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第二章
苦手意識はもう、溶けていて
しおりを挟む明日には冬休みを迎えることになる。冬休み前に、自治委員総動員で仕事を終わらせた。無事業務終了、心はもう冬休みに向かっていた。
自治委員会にとってもそうだった。数日交替で出動するも、大半は好きに過ごしていい。カイゼリン様の計らいによるものだった。
こうして残っているのは、リヒターさんと私くらいだった。明日からの業務の準備ということで、私はそれを手伝っていた。カイゼリン様は別件で校舎内に残っていた。
「シェリア様は御多忙な方ですから。各方面へのご挨拶もありますし、年末は迎賓館でのパーティも控えています」
カイゼリン様も自治委員としての仕事は休みとなる。となると、リヒターが常駐するようなものだった。カイゼリン様不在につき、委員会の責任は彼が持つことになる。
「リヒターさん、それはあんまりじゃ……」
私は彼を気の毒に思っていた。こうして、結局は残業をしている彼をも。
「いえ、リヒター家の者として。当然ですから」
リヒターさんの喋り方。カイゼリン様襲撃の日は畏まったものになってしまっていたが、ここ最近の若干砕けた喋り方には戻ってはいた。それでも彼は『リヒター』で在ろうとしたまま。
「あの、リヒターさん。その節はお騒がせしました……」
「いえ。シェリア様も気にしておられませんから」
私は襲撃事件の後、カイゼリン様にまずお詫びをした。カイゼリン様はというと……自身驚いたことにより事を大きくしてしまったと。そうして逆に謝ってきた。ああ、やっぱり優しい人なんだ……。
「リッカだけど、冬休み終わるまではエーデル村でお世話になることになって。犬好きのご婦人がいて、リッカも懐いているから。私も店をって思っていたけど……」
私は傍らのリヒターさん、そして今は不在のカイゼリン様を思った。
これまでが平和過ぎた。事が起こるのはこれからだろうと。今自分に何がやるべきことか、考えた末――カイゼリン様の動向と自治委員会に集中することだった。最優先だと考えていた。
「私も冬休み返上します。私もいいかな、冬休みの間いても」
「……ジェム様」
リヒターさんは肯定も否定もしない。特に反対されないのならいいよね。出動するまで。
リヒターさんの負担を減らしたいのもそう、恩があるのもそうなんだ。恩といえば、これまでのこと。そして――。
「モルゲン先生もそうだけど、リヒターさんもでしょ。リッカの件で動いてくれたの」
「何のことでしょうか」
「……もう」
リッカとの面会を許され、エーデル村までの付き添いも許された。リヒターさん自身も言っていた便宜を図ってくれたのだと、私は深く感謝していた。こうして彼が知らん顔をしていても。
私は改めて思った。この人はずっと、そうしてフォローしてくれたのだと。ループしている間の随所随所もそうだった。この無表情の下、気遣ってくれていたんだって。
かつて私の中にあった、リヒターさんへの苦手意識――それがもう溶けていた。
「――では、本日はこれくらいにしておきましょうか」
「はい、お疲れ様でした」
まだ残っている分は、明日に回すようだった。
「……カイゼリン様を送り届けてからになりますが。よろしければ、送りましょうか」
リヒターさんは校舎にいるカイゼリン様を先に送り、その後にと。私のことまで気にしてくれるとは。うん、そういう人なんだね。
「ううん、こっちは大丈夫。というか、大変だろうし」
それはさすがに悪いと、シャーロットは断る。カイゼリンさえ送ってくれれば十分だろう。これは単なる気遣い、リヒターもすぐカイゼリンの元へと向かうと思われたが。
「大変ということは……」
リヒターさんはどこか躊躇っているようだった。顔にもそれが如実に表れていた。そんなに気を遣わなくても、私は笑ってしまった。
「ほら、リヒターさん。帰りましょう? カイゼリン様が待っているよ?」
いつまでも動こうとしないので、私から動くことにした。こうして扉を開けて、リヒターさんを促そうと。
「……承知、いたしました」
リヒターさんはすっと表情を整え、立ってくれた。うん、安心した。
「……そうだ、リヒターさん。二人きりだよね」
「え」
リヒターさんの肩が震えた。この人にとって、動揺する要素あった?
「冬休みの話。ほら、皆さんも来てはくださるけど。常駐するのは私達くらいじゃない。それでどこかで気を抜いたりとか、できないかなって」
「……お言葉は有難いですが、私はリヒターとして」
リヒターさんはこう言う。私もそこは否定はしない、でもとは思う。
「せっかくの冬休みなんだし。リヒターさんをお休みしてもいいんじゃないかなって」
「……お休み、ですか」
「あ、いえ。リヒターさんが嫌なら。無理強いもしたくないし」
彼のプロ意識的にも許せないことだったかもしれない。私は訂正しておいた。
「……いえ、善処します」
リヒターさんは考えてはくれているみたい。これで彼の負担が減ってくれることを願った。
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