83 / 557
第二章
プロローグ――守られた日々
ふわふわの手触り。撫でる手から伝わるのはぬくもり。モフモフの彼――リッカは、私に身を委ねてくれる。
もう寝る時間だね。リッカと私は、ベッドの上でまったりしていた。今日が終わると、新しい年だね。
「よいお年を」
あらら、不思議そうな顔してる。こっちだと、結局そう言う習慣なかったみたい。それにしても、君ってば。あ、仰向けになった。毛布は、ずれてないみたいだね。
さっきまですごかったね。君のお腹、ぱんぱんだったね。食べたねぇ。食べつくしていたねぇ。料理、美味しそうだったもんね。
私も今度作り方教えてもらうね。え? いつものも美味しい?
「本当にこの子はー! 可愛いな、可愛いなあ! いいんだよ、私がそうしたいんだから、いいんだよ!」
あ、こんな遅い時間に興奮し過ぎちゃった。え、『彼』みたいって?
「似てた? そんなに?」
言われてみたら、かな? でも、認めるのもこう、なんか。あれかなって。
その彼もそうだけど。今日、遊びに来てくれて良かったね。彼だけじゃなくて。みんなで楽しかったね。盛り上がったね。こうやって、笑い合えるの、いいよね。
ふふ、笑った。君もご機嫌だね。あ、涎。ふふ、拭くね。ご馳走だったもんね。
リッカは寝息を立てていた。寝ながら、前足は動いていた。うん、料理が美味しいのもそうだけど、たくさん遊んだもんね。本当に楽しかったね。
「幸せだねぇ」
リッカを見て、私は幸せをかみしめる。
今回も守り抜いたんだ。私達が望む未来を勝ち取ったんだ。幸せな私は、安らぐモフモフを撫でた。このぬくもりも本物だ。
「すやすやだねぇ……」
純白でフワフワモフモフな君。君は怖がりだけど、純粋な気持ちで誰かを助けたいというのも。本当は勇気があることも。ちゃんと、知っているよ。
「……」
静かだ。静けさが訪れると、どうしても私は考え込んでしまう。
「よいお年を、か」
そう言って、笑ってくれた大人の男の人。私が、好きだった人。
生まれ変わりって、信じられているよね? この世界の伝承だったね。
人と人は分かたれようとも。強い思いによって、やがては再び巡り合うと。生命は巡り巡るものだって。私も小さい頃に教わったよ。
そう、私の前世の話。私はね、『皇冬花』って名前の子だった。その子は、報われなかった恋の果て――命を落としたの。
つい、思い出しちゃった。君には話せない話だけど、忘れたままで良かったんだけど。こういった記憶って思い出したら最後、なかなか消えてくれない。
前世での私、皇冬花。彼女は日本で暮らしていた高校三年生だった。元担任の片桐先生に恋をしていた。一度だけ、好きと言ってくれた先生。私は片思いが実ったと思って、もう、有頂天になっていて。あの人に溺れきっていた。
私の高校生活は、片桐先生一色だったといっていいくらい。かつての私は真剣だったんだ。
そう、大晦日だった。受験勉強の息抜きにって、テレビをつけてしまった。それなら、久々に見る推しの生配信にしておけば。それこそ、何も見ないとか。なんで、私はテレビをつけてしまったのかな。
生放送で、初詣の人達が中継されていた。そこでインタビューを受けていたのが、爽やかで明るそうな男性と優しそうで美しい女性。どう見ても、恋人同士。ううん――夫婦にも見えていた。その男性は。
片桐先生だった。その隣に立つ、大人の女性は決して私ではなかった。
片桐先生は、他にも遊び相手がいたりという疑惑もあった。私も、彼のマンションからまた別の女性が出てきたところ、見たことあるから。というか、出くわした。
片桐先生は、私を好きだとは言ってくれた。本命は私なんだって、信じ続けていたけど。信じただけ。あの人には、色々聞いてもはぐらかされて終わりだった。私は、もう、信じるしかなくて。信じて、信じ続けて。
卒業式の日に告げられたのが、――終わりにしようという言葉。そこらへんの記憶が曖昧だった。曖昧ながらも、覚えている内容はというと。
揉めていたのかな。暴れる私を抑えつけていたのか。その逆かはわからない。そのまま先生と屋上から転落して、命を終えた。
それが私の最初の死。
相手にされていなかった。騙されていた。私はそれでも、自分を責めていた。自分との出逢いが、片桐先生を苦しませて、こんな最期を迎えることになってしまったと。だから強く思ったの。もし、生まれ変わりがあるとしたら。
――片桐先生と出逢うことはありませんように。
片桐先生の為でもあって、自分の為でもあった。私は、もう耐えられなかった。恋というものは、私に幸せな気持ちをもたらしてはくれたけど、それは、もう溶けてなくなってしまったもの。もう辛い気持ちしか残ってなかった。
もう好きという言葉は信じられない。私は騙されるだけだと。いつしか恋というものを望まなくなった。私にとって、恋は怖いものとなった。
ドロドロした汚い気持ちは、もう嫌だった。これ以上、自分のことを醜く思いたくなかった。
「君が綺麗過ぎるから……」
私に未だに残るトラウマ。汚い感情。君には知られたくない。でもね、君が好きなのも、大切に思う感情は本物だから。だから、私はこの世界で生き抜いていきたいの。
――氷の力を持つ、小さな魔法屋の店主。シャーロット・ジェムとして。
「……」
いつにも増して熟睡っぷりだね。冬花だった頃は徹夜していたし、初日の出を見たりもしていたけど。
「私も、寝ようかな」
まだ大晦日のまま。今年はまだ終わってない。でも、なんだろ。すごく眠いんだ。寝よう、そう考えた私は、自分のベッドに潜り込んだ。あ、君を起こしちゃうかな。ちょっとした物音、話し声、色々心配してすぐ起きたりしちゃうから。
「大爆睡だ……大丈夫?」
リッカは仰向けになったままだ。あれ、本当に起きないな。耳、近づけてみよう。あ、寝息はある。うん、はしゃぎ疲れたのかな。そういう日もあるよね。
「おやすみ」
ここで眠れば、明日はもう新しい年。私達が生きていられる未来が――。
『今ならわかります――何度だって触れたくなるって』
『私は必ず戻ってきます。私はいます。私にもあなたがいる――これ以上の幸せはありますか?』
『私はあなたを逃がしません。ずっと愛し続けますから』
……あなたに守られていた日々のこと、今でも覚えているよ。
しあわせだった。あの頃のこと、あの家で過ごしたこと。
「……でもね」
私の傍らで眠るワンコを眺めていた。今いる場所が――私が望んだものだったから。
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。