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第二章
送り出してくれた存在
翌朝、ついにこの日がやってきた。支度を終えたので寮の自室、玄関に立っていた。
「……学生生活」
どうしても冬花の頃の記憶を引きずってしまう。最初の一歩が踏み出しづらかった。
「シャーリー、いってらっしゃい!」
「リッカぁ……」
純白のモフモフがお見送りに来てくれた。そう、今は励みになる存在もいるんだから。よし、と扉に手をかけた。
「行ってくるね、リッカ」
「うんっ」
心強い存在だった。
「あ。おはよー、シャーロット!」
通りすぎる女子生徒に、ちらちらと見られる男子生徒。彼はこっちを見ると大きく手を振っていた。そして、駆け寄ってきた。その様は大型犬だった。
「アルト。おはよう」
見慣れた姿に私は胸を撫でおろした。
「え、アルト君、あんな感じだっけ……」
「なんか、別人というか……」
見慣れない姿に、他の女子生徒達は驚いていた。アルトは特に気にもせず、話をする。
「ほら、学生生活じゃん? こんなん、一緒に登校するしかないじゃん?」
「一緒に登校してくれるの? 良かった、安心した」
安心した私は柔らかく笑った。
「……こんなん、一緒に登校一択じゃん」
アルトも笑っていた。でも笑顔も一転、苦々しそうな顔になった。
「……昨日だけど。リヒターにさ、譲ることになったからさ」
本校舎に向かいながら話をしていた。アルトが言うのは昨日の件のこと。
「……そうだね。昨日約束してたのに。ごめん、アルト」
昨日、アルトは帰ったと。リヒターさんがそう淡々と述べていた。リッカを預けにいく流れにならず、流れてしまっていた。遅くなってしまったけれど私は謝罪した。
「それはいいんだよ。俺、わかってるからさ。シャーロットが頑張ってるの」
「うん、ありがとう……」
「なので、俺。リヒターにはすごい顔するだけで、すましといた!」
「どんな顔……」
私が思い浮かべたのは、あの風呂嫌い犬の、シャンプー時の顔だった。あれくらいのすごい顔をしていたの?
「あとさ、あいつ言ってた。『ジェム様は自治委員会のものになります』とか。あれは、あかんわ……なにあれ」
「え」
心底嫌そうに言うアルトの発言に、私は度肝を抜かれた。昨日、リヒターさんが説明した時は、本当に淡々としていたのに。何事もないかのような口ぶりでもあって。それなのに……。
「……うん、そうだね」
「え!」
リヒターさんの発言は間違ってはいない。私が所属したのは確かだ。ショックを受けているアルトに私は補足をすることに。
「私、補佐の補佐になったんだ。えっと、リヒターさんの補佐にあたることになって。当初の目的は果たせたから、感謝はしてるの」
「ええ!?」
アルトはより衝撃を受けていた。すごい顔もしていた。なるほど、こういう顔かと私は思っていた。悠長な私に対し、アルトは息を荒げていた。
「そ、そ、そんなん、絶対危ないって!」
「いや、危ないって……」
「だって、二人きりが増えるじゃん? シャーロット可愛いじゃん? あいつムッツリじゃん! 絶対危ないって!」
「ちょ、ちょっと、アルト……」
登校途中の生徒達が一斉に私たちを見る。学園の有名人のアルトと、謎の女生徒。元々注目はされていたのに加えて、さらにムッツリ発言ときた。
「ああ、今すぐにでも取り消しさせてぇ……」
「いや、危ないってことないし。あと、人のことムッツリ言わないの。そこは訂正しよう?」
「やだやだ。あいつ、絶対にムッツリだし」
「やだ、じゃないの」
「やだったらやだ……まあ、シャーロットに警戒してもらうしかないか。いつでも、俺のところに逃げ込んでおいで? ね?」
アルトが両手を広げてくれたので、私は気持ちだけ受け取っておいた。あの堅物の男に、この自分が。それはないだろうと苦笑してしまった。
それでもアルトが言う通り、ムッツリは言い過ぎとしても。そうした好意を寄せるのならば――該当する人物、その人って。
「ふふ」
私は微笑ましくなって、笑ってしまった。うん、『彼女』だよね? うんうん。
「とにかく。私というよりは、別の方かもよ?」
「ええー? そう?」
「そうだよ。ほら、仲が良さそうな女性いるでしょ?」
「ええー……?」
それが誰かなのか、までは言わない。私はヒントだけ出しておいた。アルトはピンとこなさそうだった。恋愛に聡そうな彼にしては珍しいね?
「あ……」
そうこうしている内に、本校舎の前まで着いていた。私は息を呑む。それでも。
『シャーリー、いってらっしゃい!』
送り出してくれたリッカも。
「行こ? シャーロット」
怖がっているのを察したのか、優しく声をかけてくれるアルトも。
「うん」
私の背中を押してくれる。私は本校舎に足を踏み入れた。
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