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第一章
相変わらずの兄弟
アルトは家にいると言ったので、リッカと散歩に行ってきた。リッカが帰宅後即、目指すのは。
最近購入したもの、それはボタンを押すと水が出てくる装置だった。タンクに水を補充しておけば、リッカが好きな時に水が飲める代物なんだ。リッカ自身で早速ボタンを押すと、備え付けの器に水が注がれた。彼はごくごく飲んでいる。
「……俺に頼んでくれたら、作ったのにぃ。つか、買ったのにぃぃ。プレゼントチャンスだったのにぃぃぃ」
アルトがなんか言っている。私はこれ以上悪いと返した。アルトにつれないと返された。
「リッカ、楽しかったね?」
「うん!」
リッカは上機嫌だ。私は良かったと頷いた。この流れならいけるだろうと、私の目が光った。この好機は逃さない……!
「ご機嫌だねぇ。そろそろ、君の体洗わせてくれないかな」
「ぐるるるるるるるる」
リッカは唸った。機嫌の良さはどっかいった。
「ほら……さっぱりするよ? もう痛くも沁みたりもしないから。ね、リッカ?」
「ぐるるるるるるるる」
まだ唸っている。私は途方に暮れていた。
「……ぐるるじゃねえっての。もう、怪我直ってんだからさ。シャーロットが、せっかくこう言ってくれてるんだし」
アルトは見かねでもしたのかな、フォローしてくれていた。うう、ありがと……。
「ぐるる」
「まだ唸るか。シャーロットなら、怖い思いさせないからさ。洗ってもらいな……ほら、リッカ」
「アルト……うん、わかった」
リッカ、そう名前で呼んだ。それを受けたリッカは、唸るのをやめた。私に近づく。お風呂に入る気になってくれたんだ。
「お風呂、きらい。こわい。でも、お願い」
「はい。じゃ、行こうね?」
こちとら洗う準備は出来ていた。あとは、風呂場で自分が薄着になるだけだった。
「そうそう、行こう行こう。俺も手伝うからさ」
アルト? なんか、自然な流れで一緒に来ようとしてるけど? 薄着にもなるわけだし、大変そうでもあるわけで。
「アルトはお茶でも飲んで待っててね? けっこう大変になると思うから」
「あー、手伝いてぇ……喜んで手伝います! だから手伝わせてください!」
「ありがとね、アルト。気持ちだけ、ね?」
「えー……」
アルトは項垂れていた。でも彼は諦めてないのか、私に向かって指をぐるぐる回してきていた。こ、これは……。
「ほら、気が変わって手伝ってほしくなったりとかー。ほしくなーれ。ほしくなーれ!」
暗示でもかけてこようとか……うん、困ったな。そんな困り果てていた時に、ドアのチャイムが鳴った。来客かな、店は閉めているのに。ドア越しで確認しよう。
「はい、どちら様でしょうか?」
「ああ、俺だ。モルゲンだ。突然すまないな」
「あれ、モルゲン先生?」
モルゲン先生その人だった。教師である彼と、こうして会うのは久々だった。彼の突然過ぎる訪問の理由、それを話し始めた。
「……ああ、アルトに用があってな。俺が出かけようと誘ったら、アイツは逃げてな。まあ、ここだろうなって」
「ここなんですか」
先生が真っ先に思いついたのが、私の家だったと。正解だった。当のアルトはというと。
――不在だと言ってほしいと、口の動きだけで伝えてきた。
「ええ……」
先生はわざわざここまで来てくださったのに。話くらいはした方がいいんじゃないかな。私はそう考えて扉を開けようとするも。アルトが涙目で訴えてくる。相当嫌なんだ……。
「ええー……」
私は困りきっていた、どうしたものかと。
「……なるほど、な」
扉の向こうの先生が何かを察したようだった。そして。
「……わかった。それじゃシャーロット、俺と出かけようか。色々と見て回らないか? ――二人きりでな」
「はあ!? ふざけんな、シャーロットは俺と過ごすんだよ!」
アルトは声を大にして反対してきた。あ、と私は彼を見た。反応してしまった彼を見た。
「お、やっぱりいるじゃないかぁ。シャーロット、開けてくれるか?」
「アルト? ちゃんと話はした方がいいよ」
アルトはウルウルしている。でももうバレてしまっているので、私は先生を招き入れることにした。
「おはようございます。モルゲン先生」
「あ、モルゲンだ!」
挨拶する私の足元から、リッカもひょっこり顔を出した。リッカ、ようやくモルゲン先生に懐いてきたのかな? 良かった良かった。
「おはよう。リッカも元気そうだな――それでだ、アルト? 用があるって言ったよなぁ?」
「すみません。普通に嫌です。本日の予定はシャーロットで埋まってます。ね、これでいい?」
私の隣までやってきたアルトは、褒めてと笑っていた。うん……まあ……うん。この話をしたからいいでしょ感、どうしたものかな……?
「……はあ。じゃあ、俺の用が終わったら戻ってくればいいだろ。なるべくすぐ済ますから」
「おお……」
「な、アルト? 俺の用事に付き合ってくれるんだ。今回はともかく言わないよ」
私は感銘を受けた。これが大人の対応……! これならアルトも承知するだろうと、先生も私も思っていたけれど。
「は? 嫌だし。今から実質、風呂上がりイベントなんだけど!? ほかほかシャーロットを拝めるんですけど!? ぜってぇ、やだ――」
「アルトがすまなかった。連れていくな」
アルト……。
イベントに現を抜かしていたアルトは油断していた。その間に先生は弟を拘束し、彼を連れていく手筈は整った。
「――は? くっ……なにこいつ、このっ……」
アルトの馬鹿力をもってしても、それは解かれることはない。コツがあるんだと先生は平然と笑っていた。
「やだって! ちょっと! 助けて、助けてシャーロットぉ!」
「またね、アルト。先生もよろしくお願いします」
「ええー……つれねぇ……」
私の助けを得られなかったアルトは嘆いていた。ほかほかシャーロットは……うん、ごめん。
「――そうだ、シャーロット。俺、年末は戻ることになっていてな。年内会うのは最後になる」
「はあ? なにそのいらない情報。シャーロット、スルーでいいよ……いってぇ!」
先生は笑顔のまま、弟の拘束を強めていた。
「……はい」
先生は実家に戻るのかな。一方で、彼の薬指にある存在。彼の恋人か、伴侶の元へか。私は何ともいえない表情で返していた
「来年もよろしくな――良いお年を」
「……!」
良いお年を。随分と懐かしい言葉だった。この世界で言われたことがなかった。偶々自分の周囲だけがそうだったのかな、うん。
「はい、今年もお世話になりました。来年もよろしくお願い致します……良いお年を」
本当に懐かしい感じ。私は微笑んだ。
「ああ」
先生も笑って頷いた。
「え、なにそれ。それで、デレてくれるの? じゃ、俺も明日言おうっと。明日も来るからね。大掃除手伝うからねー」
「え、それは悪いよ。アルトも年末はゆっくりしたら?」
「もう、シャーロット! 俺の楽しみを――」
二人、いや主にアルトの声が遠ざかっていく。アルトを拘束しながらも都へと向かっていった。
「二人ともいっちゃったー」
「ね、いっちゃったね。じゃ、リッカ。キレイキレイしようか」
「……はーい」
リッカは唸りはしないものの、顔中に皺を寄せていた。すごい顔だった。
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