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第二章
今日も女神像は美しい
委員会の活動時間を終了し、私はクタクタのまま帰宅した。もう日も落ちていた。
「リッカのお散歩が……」
もうこれだけが楽しみで、やっとの思いで帰ってきた。女子寮で健気に待つワンコに癒されたいのと、遅くなってしまったことへの罪悪感。私はごちゃ混ぜの気持ちだった。
「シャーリー、おかえり!」
鍵は開けたままだ。扉を開けると、一目散にリッカがやってきてくれた。彼は尻尾を振りながら、私の周りをぐるぐる回っていた。
「リッカぁ……」
私の疲れは一気に飛んだ。リッカの為ならば、体力を使おうと、神経をすり減らそうと。やっていけると思えたんだ……!
「遅くなってごめんね。お水は大丈夫だった?」
リッカ用にボウルをいくつも用意していたけれど、それらは空になっていた。寮の人たちからももらっているみたいだけど、自由に飲みたいよね。今度蛇口の捻り方教えておこう。扉も開ける子だし、できるよね、うん。
「あのね、シャーリー!」
リッカ、話したいことがありそう。うん、聞くよ聞くよ! 私はしゃがむことにした。
「僕、今日のお散歩でね、お水飲めるところも見つけたの。泉があったんだ!」
「そうなのー。あれ、お散歩行ってきたの? アルトが連れていってくれた?」
「ううん。アルトも来なかった。僕、散歩中に聞いたんだ。アルト、モルゲンにつかまってるって」
「ああー……」
私はリッカの話を理解した。アルトは授業もそれほど出ていなかったのに、どういう風の吹き回しか登校はするようになった。手始めにモルゲン先生、明日は別の教師と。彼の放課後はこうして拘束されていくんだね……。
「……そうだよね。アルトにはアルトの生活もあるわけで」
アルトもリッカを可愛がってくれている、それをどこまでも甘えるわけにもいかない。
「そっか。じゃあ、リッカは一人でお散歩いったんだねー、一人で……一人で?」
「うん! 僕、隠れながら行ってきたよ! ドキドキしたけど、楽しかった!」
リッカはへっへっと満足そうだった。
「もう、リッカは……」
私はリッカを抱きしめた。この子は学園内でのトラウマがある。私たちと出逢うまでだって、怯えるように生きてきたはずだ。
「シャーリー。僕は大丈夫だよ。だって、シャーリーたちがいてくれるから。僕のことは心配しないでね。ここのお姉さんたちも優しいし」
「うう、リッカ……私ともお散歩行こうねぇ……私も頑張るからねぇ……」
「えへへ。僕、朝のお散歩だけでも充分なんだ……」
私は朝の散歩だけは何が何でも死守していた。本当ならば、夕方の散歩だって行きたい。なんならずっとリッカといたいくらいなんだよ……!
「そういうこと言わないで。たくさん行こうね……」
私を心配させまいとしていたリッカ、健気なこの子をさらに抱きしめた。
「……」
その日を終え、私たちは部屋の灯りを消す。就寝することにした。私は眠れず、体だけ起こしてベッドの上にいた。
「シャーリー」
足元でうずくまっていたリッカもそう、起きていた。
「うん、眠れなくてね」
「僕も」
リッカは枕元まで移動した。私の隣に座る。私に撫でられ、安心した笑顔を見せた。
「ふふ……」
リッカと流れる時間を過ごした。カーテンは開けたまま、空もやがて白み始めていく。私は窓辺に立った。リッカもついてきたので、抱え上げた。
これまでならば、この頃には――女神像が破壊されていた。
「あ……」
美しき女神像は健在だ。もう女神像は壊されることはない――私たちはこの日を乗り越えられたんだ。
「ふわぁ……ホッとしたら眠くなっちゃった」
私は寝不足確定だろうね。それでも心は充分に満たされていた。
「へっへっへっへっ」
リッカも大好きな女神像は。
今日も美しかった。
「――そうそう、それで正解。さすが、シャーロット。さすシャ!」
自治委員会も終わった。ここは、男子寮のロビー。そこにあるソファの上で、私はアルトに勉強を教わっていた。
勉強の遅れはアルトも協力してくれていた。まともに授業に参加していなくても、アルトは成績優秀だった。要領の良い人がここにいた。
「はい、こっちも正解。ああ、なでなでしてぇ……」
「そんな、いいよ。教えてもらってるだけでも有難いのに」
「素で遠慮された! じゃあ、上手に教えた俺がなでなでされたい!」
「えっと、それでいいの? もっと他のこととか」
「……えー、そういうこと言っちゃう? ……なら、ここで言えないようなこととか」
アルトの目が一瞬、赤くなった気がした。私のは喉が鳴った。今のは気のせい、そう気のせいなんだ。
「……いやいや、なでなでで良ければ。『えらいね』だっけ? そうするね?」
「なにそれ! シャーロットの造語!? かわいい!」
アルトが食いついてきた。目も輝かせている。
「……」
君の造語だよ、という言葉は飲み込んでおいた。私は無言でアルトの頭を撫でる。昔を思い出すね……今は規則的に一定の感覚で撫でているけれど。
「あー……義務感みー。それでも今はいっかー。じゃあ、俺が満足するまでお願いっ」
「うん……」
アルトがいいというまで、頭を撫で続けていた。ところが、一向に言う気配もなかった。もうね、こちらで打ち切らせてもらった。
「……足りねぇ。つか、シャーロット休めてないんじゃない? ずっと、委員会のことばっかじゃん」
「それは平気だよ。うん、平気」
「強がりさんなんだから……休みだって、お店のことやれてないじゃんか」
「……うん、まあ。休みの日の夜とかに、見に行くくらいはしているけどね」
委員会活動の後でも、エーデル村に出向いたりしていた。リッカも散歩だとついてきていた。店の掃除を最低限行い、それで帰っていく。
「……ごめんね。お花、枯れちゃった。あまり面倒みられなくて」
アルトがくれた花。自分の部屋ならもしかして、と思っていたけれど。影響を受けることもなく……花は枯れてしまっていた。
なんでも、じゃないんだよね……繰り返しの日々で引き継がれるのは。
「あー……花さんには悪いけど、しょうがないって。うん、縁起良くなかったっていうか」
「うん……」
その後もアルトに教わり、女子寮長に怒られない時間に帰寮することなった。
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