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第二章
――来訪者、現る
それからも見回りを続けていた。夕暮れが綺麗な空だ。元々の人が少ない校内でもあり、時々巡回兵とすれ違うくらいだった。
気がつけば、私は学園の外れの方まで来ていた。
「あれだけついているのなら……」
もしかしたら、リヒターさんが口をきいてくれたのかな? そこは本人に聞いてみないとだけど。また、はぐらかされそうだけど。
カイゼリン様は守護されていて――リヒターさんもついていてくれる。
今回はこのまま乗り切れるのだと、私はそう思えてきた。なら今日は自室待機。本番であろう明日の夜はモルゲン先生の元へ。あの来訪者とさえ接触しなければ良いと――。
「――失礼します。シャーロット・ジェムさんですね?」
「……!」
淀んで濁り切った声。不吉な声――真夜中の来訪者その人が、今。
私の目の前に現れた。
「ど、どうして……」
彼がやってくるのは、明日のはずだったでしょう……!? それが突如、こうして現れたのは……。
「至急の用件につき、あなたの元へ直接参りました。報酬は惜しみません――一刻の猶予もないのです。どうか、聞き入れてください」
「……」
「依頼内容は――あなたの魔力で人を殺めることです。相手につきましては、契約成立時にお話します」
「なんてことを……」
私の体が竦んでいる。声も震え、こうして立っているのがやっとだった。殺したい相手はカイゼリン様だろうとふんでいた――。
「……」
カイゼリン様……なんだよね? もし……別の人物だったとしたら?
話に乗ってみる? この男の話を受けて、あなたの『殺人』依頼に協力すると。
前回の原因ともいえた……共犯関係、に。
「うっ……」
私は口元を手で覆った。吐き気を催してしまう。頭にフラッシュバックするのは――私の『死神』の姿。共犯者と決めつけてきて、そのことによって私は……。
「それはいけない……」
共犯者にでもなったなら二の舞か――ならばせめて、この人の素性を明らかにするしかない。
「不審者ですね――自治委員として、あなたを拘束します」
「なっ」
私は氷の魔力を発動させると、男の足元を氷で固めた。その次に、男の腕を掴んでひとまとめにさせる。そこもまた、氷の力で固定させた。
「巡回兵に引き渡します――その前に」
この男が、おそらく元凶だろうと。私はその覆面も剥いでやることにした。
「や、やめてくれ……!」
「……あなたが言うの」
今更乞うても遅い。この男のせいで、と私は怒りを目に灯していた。その顔をこの目に焼き付けてやると。男の顔を今――露わにした。
「……」
二重のくっきりとした目ながらも、心労でもあるのか隈がすごい。頬も痩せこけている。青白い顔の中年男性だった。知り合いにもいそうにない人。
「……あなたの顔は覚えました。まあ、未遂で良かったとしか」
「な、な、なにを言うのだ!」
男の声は普通の声になっていた。あの覆面が変声器の役割をしていたんだね。
「とはいえ、不法侵入とかにはなるかと。失礼します」
私は走っていった。さっき巡回兵を見かけた場所まで戻っていく。あのまま男と二人きりでいても、自分が共犯扱いされかねない。それは避けたいこと。
それなら、早く第三者に見つけてもらいたかった。急ごう。
「……あれ?」
――走っても走っても。巡回兵の姿を見る事はなかった。不自然じゃない……? 巡回兵も、他の人も。誰一人として、私は見かけはしなかった。
「はあはあ……」
迎賓館近くまでやってきた。ここならさすがに人がいるよね。私が無礼承知で足を踏み入れようとしていた時。
――いくつものビラが宙を舞う。見覚えがあるそのビラに書かれていたのは。
「ど、どうして……」
鳴り響くのは、拡声器による声。
『シェリア・カイゼリン令嬢殺害事件。犯人はシャーロット・ジェム。発見次第、ただちに報告せよ――なお、生死は問わない』
「……!」
まただ。またしても私は犯人とされてしまった! ……しかも今回は単独犯だって。ばらまかれたビラにあるのは、シャーロット・ジェムの顔写真のみだった。
「……生死問わずって」
なら、生き残る可能性もあるのか。ううん、それは甘い考えだと私は悟った。
――聞こえるは『死神』がやってくる音。いくつもの足音が、荒々しい足音が近づいてきた。
「金糸雀隊……!」
私は悪あがきにも逃げようとする。ここで彼らに掴まった時にはもう。
「!」
距離はあっという間に詰められていた。一人の金糸雀隊が私の前に剣を向けていた――終わりか。
「……」
いつもの金糸雀隊。手練れの者――毎回、私にトドメを差す者。
「……?」
その剣は、わずかながらも震えているようで……私に向けられたまま。
「――何をしているのです!」
「あ――」
焦れたのは、他の隊員だった。その者が放ったのは魔力。風の刃が――私を切り裂いた。心臓部にも直撃し、私は倒れ落ち……意識が……遠のいていく……。
「……」
去っていくのは……金糸雀たち。用済みといわんばかりだった。
命が消えゆくなか、私は思う――今回はみんなが犠牲にならなくて済んだと。
「わん、わんわん!」
閉じようとした目に、子犬の姿が目に映った。鳴き声も、遠くに感じる。これは、優しい幻なのかな……?
「……ジェム様!? ……何故ですか、何故あなたが!」
いつの間にやってきたのか、リヒターさんの慟哭も――これもまた、幻なの?
命を終えたには私には。
わからないままだった。
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