれる私になりたい」
私は微笑むと、リッカを片手で抱える。そして、屈んで地面に片手を着いた。
「――伝え、私の魔力よ。全てを凍てつかせて」
私の静かなる詠唱と共に、地に氷の力が張り巡らせていく。
白い粉と呼応して――広場一帯を凍りつかせた。
「はあはあ……」
アルトも。金糸雀隊も。そして、美しき女神像も―一瞬にして。
私は勝負に出たんだ。彼らの隙、わずかなチャンスを逃すまいと――全魔力をも注いで。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。