春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第一章

新たなる事件、発生――

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 真夜中を回った。今年はあと一日はあるものの、私は昼にまったりしていた分を、取り戻すべく……この時間まで作業をしていたのだ。

 それもようやく終わり。自室にて就寝の準備をしていた。

「……?」

 階下から、ドアを叩く音がする。チャイムを鳴らさずに、ドアのみを叩く音がした。配達人さん? ううん、彼らはチャイムを鳴らしてくれるよね。

 閉店と立て看板で知らせているのにやってきた――真夜中の来訪者。

「……どういうこと?」

 まだ扉を叩く音がしていた。うん……下りようか。
 玄関までやってきた私は、部屋の灯りで在宅はバレているだろうと、様子見することにした。

「がるるるるる」
「!」

 リッカがいつの間に近くに来ていた。彼は尻尾を垂直に上げて警戒していた。

「――夜分に失礼します。こちらが魔法屋であるとお伺いしました」

 男性の声。といっても、淀んで濁り切った声をしていた。

「……」

 私は応答するか迷っていた。相手は構わず続ける。

「警戒されるのは、当然といえましょう。ですが、是非ともお願いしたい件ではあります」
「……」
「報酬は惜しみません――で、いかがでしょうか」

 私は目を丸くした。相手はとんでもない価格を提示してきた。大家への返済も出来て、孤児院への仕送りもたんまりと出来る。生活にも余裕が出来るほど、そんな額を。

「こちらはあくまで依頼料です。成功した暁には、成功報酬もお約束します」
「……」

 私はスっと冷静になった。そんな美味しい話、ないでしょ。私は沈黙を貫き、この男が去るのを待つことにした。相手は構わず話してくる。

「依頼内容は――あなたの魔力で人を殺めることです。相手につきましては、契約成立時にお話します」
「!?」

 この人、何を言い出すの……!? 当然、私が受けるわけがない。

「……」
「……」

 こっちが返事するまで、居座る気なの? ……それこそ困るよ。

「……お引き取りください。当店は、そのような内容は承っていません」
「……」

 私は答えた。男は、何も言わない。

「……こわいニンゲン、帰ったみたい」
「ちょっと見てくる」

 リッカは男が去ったことを伝える。私は扉を開けることはせず、窓から見ることにした。

 闇夜の下。遠くに見えるのは、黒い外套の男だった。不吉さを彷彿させるその後ろ姿。私は固唾を呑んで見守っていた。




 自分の部屋に戻ってきた。もう、このまま眠る気にはなれない。私は壁によりかかっていた。
 いやに胸騒ぎがする……うん、やっぱり向かおう。この村にある詰め所、そこに相談してみよう。さっきの人のこと、報告しておかないと。

「アルト、来るっていってたけど」

 まだ夜も明けてない。アルトが来る可能性もゼロとはいえない。なので外出中という貼り紙を扉に貼っておくことにした。アルトを外で待たせてしまったなら、その時に謝ろう。

「リッカ、お留守番しててね」
「わかったぁ……」

 リッカは寝ぼけているようだった。メッセージがちゃんと伝わったかな? ……うん、すぐ戻るからね?

 夜が明ける前の空。いつもは綺麗だと思えるそれが――私にはそら怖ろしく思えてならなかった。




 エーデル村の巡回兵の詰め所。そこが私の目的地だった。怪しい男のことを報告する為に訪れる。なんていったて殺人依頼だ。

「そうなんだよね……」

 記憶がある限りでは、この国では殺人事件など起こったことがなかった。
 この国においても、どれだけの重罪か。

「やあ、シャーロットちゃん。おはよう」
「おはようございます。折り入ってご相談がありまして――」

 顔なじみの村の巡回兵だ。この村の人達は、昔からよくしてくれる。孤児育ちの私からしたら、家族同然であった。
 当然信用して、昨日の来訪者の話をした。自分以外の店にも訪れかねない。これでよし、と。

「……」

 先生にも相談すること、それも考えた。ううん、先生は不在だ。今度会った時にでも報告しよう。

「……?」

 巡回兵達はにこやかなままだ。そう、彼らは話をしたあと、黙ったままだった。

「あの……」
「シャーロットちゃん――君が、『共犯者』だったんだね」
「!?」

 意味がわからなかった。不審者の報告をしにきただけ、私はそれだけだったのに。
 巡回兵の人が持っているのは、拡声器だ。まずい……! そう思っても止めることは叶わず。

『シェリア・カイゼリン令嬢殺害事件。自白により、共犯者逮捕。名はシャーロット・ジェム――』
「カイゼリン様……が……?」

 あのカイゼリン様が……? それだけじゃない、自白ってなに……?

 シャーロット・ジェムの自白による逮捕。私は建物の外を見る。ばらまかれているのは、自分の顔写真が掲載されたものだ。
 不審者が魔法屋に訪れた、殺人依頼を持ち掛けた。私は頭が眩みそうだった。この。
 ――この強制力はなんだというの。

「ああ……」

 足音がする。荒々しい、いくつもの足音。

「……!」

 私は理解した。金糸雀隊がやってきた――自分を殺しに来ようとして。
 わけがわからないまま、殺されるわけにもいかない。私は氷の魔力で対抗しようとした、けれども。

「……これが、我々の役目。我々の使命!」
「あ……」

 眼前に迫るは金糸雀隊。いつのまに距離を詰めていたのか。気づいた時には。

 ――シャーロット・ジェムは生を終えていた。
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