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第一章
君を解放するね
床のひんやりとした感触がする――ここはいつもの夢の中だね。私はぼんやりした目を瞬きさせ、上を見た。
鳥籠は赤い血管のようなものではなく、いつものものに戻っていた。私は中腰で歩いて、柵に触れた。冷たい感触だ。
「でも……」
赤黒い錠前は残ったままだった。サイズは元のサイズになったものの、錠前の鍵穴からは舌をのぞかせていた……うん、これはそのままなんだ。
どうしたものか……そう考えていた時だった。
「シャーロット!?」
騒々しい男がやってきた。この夢で会うのは、おそらく初めてであろう――彼。
「え。アルト……?」
私は目をぱちくりさせた――アルトが現れたことに驚き。
「え、なんで!? なんで、閉じ込められてんの? 今、助けるからね!」
アルトは錠前に目星をつけていた。大型のが一つ、中型が四つあった。これらをどうにかすれば出してあげられると、彼は考えたんだ。
「待って、アルト。一旦、私の話を聞いて」
「……うん。君がそういうなら」
アルトは今にも蹴りそうな動きを見せていた。私は一旦落ち着かせることにした。ひとまず蹴りはやめてくれた。
「……なんでかは、私にもわからなくて。ここは私が昔から夢に出てくる場所なんだ。生まれた頃から、こうで」
「……危ない目に遭ってるわけじゃないの」
「うん。ただ、閉じ込められてるだけだから」
「いや、閉じ込められてるだけでもさ……」
アルトは観察した。この鳥籠はまるで意思があるかのようだった。それもとても強い意思だ。
「シャーロット、やっぱ危険だって――君に対する執着、それが半端ない」
「私への……?」
「うん。俺にはわかる気がしてさ……うん、俺にも」
アルトは一点を見つめ続けていた。
「ムカつくけど、他のは手出しできなさそう。でも、これなら――」
「アルト!?」
私は驚愕する。アルトがその場でジャンプして――赤黒い錠前に触れたのだ。
「!?」
アルトはそれに触れると、彼に衝撃が走った。それによって着地に失敗し、床に打ちつけられた。
「だ、大丈夫!?」
アルトは無事のようだけど、頭を抱えながら横になったまま。
「俺は、大丈夫、大丈夫なんだけど……俺は、なんだけど」
私をちらりとだけ見ると、気まずそうに顔をそらした。それから彼は顔を赤くしたまま、ブツブツ言いだした。えっと、アルト……?
「大丈夫じゃないんじゃ。ねえ、アルト……」
本格的に打ちどころが悪かったんじゃないかと、心配にもなってくる。声を掛けると。
「ひゃあっ! だ、だめ。今の俺を見ないで……!」
アルトはここまでかというほど顔が赤くなっていた。恥じらいぶりが乙女のようだった。
「なんだこれなんだこれなんだこれ! なんだ俺! なにしてんだよ俺!」
「え……」
「ど、ど、どんだけチュッチュすれば気が済むんだよ! なにこれ、え、こんなん俺がしてきた妄想じゃん! なんで俺が叶えてんだよ! どんだけいい思いしてんだよ俺!」
「ま、まさか」
繰り返しの日々の中で、アルトに愛された日々もあった。その記憶は本来、今のアルトには持ちえないものはず。いいや、今のアルトの様子からすると……?
アルト、脳裏に映像をたきつけられているかのような? あの錠前に触れたのがきっかけとでもなって。
「わぁ……甘えたさん、もうね、こんなんもうね……!」
「本当にもうやめて……。なんでこんなことに……」
甘えきった姿だって……みられていたんだ。本当に気まずい……。
「……うん。全部、俺なんだよね。俺がしそうなことだし、実際に俺がやってたこと」
顔は赤いままのアルト、静かに言った。興奮も静まり、悔いるかのように。
「アルト……」
「ねえ、シャーロット。君の幸せって……あそこじゃなかったんだよね」
『私、帰りたい場所があるんだ。覚えてないけど。ここではないの』
この言葉までも。アルトは錠前によって知らされたんだ……思い知らされて。
「シャーロットは、あの未来では幸せじゃなかった……」
「――しあわせだったよ」
アルトは今にも泣きそうな顔をしていた。私はは心内を打ち明けることにした。
「君に愛された日々は、しあわせだった。でもね私、欲張りなんだ……アルトもそう、いろんな人がいて、みんなが笑っていられる未来。私が望んだのが、そうだったの」
「……うん、そうだよね。そっか、そうだった」
アルトはしきりに頷くと、赤黒い錠前を見据えた。
「俺だけがいればいいんじゃなかった。俺、妬きはするけどさ。君が頑張ってさ……色んな人と話そうとしてるの、見てるのも好きだった」
アルトは軽く準備運動をすると、後ろに下がり始めた。
「あー、シャーロット? 離れて、離れて。そうそう、そのくらい」
私は言われるがままに後退した。ありがとう、アルトはそう笑った。
「――君を解放するね」
「アルト……?」
視界に映ったのは、赤黒い錠前が砕け散る様。破片は砕け散って、床に散らばっていた。バラバラになった中……舌にあたるものがピクピクしている。
「っと」
アルトは華麗に着地した。その顔はスッキリとしていた。
「俺の分はよし、と」
「アルト、君は……」
――君を解放するね。
うん、深くは聞かない。この言葉が全てだと、私は思ったから。
アルトは――彼自身で執着を打ち砕いたんだって、そう思ったから。
「――で、シャーロット? 他のって、なんかヒントとかないの? 君自身がピンときたものとかさ」
「うん、そうだね……」
アルトのが無くなっても、まだ錠前は残っている。私は完全に開放されたわけではない。何か思いつかないものかと、私は頭を巡らせていた。
「ん……?」
私は瞬きをした。見間違え? ううん、違った――錠前の数が変化していた。
「いやいや、そんな……」
大型の数はそのまま。アルトのを破壊後、中型の錠前が――三個となっていた。私、見落としていた? ……というか、いつから?
「いや、そんな、ねえ?」
本当に心当たりがなかった。それもアルト曰く。
『君に対する執着、それが半端ない』
「……」
それほどの思いを自分に抱くこと、ある? 私はそこまで人と関わっていたりはしていなかった。となると、元々あった錠前も謎は謎ではあったけれど。
「あれ………心当たりあるかんじ?」
アルトが、じっと見ていた。アルトが、じいっと見てきた。アルトが、じいいっと見たままだ。
「ううん……本当にわからなくて」
いくらアルトに見られようと、本当に心当たりなんてない……。
「ま、いいけど。なんか思い出したらでいいよ」
「うん」
アルトはあっさりと下がった。彼は本当に変わったと、私は思っていた。
「あ……」
安心したのかな、私は次第に眠くなってきた。
「なんか、眠くなってきた。ここで寝たら、どうなるの?」
アルトも欠伸をしていた。彼も眠そうだった。
「日常に戻れる――」
眠気が訪れてくる。寝落ち寸前でもあって――。
「……あらら、寝ちゃった」
アルトは床に胡坐をかいて座った。アルトの手の中にあるのは、赤黒い錠前の一部。未だに蠢いている舌だ。
「――ま、消えたわけじゃないからね」
アルトは『ソレ』を、大事そうに懐に仕舞った――そこで私の意識は落ちた。
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