103 / 557
第二章
リッカ様もご一緒に
「そして、本日の用向きでございますが。自治委員会の巡回路や業務内容の説明。もちろん、シェリア様へのご挨拶。そう考えておりました」
リヒターさんは私服の私、そして腕の中の子犬を見た。休日を楽しむといった体の私とリッカ。
「……」
私はリッカを見た。彼の尻尾は下がっていた。散歩を我慢するってことかな……。
『シャーリー――カイジェイン、助けようね』
リッカのこの言葉に偽りはないから。自分の散歩どころではないと、リッカは思っているんだ。
「……ごめんね、リッカ。アルトのところにいっててね――リヒターさん、すみません。一旦、アルトの元に行ってきてもいいでしょうか? この子を預けにいきたくて」
結局はアルトとの約束を破ることになる。その時に謝ることにした。
「……」
リヒターさんは今度はリッカを注視した。私は困っていた。これはさすがに承知してほしかった。
「リヒターさん、あの」
「構いません――そちら、リッカ様でいらっしゃいますね。連れてきてくださっても、差し支えはないかと」
「いいんですか?」
「はい」
リヒターさんはこう言ってくれた。私は明るくなり、リッカも尻尾を盛大に振った。
「ありがとうございます! 大人しくさせてますんで。校舎内は抱っこしますし」
散歩ということで、リッカを地面に下ろした。リードも、もちろん忘れずに。校舎内は抱っこする。私はそう決めた。
「ええ。何かありましたら、飼い主責任でお願いします」
「わかりました。それにこの子、賢いので大丈夫です」
「飼い主は皆、そうおっしゃいますね」
「……ははは」
痛いところをつかれてしまったけれど、笑っておいた。リッカはというと、リヒターさんの足元にやってきた。彼の匂いを嗅いでいるようだった。
「……」
リヒターさんは立ち尽くしていた。犬が苦手な人なのかもしれない。
「あ、リッカ! すみません、リヒターさん」
リッカの行為は、習性で確認で、おそらく親愛をも示すもの。私としては止めたくもなかった。とはいえ、飼い主責任の話が出たばかり、止めようとした。
「……構いません。どう対応したらいいか、わからないだけです」
「……?」
リヒターさんの最初の一声が震えた気がした。私は空耳かと思った。うん……まあ、怖がってるとかじゃないのかな?
「怖がってなどおりませんが」
「……はい」
……怖い、怖いよ、心を読まれたこっちが怖くなった。
うん、ともかく。彼が怖がってないということならば。
「なるほど。それなら、すぐ済むと思います。すみません、気が済むまでやらせてあげてください」
「……承知いたしました」
棒立ちのリヒターさん相手に、リッカは匂いを嗅ぎ続けていた。
「……」
「……」
結構長かった。しつこかった――リッカはようやく嗅ぎ終えた。満足そうだった。
「……すぐ済む、とは」
「はい、返す言葉もございません……」
飼い主責任を問われることはなかったけれど、かなりの時間が経過してしまったね。
「よいでしょう。リッカ様がご満足いただけたのなら」
リヒターさんは機嫌を損ねることもなく、リッカに眼差しを向けていた。
「……」
私はリヒターさんのことを考えていた。そう、彼は。
「そういえば、アルトのことは名前呼びなんですね」
「いささか唐突ではありますね……失礼いたしました。ご本人様が、弟呼ばわりを嫌がられておられるようで。あえてそう呼ぶ必要もないと、考えたまでです」
「……リヒターさんって」
不思議な人だ。私に対しては基本あんな感じだけれど、それでも。
――随所随所で助けられてきたんじゃないかって。さりげなくフォローしてくれたりとか。
「そっか……」
今回の補佐の補佐の件だってそう、リヒターさん、動いてくださったんだ。
私……先入観に囚われていたんだ。苦手意識ばかりが先走っていて……気づくのが遅くなってしまった。
「リヒターさん、いつもありがとうございます」
ほぼ初対面のリヒターさんに伝えても、彼からしたら何の話か、だよね。だとしても、私はどうしても伝えたくて。
「いえ、私は何も。お礼はシェリア様にお願い致します」
「私はあなたにお礼が言いたいんです。あなたに嫌がられようと――リヒターさん、あなたにです」
私は笑いながらそう言った。
「……」
リヒターさんは黙ったまま。そこはまあ、仕方ないよね。
……って、リヒターさん? 彼は腕時計を片方の手でさすっていた。癖か何かなのかな?
リヒターさんは私服の私、そして腕の中の子犬を見た。休日を楽しむといった体の私とリッカ。
「……」
私はリッカを見た。彼の尻尾は下がっていた。散歩を我慢するってことかな……。
『シャーリー――カイジェイン、助けようね』
リッカのこの言葉に偽りはないから。自分の散歩どころではないと、リッカは思っているんだ。
「……ごめんね、リッカ。アルトのところにいっててね――リヒターさん、すみません。一旦、アルトの元に行ってきてもいいでしょうか? この子を預けにいきたくて」
結局はアルトとの約束を破ることになる。その時に謝ることにした。
「……」
リヒターさんは今度はリッカを注視した。私は困っていた。これはさすがに承知してほしかった。
「リヒターさん、あの」
「構いません――そちら、リッカ様でいらっしゃいますね。連れてきてくださっても、差し支えはないかと」
「いいんですか?」
「はい」
リヒターさんはこう言ってくれた。私は明るくなり、リッカも尻尾を盛大に振った。
「ありがとうございます! 大人しくさせてますんで。校舎内は抱っこしますし」
散歩ということで、リッカを地面に下ろした。リードも、もちろん忘れずに。校舎内は抱っこする。私はそう決めた。
「ええ。何かありましたら、飼い主責任でお願いします」
「わかりました。それにこの子、賢いので大丈夫です」
「飼い主は皆、そうおっしゃいますね」
「……ははは」
痛いところをつかれてしまったけれど、笑っておいた。リッカはというと、リヒターさんの足元にやってきた。彼の匂いを嗅いでいるようだった。
「……」
リヒターさんは立ち尽くしていた。犬が苦手な人なのかもしれない。
「あ、リッカ! すみません、リヒターさん」
リッカの行為は、習性で確認で、おそらく親愛をも示すもの。私としては止めたくもなかった。とはいえ、飼い主責任の話が出たばかり、止めようとした。
「……構いません。どう対応したらいいか、わからないだけです」
「……?」
リヒターさんの最初の一声が震えた気がした。私は空耳かと思った。うん……まあ、怖がってるとかじゃないのかな?
「怖がってなどおりませんが」
「……はい」
……怖い、怖いよ、心を読まれたこっちが怖くなった。
うん、ともかく。彼が怖がってないということならば。
「なるほど。それなら、すぐ済むと思います。すみません、気が済むまでやらせてあげてください」
「……承知いたしました」
棒立ちのリヒターさん相手に、リッカは匂いを嗅ぎ続けていた。
「……」
「……」
結構長かった。しつこかった――リッカはようやく嗅ぎ終えた。満足そうだった。
「……すぐ済む、とは」
「はい、返す言葉もございません……」
飼い主責任を問われることはなかったけれど、かなりの時間が経過してしまったね。
「よいでしょう。リッカ様がご満足いただけたのなら」
リヒターさんは機嫌を損ねることもなく、リッカに眼差しを向けていた。
「……」
私はリヒターさんのことを考えていた。そう、彼は。
「そういえば、アルトのことは名前呼びなんですね」
「いささか唐突ではありますね……失礼いたしました。ご本人様が、弟呼ばわりを嫌がられておられるようで。あえてそう呼ぶ必要もないと、考えたまでです」
「……リヒターさんって」
不思議な人だ。私に対しては基本あんな感じだけれど、それでも。
――随所随所で助けられてきたんじゃないかって。さりげなくフォローしてくれたりとか。
「そっか……」
今回の補佐の補佐の件だってそう、リヒターさん、動いてくださったんだ。
私……先入観に囚われていたんだ。苦手意識ばかりが先走っていて……気づくのが遅くなってしまった。
「リヒターさん、いつもありがとうございます」
ほぼ初対面のリヒターさんに伝えても、彼からしたら何の話か、だよね。だとしても、私はどうしても伝えたくて。
「いえ、私は何も。お礼はシェリア様にお願い致します」
「私はあなたにお礼が言いたいんです。あなたに嫌がられようと――リヒターさん、あなたにです」
私は笑いながらそう言った。
「……」
リヒターさんは黙ったまま。そこはまあ、仕方ないよね。
……って、リヒターさん? 彼は腕時計を片方の手でさすっていた。癖か何かなのかな?
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。