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第二章
面談室会議、再び
「すっかり待たせちゃったな」
外の売店にも寄って、お昼ご飯は調達済み。リッカ用のご飯は携帯済み。リッカ、お利口さんには都で買ったとっておき、あげるからね……待っててね……!
「……男子寮」
と、考えている間にもう男子寮の前。緊張するも、これ以上待たせるわけにはいかない。私は勇気を出すことにした。寮の呼び鈴を鳴らすことにした。
「……」
以前に男子寮を訪れた時は、話しやすい男子がいた。願わくば彼であるように……!
「わ、女子だ」
「まじだ、女子だ」
「どうしたの? 誰か呼ぶ?」
ぞろぞろと寮生達がやってきた。例の彼はいなかった。私は男子の襲来に硬直したけれど……しっかり! 今は私しかいないんだから……!
「あ、ありがとうございます。アルト・モルゲン君です。知り合いでして、挨拶に来まして」
「「「……」」」
今度は男子達が固まった。彼らにとっては、あのアルト・モルゲンの知り合いの登場だった。しかも女子。フリーズしていた彼らは。
「……いや、行くわ俺。つか、普通に興味あるし。ちょっと待っててな」
彼らはぞろぞろとアルトの部屋へと向かっていった。度胸試しともいえた。
「お願いします……」
私は彼らの帰りを待つことにした。待っている間も、他の寮生から興味津々といった視線が集まっていた。会釈はしておこう。
「……」
待っている間、私の頭によぎったのはリッカの存在だった。アルト自身もだけど、犬連れならもっと話題になってもいいはずなのに……。
「――お待たせ―。いやぁ、モルゲン弟いなくてさ」
「わかりました。ありがとうございました」
アルトは男子寮には戻ってないようだった。リッカと合流していると仮定して、もう一つの心当たりがある場所。そこかな?
頭を下げた私に、彼らは手を振って見送ってくれた。気の良い人たちだったな。
学園の南方にあるのは、教職員寮。他の建物が立派なのに比べて、良く言えば質素な造りだった。
「失礼します。どなたかいらっしゃいますか?」
玄関口に管理人室はあったけれど、不在だった。私はもう一度失礼しますと言って、入っていった。
すぐ近くにあるのが面談室、私はノックする。
「失礼します。シャーロット・ジェムです――」
「シャーロット!」
「早っ」
秒でアルトが扉を開けてくれた。その早業に私は驚かずにはいられない。
「アルト、扉の近くでそわそわしてた。おかえり、シャーリー!」
「ただいま。おりこうさんだったねー」
リッカも出迎えてくれたので、私は抱っこした。
「いやあ、リッカいなくちゃきつかったわぁ……『こいつ』と二人とか」
「……そういうこと言うなよ。俺達、兄弟だろうが。――っと、お疲れ様、シャーロット。学園長直々に対応してくださったようだな」
奥側の席で、男性が立ち上がる。落ち着いた大人の男性の声が、私を労わってくれていた。
見た目はウエーブがかった黒髪を真ん中に分けている、けだるげで退廃的な見た目の男性。その中身は気さくで、生徒思いで評判の教師だった。生徒を名前で呼ぶのが彼のモットーなんだとか。
彼はアインスト・モルゲン。この学園の教師で、アルトの兄でもあった――私たち同様、記憶を引き継いでもいる。
「はい。校内も案内してくださいました。遅くなってすみません」
今となってはの話……彼に片桐先生の面影を見ていた。今でもね、彼と片桐が重なるところがある。でも無関係だと結論づけていた。
どうしても気にしてしまうことはある……モルゲン先生の左の薬指にもある、指輪のこと。約束された相手がいるということ。どうしても気になってしまう……。
「……」
そんな私をアルトが見ていた。私ががその視線に気づくと同時に、彼から会話を切り出した。
「とりあえずさ、兄貴と話は済ませておいたから。俺も覚えているって、言っといた。協力もするって」
「……そっか」
待っている間、アルトの方で話を進めておいてくれたようだった。先生はというと。
「……兄としちゃ複雑だ。俺でもきついんだぞ。お前にも耐えられるのかって」
「今更だし。俺は何も出来ない方が嫌だ。つか、散々話したでしょ」
「……そうか」
弟の固い決意に、兄である先生はそれ以上言うことはなかった。
「アルトの方はわかった――で、今回の件についてだな」
「……はい」
アルトもそうだし、先生もそうだ。前回の放送は聞いている。被害者の名前は――。
「シェリア・カイゼリン様ですね」
「そうだ」
私の発言に、モルゲンも頷いた。この学園の生徒であり、自治委員会のトップ。彼女が今回の被害者となる。
「……そうだ、アルト。モルゲン先生もですね。教えてください。私の放送の時、共犯者がどうこう言ってました。共犯者が誰かさえわかれば――」
わざわざ無実のシャーロット・ジェムの名前は出したくらいなんだ。ここで、共犯、いや真犯人のはずの人、名前が出ないのはおかしいだろうと。
「……それが、さあ」
「……それが、なあ?」
兄弟は顔を見合わせた。説明することにしたのは先生の方だった。
「それがなあ? お前の名前だけ。相手の名前は出してないんだよ……ふざけた話だ」
「……なんだかねぇ。お偉いさんとかで? もみ消されたりとか?」
不都合なものを隠したといったところ? ここで確認が出来れば有利だった、そうはいかないみたい。どのみち私の取る道は決まっていたので、先生にも伝える。
「――私、入学することにしました。その方が探りやすいと思いまして」
「……わかった。危険なことだけはするな、と言いたいところだが。せめて相談してくれよ。な?」
「……はい。よろしくお願いします」
一人で乗り越えられるわけではなく、難しいことでもあった。力を合わせてなら乗り越えられる。私は素直に承諾した。
「よし。いい子だ、シャーロット――」
「はい、セクハラ阻止」
「おい、セクハラって……いや、アルト? 痛いんだが?」
この流れで頭を撫でようとした先生を、すかさずアルトが止めた。先生の腕を強く掴んでいた。そんなアルトの目は据わっていた。
「だめだめ、絶対にだめ。別にさ、他の子らにやってもいいけどさ。知らんし。この子はだめです。この子に対しては、完全にセクハラです」
「なんだそれは……」
モルゲン先生は納得がいってなかった。
「つか、あんた教師でしょ」
アルトが正論で返した。先生は唸っていた。
「……はあ、アルトはいいよな。お前は頭撫でてもらってたっけか? はあ、幼馴染は気楽だよな。幼馴染はな」
「ちょっと、モルゲン先生……」
確かに……アルトの頭を撫でたことはあった。アルトの要求によるもので、こちらとしては蒸し返さないでほしかった。
「は? ……え、また、覚えてないこと?」
動揺したアルトの力が弱まっていたので、先生は手を軽く払った。
「行くんだろ? 自治委員会。付き添うぞ」
先生は面談室の扉を開けた。
「はい、お願いします」
先生を介してなら、話も色々と通りやすいよね。お願いします、と私は頭を下げた。
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