春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第二章

令嬢襲撃事件……!?



「――部屋を開けたままとは。どういうつもりでしょうか」

 リヒターさんは信じられない、と。私は自室の扉を開けたままにしていた。こっちにも事情があったので、説明しよう。

「うちの子が出入りしやすいようにって……あれ?」

 部屋の中の様子がおかしい。いつもなら帰っているはずのリッカの姿が無かった。いつもは真っ先に迎えてくれるはずのリッカが――いない。

「リッカがまだ、帰ってきてない」

 さらに顔色を悪くした私は下りようとしていた。リッカを、リッカを探しに行かないと……!

「……いいから。休んでいてください――私が捜しに行きますから。あなたに動き回られるよりは余程マシです。安静にしていてください」
「……私も、少しでも落ち着いたら捜しにいくから」
「はあ……」

 私をベッドに下ろすと、横にならせた。布団もかけたリヒターさん、彼はというとベッドに腰かけていた。

「本当に必死ですね。あなたはいつもそうだ」
「うん、そうだよ。必死にもなるよ」

 いつも言われていることを、私はいつもの言葉で返す。リヒターさんがなぜこうも問うてくるのか、私にはわからなくとも。

「何故ですか。突然自治委員会に入りたいと言ってきたのもそう。そうやって必死なのは、深い事情があるからではありませんか。私は――」
「……!」

 私の髪に触れてきたのは……リヒターさん。無表情の中に微かに見えるもの。労わるような、それでいて心を痛めているかのような表情だった。

「――あなたが、重い何かを抱えているようで。そう思えてならない。それをあなたが、私に打ち明けてくださること。それを望んでいます」

 優しい手つき。そんな手つきとは裏腹に、強く、目で訴えてくる。

「私は――あなたを知りたいのです」
「リヒターさん、私は……」

 それは言えることなの。ううん、言えないこと。彼の望みを受け入れることは……出来ない。

「ふふ、おかしな話。そう思われているでしょうね。突然でしょうね。あなたといると、不思議なんです。私は私が――」

 わからなくなると。そう言うと思われたのに。

「見つけられるような気がするんです。とうの昔に失っていた『私』を」
「……!」

 違っていた。私といると――昔のあなたが?
 あの幼い……あなたが、なの。

「……戯言が過ぎました。ベッド横に水を用意しておきます。あと、頭痛薬です。愛用してますので、効果は間違いありません」

 リヒターさんの言葉の真意を問えないまま、彼は去ろうとしていた。てきぱきと準備をし、私の安静を念押ししてから。

「ありがとう、リヒターさん……」

 私はリヒターさんからの薬を服用した。痛みも次第に和らいでいく。

「しばらくは側にいさせてください。あなたが眠るのを見届けたら、私は退室しますから。あなたの愛犬のことはお任せを――」

 もう向かうかと思っていたのに、そうではなかった。私が眠るまで……ってこと?


「――やあ、入っていいかな?」

 寮長さんの声だ。彼女がノックしてきたので、リヒターさんが迎え入れていた。

「シャーロット君の調子はどうかな?」
「ええ、大分落ち着いてきました。休みさえすれば、問題はないかと思われます」

 リヒターさんが代わりに答えてくれた。そのことに安堵する寮長さん、彼女は浮かないままだった。

「すまないね。そのまま聞いていてほしい。報告だよ――君のリッカ君についてだ」
「リッカ……?」

 ……リッカ! 私は起き上がろうとしたが、リヒターさんに目で制された。大人しくしているようにと。

「……順を追って、説明するよ。まず、カイゼリン女史の下校時。リヒター君、一緒に帰ってなかったようだね」
「……」

 そう、リヒターさんは病人の私を送り届けていた。彼は何も言わない。

「女史の帰寮途中。迎賓館に至るまでの道にだね、彼女は襲撃にあった」
「シェリア様が……!」

 さすがにリヒターも目を見開いていた。

「……まあ、リッカ君にね」
「リッカが……? そんなはずは……」

 あの子に限ってと、私も反論しようとしていた。

「ごめん。端的に話すよ。リッカ君、どうやら逃げ回っていたようでね。捕まえた当時、怯えていたようだから」
「ああ……」

『うん! 僕、隠れながら行ってきたよ! ドキドキしたけど、楽しかった!』

 あの時のリッカは笑っていた、本当は怖かったでしょうに。もしかしたら、と私は思った。自分には散歩に行ったと嘘をついて、夕方出なかった日もあったかもしれない。

「逃げ回るほどって……」

 今でもリッカにある悪意に、私は静かに怒っていた。

「運悪く出くわしたのが、女史だよ。前を横切っただけと、お伴の人らが証明してくれたけどね。ただ、女史は腰を抜かしてしまってね。もう、騒ぎも騒ぎさ。相手が財閥の令嬢でもあったからね――野放しにしたのも問題視されていたよ」
「!」

 私は愕然とした。そして、当然とも思えた。これは自分の責任問題だと。リッカは何も悪くない。自分が悪いのだと。

「……私、カイゼリン様のところに参ります。リッカは、リッカは悪くないから」

 カイゼリン様への謝罪を。横になってなんて、いられない。私は起き上がり、赴き気でいた。それを止めたのは寮長さんだ。

「っと、シャーロット君……一応だけど、解決してるんだよ。モルゲン先生のおかげでね」
「え……」

 寮長さんとリヒターさんが目配せをした。リヒターさんが改めて寝かせてくる。それを確認した寮長さんが続けてきた。

「先生が場を治めてくれたよ。カイゼリン様のケアもそう、リッカ君も自分が監督責任を持つって。それと追いかけまわしていたのは、初等部の子たちでね。上手く諭してくれたそうだよ」
「モルゲン先生が……」

 モルゲン先生には感謝しきれません……そう、先生が……。

「まあ、ほとぼりが冷めるまではね。君はリッカ君には会えないというね……私達も、うちの姉さん達もだけどね」

 くっと寮長さんは涙をぬぐった。

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