春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第二章

図書室のヌシ


 それから、学園長自ずから学園の案内をしてくださった。学園長からの親切心を断る思いもなく、学園を知る良い機会だよね。私は有難く思っていた。
 学園長の軽妙な説明に、私も和んだ。彼の人柄もあって、すっかり打ち解けていた。

「シャーロットさんよ。ここが図書室じゃよ」
「図書室ですね。私、好きなんです――」

 そう告げた途端、私に蘇るのは多くの記憶。
 前のアルトに、放課後デートと称して迫られたこと。
 それだけでもない――甘美な夢の舞台でもあった。シャーロットが図書室でうたた寝してしまった時に見たものだった。

「……はい、私、こちらもたくさん通いたいです」

 結局は相手が誰かわからないまま。アルトが第一に浮かんだけれど……彼は眠る相手にはしない、我慢していたとも言っていた。
 ……あれは単なる夢なんだ。鳥籠以外の夢があまりにも珍しかったから、覚えていただけ。私はそう考えることにした。

「ふぉふぉふぉ。それは、『あの子』も喜ぶのう」

 学園長は嬉しそうにしていた。図書室の扉を開けると、既に誰かがいた。その人物に学園長は声を掛けた。

「作業中、すまんのう。編入生の子じゃ。本好き、私達の同志じゃよー」

 ほのぼのとした声掛けをした学園長は、受付カウンターに向かう。私を手招きしながら。

「――おはようございます、学園長。同志、でしょうか?」

 穏やかな語り口の生徒だった。椅子に座っていた生徒は、カウンターから出てきた。

「……」

 その生徒を目にし、私はつい見惚れてしまっていた。
 綺麗な顔立ちの男子生徒。中性的であり、優雅に微笑んでいる。浮世離れしたような、儚い存在ともとれた。その優れた見た目もある、それでいて。
 特徴的なのは、ふわふわな頭の上にある二つの耳だった。たまに都で見かける存在――獣人族だった。尻尾はズボンの中におさまっているのかな。

「……?」

 そう、だからこんなにも気になるのだと。女性と見紛うほどの美しい見た目だから、こんなにも胸がざわつくんだって……そうだよね?

「……ええと。珍しいよね、獣人は」

 その男子生徒は気まずそうにしていた。私の視線が気になったんだ。

「あっ。すみません、失礼でしたよね」
「いえいえ。僕が気にしすぎかなって。こちらこそ、ごめんなさい」

 私は失礼を詫びた。相手の方は気にしないでと笑ってはくださったけれど……いいのかな。

「彼はエミル君じゃよ。この図書室のボスじゃな」
「はは、ボスって。普通の図書委員ですよ。はじめまして、エミル・ジュッツェです。高等部の三年生なんだ」

 図書委員のエミル・ジュッツェさん、笑顔で挨拶をしてくれた。名前呼びもだし、うん、ジュッツェさんだね。

「はじめまして――」

 私も返そうとすると。

「……ん、はじめまして?」

 ジュッツェさん、顎に手をあてて考え込んでいた。視線に気づいた彼は、何でもないと笑った。いいのかな? ……なら、続けて。

「……? 私はシャーロット・ジェムと申します。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね。ジェムさん」

 にこりと笑う彼は、とても上品だ。落ち着いた物腰で話しやすそうな先輩だった。それこそ、あの胸のざわつきは何かの間違いだったと、私は思えていた。

「うんうん、青春じゃのう。エミル君にも春が訪れたのかのう」
「学園長、お戯れはよしてください。それはともかくとして、僕から説明しておくね。図書室の利用方法だけれど――」

 ジュッツェさんが説明してくれるので、私も耳を傾けた。その様子を、学園長は微笑ましく見守っていた。貸し借りのルールや、取り扱いの注意。そして、利用時間についても。

「休日は午前中だけ。司書さんの代わりに僕が入ってるんだ」
「そうなんですね……」

 だからこの人と会うこともなかったのかって、私は納得がいった。その午前の時間もあと少しで終わる。

「ふむふむ。エミル君よ、私と代わるかのう? あとは若いお二人さんでのう」
「……学園長、それは突然のお話ですね」

 学園長はどうやら世話を焼こうとしているのかな? ジュッツェさんは当然というべきか、戸惑っている。それもそうだよね、面識のないような相手だもんね……わかるわかる。

「お気遣いありがとうございます。私の方は大丈夫ですよ」

 私も笑って答えた。学園長一人が残念そうにしていた。

「あ……ジェムさん、ごめんね? 午後は、その……家のことがあって」
「それでしたら、尚更ですよ」
「そう……」

 気まずい思いさせちゃったな……私はせめて何てことないと笑ってみせた。

「……空気感が一緒じゃからのう。お似合いかと思ったのだがのう」

 学園長一人が腑に落ちてなさそうだった。それでも気をとり直していて。

「では、シャーロットさん。爺との散歩はまだまだ続くのじゃ」
「はい、喜んで」

 こちらとしてもそれが良かった。気が楽だった。

「じゃあ、エミル君。邪魔したのう。また来るぞい」
「失礼しました。私も通いますね」

 私たちは連れ立って退室しようとした、呼び止めてきたのは、ジュッツェさん?

「……ジェムさん。やっぱり聞いておきたくて」
「はい、どうぞ」

 私は立ち止まって彼の言葉を待つ。学園長は一人ワクワクしていた。

「――僕達、どこかで会ったことある?」
「あなたと、ですか……?」

 私は記憶を辿る。この際、ループ時も含めてで。

「うーん……」

 どうしても思い出せない。私は諦念した。正直に伝える。

「すみません。どうしても思い出せないです」

 あと覚えがあるとしたら……胸のざわつきくらい。それ、わざわざ伝えることもないかな。

「……そうか。それじゃ、お互い初対面だね」
「はい。そうだと思います」
「ごめんね、呼び止めて」
「いえいえ、失礼しますね」

 今度こそ私たちは退室した。ジュッツェさんも小さく手を振って見送ってくれた。



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