春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第二章

君が生きている



「うう、冷えるなぁ……」

 その言葉は白い息となっていた。寒冷地方にあるこの国は、降雪がつきものだった。昨日の吹雪によって、雪が積もりに積もっていた。雪かきが大変そうとは思うけれど、このあと取り掛かろう。

 うん、死ぬよりはマシなんだ。

「あ」

 アルトの姿を発見した。こっちから声を掛けよう。

「アルト、おはよう」

 ループの度にアルトは元気よく挨拶してくれていた。今回もそうだと思われたのに。

「……アルト?」

 私の家の前にある、なじみの木。そこに座り込んでいたのは、アルトだった。

 ……アルト? いつもの彼と様子が違う?

 天然の癖っ毛に短めの髪、もともと整い過ぎた顔が、私を見ると……その、より蕩けて甘い顔立ちとなる。明るく笑う顔に、いつでも楽しそうな彼。それが私に見せてきた顔。

 ……今は違った。憔悴しきった様子で、笑顔なんてない。目は虚ろであり、涙で目を腫らしたあともあった。そんな彼が――私を見ていた。
 服装までもそう……彼は喪服だった。手にしているのは白い花束で。

「アルト……? どうしたっていうの……」

 ――大事な人を亡くしたかのような。アルトの今の姿がそうだった。

「……シャーロット?」

 アルトは、もたつきながら立ち上がった。花束も手から落とす。いつもスマートに動く彼らしくないものだった。

「……うん、そうだよ」
「シャーロット!」
「!?」

 アルトは涙が決壊した。涙ながらに私を抱きしめてきた。突然の抱擁に私は戸惑うも。

「……生きてる、シャーロットが生きてる」

 彼のおかしな発言にも困惑するも。

「……」
 私を抱きながら……彼は震えていた。こんな弱りきった彼を離すことはできなくて。

「うん、私は生きているよ。ちゃんと、ここにいるから」

 不安に震える彼を安心させるかのように、背中を撫でた。何度もそうした。

「シャーロット……」

 アルトは離すことなく、私が生きているという実感を感じ取ろうとしていた。彼の不安が薄れるまで、私は撫でていたかった。



 自宅に戻ると、アルトは後ろ手で鍵を閉めた。窓のカーテンも開けられてはおらず、部屋の中は薄暗かった。

「……」

 一瞬、どきりとはしたけれど、大丈夫だと思い直した。今のアルトなら、もう大丈夫だと。

「……夢でも見てんのかな、俺」

 泣き止んだアルト、今はただ、深刻そうな顔であった。

「夢じゃないよ。私は本当に生きているよ」
「うん、そうだね……あっちが悪夢で、今が現実だ」
「うん、そうだよ」
「そっか……」

 アルトは私をカウンター席まで招いた。私たちは並んで座った。

「……夢、だったんならいいんだ。あんな夢。そうだよ、夢に決まってるんだ」

 あー! と声に出したアルトは、髪をぐしゃぐしゃにした。

「あ、花束回収しとかなくちゃ。あれはね、シャーロットにあげられない。絶対にあげない。俺が責任もって持って帰るからね。もう、処分しかないし。花には悪いけど」
「……うん」 
「つか、びっくりしちゃったでしょ。もう、なんだったんだよ、あの夢は!」

 アルトは首を傾けながら、笑ってみせた。そう、彼に笑顔は戻った。それでも、まだ彼の瞳は不安に揺れていた。

「……そうだよ。あんなに生々しくても、夢は夢だ……あんなことには」
「アルト……」

 アルトの今の恰好。彼がこうも嘆いていたこと。今日会った時からの態度からそうだった。
 アルト……君は。君はどこまで知っているというの。

「アルト。話せたらでいいんだ。どんな夢だったの?」
「……それは」

 アルトは口にはしたくないようだ。下手に口にして、実際そうなったらって思いもあるんだろうね。

「……話せなかったらそれで。これ、信じるか信じないかだけど。悪い夢って、人に話した方が現実にならないんだって」
「えー……。急にスピリチュアル的な」
「うん、そうだね。スピってたね」
「ジンクス信じてるの、かわえぇ……」

 アルトは小さく笑った。少し調子が戻ってきたいみたい。

「うん……話すよ」

 アルトは語り始める。それは彼は夢の話と思っていても。私にとっては違う話――殺された、その後の話になる。

「……まあ、大晦日の朝方くらいかな。シャーロットが、その、ああなってしまって」
「うん、わかるから」
「……うん。急に放送が聞こえてきて。俺、飛び起きてさ。速攻で寮出て、そしたら、君のビラが舞ってて、村に着いた時にはもう――」
「うん」
「――『金糸雀隊』だっけ。そいつらが集団でいて」
「……うん」

 金糸雀隊――私にとっては『死神』だ。その存在によって私の生を終わらせられるのが、ほとんどだった。手段をも選ばない――春の女神の狂信者。

「君が、そいつらによって。そうだって、すぐにわかったよ」
「……」 

 私は言葉にならなかった。

「……殺してやりたかったよ、でも」

 アルトは、顔をそらした。暗い表情で俯いている。今でも耐えているかのような、静かな怒りがそこにあった。

「……それは、しちゃいけなかった。君も悲しむだろうし、俺もよくわからないけど――それは違うって」
「アルト……」

 これまでのアルトだったら返り討ちにしていた。彼のそうした思い、私はわかると思った。大切な人を失った時、恨まないでいられるかというと……それはないから。

「みんな、おかしいんだ。シャーロットがあんなことになったのに。みんな、君を大罪人だって。そこから、あんま覚えてなくて、記憶になくて……」

 アルトの手は震えていた。また涙まで溢れてきていた。

「……でも今朝になって、寮のベッドで目が覚めて。夢みたいなことが、現実に思えてきてさ。あ、俺が弔ってあげなくちゃって……俺だけでも、送り出してあげなくちゃって。そこからお墓たてて、花束も供えようって思って」

 アルトから溢れる涙は止まらない。彼は涙を流しながらも、話を続けていた。

「でもさ、おかしいわけ。村の人達、オーナーさんもそう。今朝になって――君が生きているとか。昨日から店が営業しているとかさ」
「……」

 そうだろうね、と私は静かに聞いていた。確かに私は『昨日』も店を開けていた。普通に店に立っていたのだから。

「あれは夢だったんだ、現実なわけない……!」
「アルト」

 私は彼の震える手に手を重ねた。彼はゆっくりと私を見た。

「私の死は耐えられない?」
「それはそうだよ。どうして平気だと思うの……? ――君の死に、慣れるわけないのに」

 ……慣れるわけない? 引っかかりはしたけれど、アルト本人も不思議がっていて。彼は自身の口元に手をあてていた。

「そうだよね。私だって、そうだから……」

 私だってそうだ。死に慣れることはなく、怯えるばかりだ。未来を迎える為にと強がっているに過ぎない。
 アルトならば尚更なんだ。人や犬には興味がないとのたまいながら、情に厚かったりもする彼なら……尚更だろうと。
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