春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第二章

ようこそ、私の委員会へ――


 リヒトさんに送られている途中、会話がないのは変わらずだった。こっちを見てくるのも。

 ……変わらず? ……見てくる? ううん、それらは違っていた。

 会話が途切れることがあっても、前のように重々しくはならなかった。それどころか、何も喋らない時間すらも、満ち足りている表情の彼。
 彼は見つめている、私の一挙一動を……あますことなく。

「……リヒトさん。腕時計素敵だね」

 気持ちが落ち着けない私が、口に出してしまった。前回空振りで終わった会話だとわかっていてもだ。
「ありがとうございます、ジェム様。褒めてもらえて嬉しいです」
「うん……」

 ただ褒めただけ。それも雑談程度のもの。それでもリヒトさんは大層喜んでいる。

「掃除しに行った際に、私の生家で見つけたものです――ああ、私、孤児なんですよ。リヒター家に引き取られました」
「おいおい、リヒター!?」

 後ろで聞いていた先生が声を上げていた。教師である彼は事情を知っていたんだと思う、いきなり私に話すことないだろうって。リヒトさんは構わず続ける。思わず呼び捨てになっていたけれど、リヒトさんは気にしていない。

「両親どちらかが所有していたのか、記憶は定かではありません。ですが、私は妙に心惹かれました。この美しいデザインもそう。着けていると落ち着くのもそうです」

 リヒトさんはまた腕時計をさすっていた。金色のそれは、古めかしくも上質だった。彼は大切に丁重に扱っていた。

「うん、素敵……」

 私もそうだなって思った。繊細な細工、それでいて手入れも大変そう。面倒くさそうなそれは、まるで彼のようで――。

「ええ、あなたなら構いません――どうぞ、触れてください」
「うん……」

 本当に美しい時計。私は目を輝かせながら触れようとした――。

「――シャーロット」
「!」

 落ち着いた大人の男性の声がした。名を呼ばれた私は手を止めた。あれ……私は一体何を。

「……モルゲン先生」

 邪魔をされた。そういった眼差しをリヒトさんは教師に向けていた。

「っと、シャーロットさんだったな。悪い悪い。それ高そうだぞ。壊したら弁償大変そうだぞー?」
「そ、そうですね。危ない危ない」

 迂闊に触って壊したら、確かに大変。それに私は別の意味でも危機感を覚えていた。

「ふう……そうそう、カイゼリン様」

 カイゼリン様の話題を出しておこう。鉄板、間違いないよね。

「カイゼリン様も素敵だよね。美しさももちろんのこと、誇りも高くて。本当に憧れます」
「シェリア様も確かにお美しいですが、本当に美しいのはあなたです」
「!?」

 私も、後ろの先生も驚愕した。この人は躊躇いもなく言ってきたのだから。

「何もおかしなことは言ってませんが。事実を言ったまでです」
「……フォローとか大丈夫だよ? あと、カイゼリン様より美しいはさすがに、盛り過ぎというか」
「世間一般からみれば、シェリア様の方が美しいとはなるでしょう。ですが、私からしてみればそうではありません」
「……あの、リヒトさん!」

 おかしいおかしいとは思っていた。本格的にリヒトさんの様子がおかしい。私は改めて確認することにした。

「私達――本当に初対面だよね? さっき会ったばかりだし、私のこと知らなかったでしょ?」
「あなたのことを知らない……」
「うん」

 こっちはもちろん知っている。でも、リヒトさんにとっては初対面でしょ……? こんな前から知っているような態度をとってくるのが、不可解だった。

「……ああ、あれか、一目惚れか? ……違うな、前から『知っていた』のか」

 先生の声は這っていた。目も据わっている。

「……一目惚れではなく、会ったのも先程が初めてです。ただ」

 リヒトさんは腕時計に触れていた。彼は私を見つめながら告げる。

「どう形容したらよいのか。私のこの想いはまるで――積もりに積もり続けて、溶けなくなったもの。例えるならばそうであると」

 それは確かなもの――リヒトさんはそう言った。

「リヒトさん……」

 私のこのざわつく感覚、覚えがあるものだった。

 頭の中で警鐘が鳴っている。これはかつての経験、体験が教えてくれているものだった。

 これ以上は――危険であると。

「……シャーロット。さっさと帰るぞ」

 先生も焦っている、さん付けどころではないと。先生は近づいてくる、切羽詰まったような表情だった。私を連れ出そうとしているかのように、腕をとろうともしていて――。

「――ああ、ジェム様。自治委員会は多忙を極めております。冬休みも近いことですし。私の補佐を務めてくださる方を募集しております」

 リヒトさんあはのっけから自治委員会入りの提案をしてきた。彼は手を差し出してきた。

「私は……」

 私の出す答えは――。

「うん、私でよければ。務めさせてください」

 結局は自治委員にならなければ、未来は切り開かれないと信じ、リヒトさんの手をとった。

「ええ、ようこそ――私の自治委員会へ」

 リヒトさんあは嫋やかに笑った。私は綺麗だと思った。

「もう、誰も邪魔はさせません――私達の世界ですから」





 繰り返しの日々において。代償というものがあるのなら。

『――雪みたいだね。積もって、積もりつづけていく。でも、雪みたく溶けない。ずっと残ってるの』

 それが彼からの思い、愛が含まれているとしたら。不用意に積もり、積もらせてきてしまったとしたら。

 もう溶けもしないとしたら。終わりがないのだとしたら。

 代償とはなんなの。何が代償だったというの。



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