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第二章
ずるい……羨ましい!
「アルトは……」
このアルトはおそらく――ループの記憶を保持している。だからこそ、今日が続きだと思っていたんだ。
アルトはきっと……私たちの繰り返される死には耐えられない。その記憶を抱えたまま、彼の精神は保てるのだろうかと。
「……」
「……シャーロット、あのさ」
涙で目を腫らしたアルトが、まっすぐに見てきた。
「俺のこと、仲間って言ってくれたでしょ」
「……うん」
「――俺も一緒に乗り越えたい。一緒に未来をみよう、シャーロット」
これしかない、とアルトは力強く伝えてきた。
「知ったからにはもう、なかったことになんてしたくない……君の死だって、乗り越えてみせるから」
あれだけ言葉にするのを避けていたアルトが、そう断言していた。彼なりの覚悟だった。
「アルト……」
前にも『アルト』に打ち明けたことがあった。その時は大変な事態を招いてしまった。でも今なら。今、隣りにいるのは――このアルトだ。
「ありがとう、アルト。決して、無茶はしないでね」
アルトの覚悟ごと、彼を受け入れよう。アルトも頷いた。
「つってもね、君の為ならね? いくらでも無茶しそうだけどね、俺!」
「無茶はしないでね」
アルトがにかっと良い笑顔をしていたので、再度釘をさすことにした。
「わあ、大事な事を二回言われた」
アルトに明るさが戻った。私も笑顔になる。
「でもさー、俺さ? 記憶があるっていっても、直前くらいでさ」
「そっか。それじゃ『今日』、門限破ったこととかは?」
「え、いつもじゃん……いや、今日門限破るんだ。おかしいねぇ、シャーロットがさ? いつも帰りなさいって言ってくれるのにねぇ?」
「……アルト」
アルトが今……何か言った。門限破りはいつものことだと言い出した。当人はとぼけているけど、こっちはしかと聞いていた。冷たい視線を送る。
「い、いやぁ? 本当にたまにだし? たまたま! 今日は、ちゃんと帰りまーす」
「……今日は。まあ、いいけどね。その方がいいよ。というか、今夜吹雪くから。早目に帰った方がいいかもね」
「やだやだ、絶対やだ! ぎりぎりまで居座る!」
帰らない! と、アルトは椅子の上で踏ん張った。吹雪こうとお構いなしにと。
「まあ、座ってくれててもいいけど。これから処方を――」
どのみち、この日はアルトは薬を求めて訪れていた。特に購入予定がなくとも、手伝いといっては、やってくるね……。
「待って、シャーロット」
ストップをかけてきたのはアルトだ。彼はすっかりいつもの彼だった。あんな沈みきった彼よりは断然良いものの、また彼に振り回されることになるんだ。
「えっと、私の恰好のこと? 寝起きじゃないよ?」
かつては寝間着でアルトに接客したこともあった。今は最低限外に出られる服装をしている。そのことじゃなくて?
「……それだよ! 俺、覚えてないんだよ! 今までの俺が、どれだけ君と……俺が知らない君と! どんだけ接してきたのか、どんだけいちゃついてきたのか!」
「いや、いちゃついてとか……」
「あー、この反応……ぜったい良い思いしてるわ、俺! そうだ、入学とかの話があったから、学園デートとか! お、お、俺の部屋に来たりとか!」
「……」
学園デート。アルトの部屋。いずれも何とも言えない思い出の場所であって。赤面もするし、青褪めもした場所だった。これはアルトには詳細は伝えられない。ましてや。
私は絶対に言えなかった――あの、『愛された日々』のことは。隣にいるアルトには言えない、知られたくないことだった。
「……」
アルトが私を見つめていた。やたらと頬が赤い。私が視線に気がつくと、勢いよく目をそらした。今のは何だったのか。意味深でもあった。
「……まさかね。まさかまさか」
アルトから忘れたと断言されたわけでもない。けれども、とくに触れてもこない。アルトは覚えてない。忘れている。うん、そうだ! そう思うことにしよう!
「……?」
視線といえば、もう一方からもだ。螺旋階段の途中で、リッカが視線を送り続けていた。リッカは、アルトの方もチラチラ見ていた。
「あ、そっか……」
通常ならば、この時点でリッカが家にいることはなかった。アルトの認識もそう。このワンコが喋ることも、ましてや記憶を保持しているとも思わないはずだと。リッカを安心させようとしたところ――。
「おいで、リッカ」
「……!」
優しく話しかけてきたのは、アルトの方だった。リッカの顔が明るくなった。飛ぶように階段を下りると、二人の足元までやってきた。
「アルト、覚えてる! 犬とかもう言わないんだっ」
名前で呼んでくれたことも、リッカはとても嬉しかったみたい。アルトの足元に頬をすり寄せていた。
「ん、犬はなかったよね。でも、シャーロットからの愛情たくさんもらって? 一緒にお風呂まで入れて? ズルイーヌには変わりないんで」
「ズルイーヌ!」
リッカは再びガーンとなった。私が『ズルイーヌはないでしょ』と抗議をしても、アルトはツーンとしていた。アルト……!
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