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第二章
私の味です
「……『リヒト』はね。一般家庭で、教養ある両親の元で暮らしていました。都から外れたところ。近くには川も流れる丘の上で。彼らは幸せだったんです」
ポッドに茶葉は入っている。リヒトさんはお湯を注いだ。
「この茶葉は、私の故郷の名産。蒸らす時間、お湯の温度まで。リヒトは、こだわりのある子でした。好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。こだわりが強い、面倒な子でもあったでしょうね」
リヒトさんが自身にげんなりしている言い方だった。
「……面倒。それでも、愛されていたんじゃ」
「ええ。両親はとても愛してくれていました。夫婦仲も良かったですし。子供心に困ったりもした時もありましたが、理想の姿でもありました」
ポッドからティーカップに注がれる、綺麗な色の紅茶。入れるのは砂糖だけ、それを少々。彼にとっての適量で。
「ああ、私、思い出したんですよ。私の好み。さすがに大量投入は困りましたから」
どうぞ、と私の前に置いた。いただきますと口にした。おかしいとは思わない。リヒトさんが提供してくれたから、疑わずにすぐに飲むだけだ。
「うん、美味しい……」
「ええ。これが私の味です」
これが彼の味。私のような健康を害するものとは違う。
「リヒトはね、幸せだったんです――大事な家族が、『賊』に殺されるまではね」
「!」
私の背後に立った彼は、そう告げてきた。私は絶句してしまって……。
「親を失った私は、孤児院で育ちました……自分を押し殺して生きてきました」
私と同じ孤児だった。別のところだったんだ、そのような境遇であったこと、私はどう声をかけたらいいの……?
「迎え入れてくださったのが、『リヒター』家でした。次々とお子を亡くされたばかりであっても、良家、それから孤児院まで。巡り巡って、私に白羽の矢が当たったのです」
リヒトさんは語る。私は不思議そうに彼を見ていた。どうしてこうも――語ってくれるの?
「……不可解、といったところでしょうか。ふふ、そうですね――あなたに知ってほしくなったのでしょうね」
私に知ってほしくなった? 優美に微笑んだリヒトさんは続ける。
「ある日、私はシェリア様と出会いました。養父は私に言いました――この方が、私の主となる方だと。私に役割と使命を与えられることになりました」
「……カイゼリン様と」
……そうだよ、『彼』にとって大切なのはカイゼリン様、彼女のはず。彼女こそが――。
「リヒト……ううん、リヒターさん!」
「……ジェム様?」
私は席を立つ。リヒターさんがすっと離れてくれて助かった。危うく衝突するところだった。
私は迷ってなんていられない、はっきりと告げる。
「リヒターさんの大事な人は、カイゼリン様でしょう?」
「急になんですか」
「あなたがあの方を大事に思っているの、よくわかっているから。だから、お願いします。絶対にカイゼリン様の傍から離れないでください」
「だから、急ですと……」
リヒターさんにとっては突然の話。無理もないと思っているよ。私にとっては大事な話なの。
「気を抜いちゃ駄目って話でもなくて。リヒターさんなら、一番大事なことを見失わないって信じているから。とはいっても、本当にお願いします」
シェリア・カイゼリン嬢に一番近しいのは、きっとリヒターさん。そうでしょう?
前のループの時って、リヒターさんは側にいたか、いなかったのか。彼がいた上で、あのような事になってしまったのか、それは不明のまま。
私は願っていた。リヒターさんがしっかりとついてくれるなら、カイゼリン様の生存確率も上がると信じていた。
「本当に唐突過ぎますね。私にリヒターを休んでいいと言ったあなたが」
リヒターさんは不服そうだ。そう、そう言ったのは私。
「……それは、そうだね。だけど」
私は迷った。どこまで彼に伝えていいのだろうかと。繰り返しの日々、自分達はループしていると話すべきか――カイゼリン様が殺されることも伝えるべきか。
「……」
迷った末……今回はそうしなかった。アルトの時に痛い目を見たから。アルトと同じ想いということはないと思っていても、迂闊には話せなかった。
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