春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

平和な大晦日イヴ



 時は十二月。年の終わりが近づいてきた。店も年末のかき入れ時であり、多忙を極めていた。
 この国でも年末ともなると厳かになる。前世でいう大晦日。この国においては、身内や静かな人達と過ごすのが定番だった。
 その大晦日を明日、迎えようとしていた。





 大晦日前日。本当はこの日も営業する予定だったけど、臨時で休むことにした。年末年始の準備もしたいこともあった。

「いやぁ、今年も働いた働いたー。今日はオフぅ」

 アルトがカウンター席に座って伸びていた。アルトが遊びに来ていた。彼は冬休みということもあり、早い時間から来ていた。

「お疲れ様でした、アルト」
「わあ、シャーロットのお茶だ。いただきます!」

 アルトにお茶を出した。このことにも触れておかないと。
「――それで、お給料の話。今までのもやっぱり、払いたくて。少しずつになっちゃうけど」
「だからいいって。俺が好きでやってるんだから」

 アルトはいつもこうして断る。私はどうしても払いたい。

「悪いよ。アルトの大切な時間使ってもらってるんだよ」
「うん。大切な時間だよ。好きな子の力になれるのに、それ以上のことってある?」
「うん……ん?」

 アルトはさらりと言った。私は首を傾げた。
 アルトはあの夢の中で解放すると言っていたから。彼の思いが詰まったような錠前も自ら壊した。アルトの恋心はそれで終わったものだと。私はそう考えていた。

 ここまでそれらしき振る舞いもなかったし。というか、あの『日々』のことにも一切触れてもこなかったから、ああ、忘れたのかな……ああ、頭がぐるぐるとしている。

「首、こてってした! 可愛い!」

 アルトは頬を赤くしていた。テンションも高い。以前のアルトそのままだった。

「アルト、あの……」
「シャーロット。『あの時』に、俺が終わらせたと思ってたの?」
「それは、うん……」

 私が戸惑っていると、アルトも察してはいるようだ。そうじゃなかったってこと……?

「えー。全然だよー? あくまであんな風にさ? シャーロットを困らせることはしないってだけだし」
「それは、まあ、うん……」
「ってことで。いつもの俺がいいってなるとさ、こうじゃん? シャ、シャ、シャーロット大好きな俺じゃん!?」

 アルトは一人で盛り上がって、両手で顔を隠していた。

「あと、チューとか、アレソレとか……」

 アルトは言いかけて固まった。口元に手をあてて、考え込んでいたけれど――何事もなかったかのように笑った。

「……いつかはしたい! 将来の夢は結婚……そういうの変わらないんで!」

 盛大に照れながら、宣言をしてきた。アルトの思いは変わらずだったって……そういうこと?

「……」

 いつかは、とアルトは言っている。彼の中では『あの日々』が無かったことになっているのかな? 
 キ、キス……とか、してなかったってことになってるの? ……執着の象徴ともいえた錠前を破壊したことによって? うーん……?

 今日までのアルトの素振りからしても、そういう認識でいいのかな? だとしたら、気まずさはかなり減少するけれど……消えはしないけれど。

「……アルト」

 顔を真っ赤にしている彼。そう、そうなんだ……でもね。

「気持ちは嬉しいけど。私、やっぱり恋愛はちょっと」

 アルトのことは好ましく思っている。それでも、自分の気持ちの方が追いついてない。

「待つよ。君への好意は全開にしつつも、ちゃんと待つから。君が振り向いてくれるまでね」
「……アルト」
「――時間はたっぷりあるからさ?」
「!」

 私はドキリとした。いつか聞いた言葉だったから。今のアルトは『あの頃』アルトとは違うだろうに――どうしても重なってしまった。

「ふぁーふぃー、ふぉーふぉぅー」

 ぬいぐるみをくわえたモフモフがやってきた。ちょっと言っていることがわからない。でも可愛い。

「えっと、ボール遊びかな? うん、お外でよっか」
「うん、ありがとう!」

 リッカはぬいぐるみ遊びを充分楽しんだんだね。ぬいぐるみをその場に落とすと、尻尾を振った。私のあとをついて回っている。ふふ、可愛い。

「犬。もう遊ばないんなら、ちゃんと片付けなよ」

 アルトはリッカが放置したぬいぐるみを指した。専用のおもちゃ箱に入れるように、とのことだった。

「あ、ごめんね。アルト」

 リッカは素直に返事した。ぬいぐるみをくわえ直して、箱に戻していた。
 リッカは普通に人語を話している。それをアルトは特に気にしていないようだった。あれかな、彼の兄も言っていたけど、この世界だと普通なのかな。

「アルト、リッカだよ」

 アルトはそれでいて、いつまでもリッカを犬呼ばわり。正直、解せない。リッカってちゃんとした名前があるんだから。私たちは知っているんだから。

「いいんだって、犬で。犬だし。つか、シャーロットのデレを一身に受けてさ。この……ズルイーヌ!」
「ズルイーヌ!」

 言われたリッカはガーンとしていた。

「アルト!」
「つーん」

 アルトは大人気なかった。やれやれと、私は肩を落とした。それならね、事実をあげようじゃないの。

「そのぬいぐるみあげたのも。アルトなのにねー?」
「……そんなん、知り合いからもらったの押し付けただけだし?」
「へえー、ピンポイントに犬用グッズをねー?」
「ぐはっ。小悪魔シャーロットの破壊力がっ」

 小悪魔ってなに。呆れつつも、アルトがリッカを可愛がっているの、バレバレだし。犬は苦手といっていた彼は、本当に最初は苦手そうだった。でもね、いつしかだったかな。

 私は多くの現場を目撃してきた。アルトがリッカのボール遊びにつきあっていること。アルトがリッカとままごとで遊んでいること。お手やおかわりを仕込んでいること。お利口さんだったら撫でて褒めていること。
 私は微笑ましくて笑ってしまっていた。アルトがジト目で見てきても、ふふ。

 リッカは今度は骨の玩具に夢中だった。可愛いなぁ、尊いなぁ……。
 ボール遊びはいいんだね……可愛いなぁ……。

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