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第二章
守られる日々⑨
しおりを挟む翌日。リヒトさんとの生活が始まった。
都の外れにある、小高い丘の上。リヒトさんの生家に引っ越してきた。春になり雪が解けると、緑豊かな景色が一望できるという。
引っ越しの片づけを終えた私たちは、庭のブランコに座っていた。リヒトさんのご両親の手作り、二人乗りブランコだった。もう夕暮れ時、赤い空を二人で見つめていた。
「――そうですか。リッカ様はエーデル村で暮らされると」
「……うん。そこのおばあちゃんにお世話になるって。リヒトさんもごめん。色々準備してくれたのに」
リヒトさん、受け入れてくれたのにね。密かに犬用のグッズも購入したり、手作りしてくれたりしてくれていた。それらを使う機会もなくなってしまって。
「いえ、構いません……そうだ、シャーロット。落ち着いてきたら、犬を飼いましょうか」
「……ごめん。それは考えられなくて」
「いえ。私の方こそが、考慮していませんでした」
リヒトさんは申し訳なそうにしていた。あ……気遣ってくれてんだよね。私は無理にでも笑った。
「ううん。リヒトさん、気にしてくれたんだよね。あのね、リッカも遊びに来ると思うから。私達も遊びに行こうね?」
「……」
「リヒトさん……?」
リヒトさんは沈黙していた。私を見つめたかと思うと。ふと、彼は前方の方を見据えていた。その方向をやたらと注視していた。どこ、見ているの?
……何もないよ?
「……また、繰り返すのか。いえ、私がしっかりしていれば良いこと」
「……?」
私にとって謎過ぎる発言だった。リヒトさんは何でもないと笑う。
「さて、冷えますね。家に入りましょうか」
「うん……?」
リヒトさんの言動をおかしく思うも、私は彼との家に入ることにした。
丸太の温かみのある家、ここが二人で暮らす家だ。リヒトさんが定期的に訪れていたこともあり、手入れも行き届いていた。
家に入ると、リヒトさんは家の鍵をかけた。彼は何重にもしっかりと施錠していた。
「かつての父は有名な音楽家でした。母と出逢ってからこちらに移り住み、修繕屋を営んでいたのです。私も父に教わった程度ですが、それで生計を立てようと思います」
ある一室に通された。工具が揃えられたそこは仕事部屋なんだって。作業机にあるのは、修理道具のようだ。リヒトさん、特にそれらを丁重に扱っていた。
「最初の内は苦労をかけるかと思いますが……」
「リヒトさん。私も支えたい。一緒に頑張ろう」
私はリヒトさんの手に手を重ねた。自分もいる、一緒に苦労をしようと伝えていた。
「……はい、シャーロット」
リヒトさんも幸せそうに微笑んだ。
「あなたには主に店での接客もお願いしたいです。私はしばらく、出張の仕事が多くなると思います。寂しい思いをさせてしまいますが」
「……接客。うん、頑張る」
エーデル村での常連相手とは違う。慣れない相手への接客となる。でもね、苦手意識とか抱いていられないよね。私は彼と共に暮らしていきたいんだから。
「無理しているの、見え見えですよ」
リヒトさんには見抜かれていた。笑われもしたし、心外だよ、リヒトさん? ……もう。
「もう、リヒトさん。頑張らせてください。私、仕事だって覚えるから。それこそ、出張だっていけるようになって……あなたを楽させたい」
私は笑顔でそう言った。苦労を分かち合いたい。この気持ちが伝わって欲しかった。
「……」
リヒトさんの表情が一変した。笑顔は消え失せ、無表情となった。
「……そうだ、シャーロット。リッカ様の件、そして出張の件もそうですが」
リヒトさんは告げる。
「諦めてくださいね?」
「リヒトさん……?」
リヒトさんは私の頬に触れ、囁く――どこまでも甘い声で。
「――あなたを外に出す気はありません。一生、ここにいてください」
「!」
リヒトさんは何を言い出すの。私は自分の耳を疑いたくなった。
「シャーロット。出張で寂しい思いはさせてしまいますが、私は必ず戻ってきます。私がいます。私にもあなたがいる――これ以上の幸せはありますか?」
「……!」
そのまま口づけられた私は、瞳を閉じてしまう。そう、ここにはリヒトさんがいる。リヒトさんが守ってくれる。
それ以上のしあわせはない。私は浸っていた。
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