春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第二章

守られる日々③


 活動場所に着くと、委員たちが勢揃いで迎えてくれた。委員服に着替えた私をも。

「お疲れ様です、委員長! 委員長補佐!」
「業務は滞りなく、行われてます。委員長! 委員長補佐!」

 リヒトさんが入ってくると、委員たちは一同に頭を下げた。

「……?」
 
 ……待って? これって、リヒトさんが委員長になってない? いや、違うでしょ。委員長は彼じゃない。

「カイゼリン様……?」

 委員長はカイゼリン様、そうでしょう? なのに彼女は。

「……ごきげんよう、シャーロットさん。……委員長は、リヒターですわよ。わたくしは、しがない一委員に過ぎないわ」

 窓際で地道な作業をしていたのは、カイゼリン様その人だった。彼女の美貌にも陰りがあった。彼女の象徴ともいえた、やたらと豪奢な椅子も無くなっていた。地味な椅子に座っている。

「……ああ、シャーロットさんには伝えていませんでしたね。昨日、あなたをお送りした後の話です――反旗を翻し、私が正式に委員長となりました」
「え!」
「まあ、カイゼリン家がリヒター家の主ということ。そちらは変わりありませんが――」
「……いや、リヒトさん!?」

 彼は穏やかに話しているけれども、物騒過ぎない……!? 反旗を翻したとまできた。

「ああ、誤解はなきよう。あくまで民主主義に基づいたものです。多数決ですね――全会一致ではありましたが」

 ずらりと並ぶのは、リヒトさんを慕う委員たち。リヒトさんを崇拝し、陶酔していた彼ら。 

 ――自治委員会は完全にリヒトさんのものとなっていた。

「……」

 私もね、納得はいっていた。自治委員として活動していたからこそ、より実感も出来ていた。正直なところ……取り仕切っていたのはリヒトさん。能力や人望といったもの、リヒトさんが上回っていたということ。
 リヒトさんがその気になれば、いつでも下克上は出来ていたのだ。

「委員長。こちら活動報告書です」
「はい、ありがとうございます。いつもわかりやすいですよ」
「予算の件、こちらで調整つきました。問題なくなったと思います」
「はい、承知しました。お見事な手腕でした」

 平委員と同じ椅子に座って、リヒトさんは一人ひとりと向き合っていた。委員長自らが動いて、率いていく。そんな彼に皆がついていく。統率された、調和のとれた組織がそこにあった。

「ジェム様……私の補佐さん? お手伝いよろしいですか?」
「リヒトさん……」

 甘い声かけだった。リヒトさんのこの声は、この真面目な場に似つかわしくないものだった。

「……」
「……」

 委員たちが見ている。私を見ている。

「……失礼します。えっと、リヒトさん。私はまず何をすればいいの?」
「はい、手取り足取り教えますよ。まずはですね――」

 私は居心地の悪さを覚えながらも、リヒトさんの隣に座った。彼に教わりながら補佐の仕事をしていた。彼に必要以上に密着されながらも、教わり続けていた。

「……ああ」

 リッカの件を中々切り出せなかった。私は業務終わりに願い出ることにした。




 活動時間終了となった。他の委員たちは中々帰らない。

「我々は委員長が帰るまで帰りません」
「我々一同、見送る所存です」

 私は驚いていた。元々自治委員はエリート揃いとは聞いていたけれど、前はもっと和やかだった。こうも統率されたものになるんだ……。

「いえ、それは困ります。皆さんの方こそ、先にお帰りください。私からの願いです」
「委員長がそう仰るのでしたら……」

 話がまとまると、彼らは去り際も美しかった。もたつくことなく、揃って退室していった。

「あ、カイゼリン様!」

 リッカの件といえば、カイゼリン様! 私は遅れて帰ろうとした彼女に声をかけた。

「……シャーロットさん?」
「あの、うちの犬の件です。申請書を作ってきたので」
「――悪い事言わないわ。今すぐにリヒターに渡しなさい」

 それからカイゼリン様は逃げるように帰っていった。残された私は、視線に気がつく。

「……私が委員長であると。理解してませんでしたか?」
「リヒトさん……」

 やってきたのは、リヒトさんだった。笑顔ながらも怒りを滲ませていて。

「……すみません、私の勘違いで。委員長はリヒトさんなんだよね。それで、こちら用意したから」

 私は両手で用紙を差し出した。それを両手で受け取ったのがリヒトさん、彼は笑っていた。

 不自然なまでに綺麗な笑顔だった。

「待って、リヒトさん――」

 私はぞくりとした。何か、どこともなく不穏な気配がした。それの正体はわからない……ただ衝動のままに、その紙を取り返そうとした。

「――はい、ジェム様。承りました。こちらの方でも気にかけるようにしますので」

 リヒトさんは押印済みの書類を見せてきた。これで、自治委員会の許可はもらえたということ……であって。

「あ……」

 あの予感はなんだったの――あの、リッカとの永遠の別れを示すかのような。

「とはいえ、すみません。一度、こちらで預かることにはなっています。なるべくすぐに承認を済ませますから……それまで、あなたには我慢を強いることになるかと」
「それって……?」

 承認が終わるまで、リッカに逢えないってこと……? そういう決まりなのかな? ……ううん、前例ってあったかな? 確か――。

「学園の――この場合はモルゲン先生でしょうか。教師である彼の元、預かるのなら心配もないでしょう」
「あ、そっか……それは、うん、そうだね」

 ドキリとしてしまったけれど……そう、モルゲン先生の元なら。ちゃんとリッカも守ってくださる。私はホッとした。
 リッカ、この話うまくいくよ? 一緒にいられるようになるからね?


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