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第二章
話題が……話題がほしい!
外が吹雪いていようと、学園内においては影響はない。雪は降らないものの、曇り空とはなっていた。休日ということもあり、灯りもともされていない影をさす廊下。
「……」
「……」
そのような薄暗い廊下を、私はリヒターさんと並んで歩いていた。階段を下りて、長い廊下を渡る。それまでの間、黙りきったままだった。
「……大丈夫か、あの二人」
先生は律儀に少し離れた位置を歩いていた。この二人だけで盛り上がるのも、至難の業そうだって思われているのかも。
「おーい、シャーロット」
「……先生」
先生は普通に話しかけてきた。リヒターさんがちらりと見ると『話しかけただけだが?』と平然と。先生が間に入ること、助け船といえるもの。
「……」
それでもと、私は思った。改めてリヒターさんを確認した。この人とも接触した方がいい、そういうことなんだ。苦手意識があろうとも意気込むことにしたんだから、ここは頑張らないと……!
さあ、話題を見つけよう。話題、話題――。
「……あれ」
リヒターさんの左腕にある金色のもの――精巧そうな造りの腕時計。美しい装飾に繊細なデザイン。この、実務的な人が持つには意外そのものというか。気になる代物だ……。
私は振り返る。今までこのような腕時計をしてたかな? 私の記憶にはなかった。これだけの意外性なんだから、どこかで気づいてるはずなのに。
つまり今回のループか、それか直前のループからつけていたことになるのかな。
「リヒターさん。ふと目に入ったのですが。素敵な腕時計ですね」
私は素直な心で褒めた。手入れも行き届いてるし、よほど大切に扱っているんだなって。
「……腕時計?」
リヒターさんが聞き返してきた。
「はい、リヒターさんの腕時計です」
「……ああ」
リヒターさんは左腕を上げ、自身の腕時計を見ていた。
「……ありがとうございます」
リヒターさんは褒められたからお礼を返した、それだけだった。
「……はい」
そこで会話が途切れた。もうね、白旗を上げたい気分だった……ううん、粘る!
「休日もお疲れ様です。自治委員会のお仕事、大変そうですよね」
「ええ、大変です」
「そうですよね。いつも生徒のみなさんを思って活動されてるのですね。ご苦労もありますよね」
「はい」
「……はい。……ええと、あとは」
またしても途切れてしまった。私が必死に話題を探しては……途切れて。その繰り返し。
お互いに黙っていた方が良かったりもするのかな? リヒターさんとしても。
「……」
その彼からの視線を感じる。煩かったのかな……そうだね、次の話題が受けなかったらもう黙ろう。その覚悟の上で話しかけることにした。
「……カイゼリン様も素敵ですよね。美しさももちろんのことですが、誇りも高くて。本当に憧れます」
リヒターさんは、カイゼリン第一だろうから。なら、彼女の話ならどうかと思ったんだ。最早切り札、というかもっと早くにしておけば良かったね。これでも駄目なら……もう黙ろう。
「……」
リヒターさんはこちらを確認すると、また何かを考えていた。それから彼はまっすぐ前を見ていた。何かに思いを馳せるかのような……?
「……はい。シェリア様は素晴らしい方です。ご本人の素養もさることながら、慈愛に満ちていらっしゃる方です」
「……! そうですよね、本当に素敵な方ですよね」
ようやくリヒターさんが食いついてきたかと、私の顔が明るくなった。カイゼリン様の話なら乗ってくれるんだ。うんうん、訊けるところまで聞いてみよう。
「お二人は付き合いが長いのですか」
「はい。幼少の頃からの付き合いです。我がリヒター家は、カイゼリン家に仕えるのが定めでした。私は幼い頃より、シェリア様についておりました。出会った当初のことはよく覚えております」
「そうだったんですね」
リヒターさんとカイゼリン様の関係は、家絡みから始まったようで。リヒターさんは懐かしむような表情だった。あの無表情に変化が見られたとは。私は内心驚いていた。
「自治委員会をここまで盛り立てたのもシェリア様です。ならば私も付き従うまででした」
「すごいですね。カイゼリン様もすごいですけど、リヒターさんも支えてこられたんですよね。すごいことだと思います」
「……私のことはお構いなく。素晴らしいのはカイゼリン様です」
「すみません。ただ、心から思います。お二人は素敵なご関係だなって」
ただの従者関係ではない。お互いが信頼をしていて、手を取り合っているのだと。私も見てて羨ましくなるような関係だ。
「……素敵な関係、ですか」
「……!」
もともと目つきの鋭い男がさらに鋭くさせていた。私は突っ込み過ぎたかと、言い直すことにした。あくまでカイゼリン様の話をするべきかな、って。
「その、カイゼリン様が素晴らしさがあってのご関係ですよね……?」
「さようでございます。あの方が寛容だからこそ――」
リヒターさんは寛容、と言いかけてやめた。
「リヒターさん?」
「……いえ、失礼いたしました」
リヒターさんが呆けている、私は珍しいものを見たと思っていた。
「……ええ、カイゼリン様のお話でしたね。他に話す事も特にありませんし、この機会によろしければ。どうぞお尋ねください」
「……はい」
話す事がないと、はっきりと言われてしまった。私は微妙な気持ちにもなりつつも、カイゼリン様の話の続きを聞くことにした。良い機会だよね。
「ええ、そうですね。シェリア様は――」
「わあ……」
リヒターさん、喋る喋る。カイゼリン様の話になった途端、饒舌になった感じかな?
「――ええ、自治委員会の仕事は多岐に渡ります。その為、シェリア様のご負担も増えまして。それが専らの悩み事でもあります」
「それは、確かに心配事でもありますよね……」
リヒターさん、本当によく話すね。彼がカイゼリン様を案ずる心も本物だろうと。
「私などでは、あの方のご負担を和らげることは出来ませんから」
「……リヒターさん」
私は単純に疑問に思っていた。それはリヒターさんの日頃の行動によるものだ。彼がいかに、主に尽力してきたか。それこそ、彼がそこまでしなくてもいいだろうということまで。
それを私は繰り返しの日々の中、見てきたんだ。
「……」
私はそれを伝えたい。でも、リヒターさんが彼自身の話を好まないように思っていた。それにたった今、出会ったばかりだ。怪しまれるのが落ちでしょうね。
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