春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第二章

うん、どうしよう



「失礼する。モルゲンだ。入ってもいいか?」

 部屋の前で先生がノックをした。

「あら、モルゲン先生? ――ひとまず、向かわせますわ」
「……」

 私たちの目的の人物――彼女はご在室だった。
 シェリア・カイゼリン様。これから起こり得る事件の被害者……。

「ごきげんよう、モルゲン先――そちらのご婦人は、編入生の方でしょうか」
 カイゼリン様の指示により、出迎えてくれたのは理知的な男子生徒。
 彼はリヒターさん。カイゼリン様の側近の人、で合ってるのかな。
 若干短めの前髪を斜めに流したこげ茶の髪に、切れ長な目が印象的な人。端正ながらも感情が読み取れないんだよね……。

 お二人は委員会特有の制服を纏っていた。詰襟タイプで厚手素材のものだった。ズボンとスカートとで下半分のデザインは分かれているんだね。

「業務中に悪いな。お前に紹介したい子がいてな。明後日から、うちに通うことになった編入生だ」
「ええ、存じてます。初めまして、選ばれし方? わたくしは、シェリア・カイゼリンよ」

 内向きに巻かれた髪は肩くらいの長さだ。華やかな顔立ちに強い眼差しの女生徒。彼女は玉座そのものの椅子で優雅に構えていた。こうして面すると……女帝そのものって感じ。

「……」

 ただ、それだけではないことを私は知っていた。朗らかで、表情豊かで、ワンコにメロメロなことも知っている。彼女は汚れきっていたリッカをも、躊躇なく抱きしめてもいた。
 私たちからの頼みも聞いてくださったのもそう。犯人の動機は不明だけど、人の恨みを買うような人かな……。

「シャーロット」
「……すみません」

 ぼうっと見ていたことを、先生にこっそり指摘された。態度があからさまだったかもしれない。

「……」
「……」

 私たちのすぐ近くにいる、側近の人。今もこうしてこっちを見ていた。この人、こうして近くにいると改めて実感する。背がすごく高い……完全に見下ろされてる状態。

「……」
「……」

 リヒターさんはまだ見ていた。キリがない……うん。私は落ち着かない気持ちのまま、自己紹介をすることにした。

「初めまして。私はシャーロット・ジェムと申します。よろしくお願いいたします――カイゼリン様」

 私は深々とお辞儀をした。と、同時にこれでよしと満足そうだった。
 ――『カイゼリン様と呼ぶように』。側近の人に強要されたこと、私はちゃんと覚えているんだよ。同じ注意はされたくはなかったし、前みたいに執拗に言われることもないよね。
 そう考えていたのに。

「――シェリアさんで、よろしいかと。親しみを込めた方が喜ばれますかと」
「え……?」

 私が顔を上げた矢先、彼はそう口にした。私もそうだし、先生も口をあんぐりとさせていた。言っていることが前と違う……!

「わたくしはどちらでも構わなくてよ? 彼の言うことはお気になさらないで?」
「かしこまりました……シェリアさん、ですね?」

 私はこう返すことにした。ここは穏便にいこう。

「……」

 口出ししてきた人からの視線が痛い。無言でガン見してくる。それでいて……なんか納得がいってなさそうな? そんな彼が言い放ったのは。

「……違和感、でしょうか。やはり、カイゼリン様でお願い申し上げます。やんごとなき方でございます故、そうしていただけますと」
「は、はい……」

 私の口元はひくひくしていた。なんとか笑顔は作ったけど……作ったけれど。この人はどういう人なの……!

「リヒター? 貴方、彼女とお知り合いなの?」

 カイゼリン様が不思議そうに尋ねていた。

「……いえ、初めてお見かけしましたが。シェリア様、どのような意図でしょうか」
「意図、ですの。いえ。そのような気がしただけよ。わたくしの気のせいですわね」
「ええ、そのようですね」

 リヒターさんは一定の調子で答えた。普段通りね、とカイゼリン様は質問を無かったことにしていた。

「失礼、彼はリヒター。わたくしの補佐を務めてくれているの。本日は休日ですから、わたくしと彼のみよ」
「そうなのですね。本当にお疲れ様です」

 私は大変だろうと思いつつ、尊敬もしていた。トップは休日返上なのに、部下たちは休める時は休ませているというね。

「ええ、ありがとう」

 カイゼリン様も微笑んだ。優美なる笑顔ともいえるもの、綺麗だなぁ……。

「――で、リヒターは苗字な。俺もこいつに限っては苗字で呼んでいる」

 先生からの改めてのご説明。ありがとうございます、先生。

「承知しました。リヒターさんもよろしくお願いしますね」
「……」
「……リヒターさん?」

 リヒターさん、思案しているようだったけれど。

「はい、リヒターは苗字です。そちらでしたら、お好きにお呼びください。呼び捨てていただいても構いません」
「……はい、その、慣れましたらで」

 ここは大人しく従うことにした。慣れたらとも保険をかけておいて。まさか、また言われたりとかは――。

「何故ですか」
「……え」

 何が何故なんだろう……聞きたいのはこっちの方だよ……疲れてきたよ……。

「慣れるとは、どういったことでしょうか。ただ、呼び捨てればよいだけの話ではありませんか。何を慣れる必要があるというのでしょうか」
「そ、それは……」

 矢継ぎ早に訊いてくる。私はたじたじだった。

「何故でしょうか」

 まだ訊いてくる。もう観念して答えることにしよう……。

「……人様を呼び捨てにするのは、ハードルが高いから、です。男の人なら、もっとです」

 恥ずかしさと緊張で上手く答えられたのか、自信がない……あの幼馴染でやっとなくらいなのに。ほぼ面識のない人ならハードルはかなり跳ね上がる。

「……」
「……」

 リヒターさんは何も言わない。うん……どうしようね。

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