春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第二章

守られる日々⑫


 私は一人、寝室のベッドで横になっていた。

 私たちは別々の部屋で寝ていた。一緒に寝ないものなのかなって、思っていたけれど。
 リヒトさん曰く――『理性が暴発します』って。暴発……。

「……眠れない」

 この日、この時だったから――事件が起こったのは。私の心臓はざわつくばかりで。

 私はベッドから起き上がり、窓辺に立つ。格子窓の外を見た。そのまま夜が明けるのを待った。

「……ああ」

 空が白み始めた。

 拡声器の声もない。ビラがまかれることもない――カイゼリン様が殺されることもない。

 これで良かった、良かったんだって。私は思おうとしたのに。

「……」

 彼らが――いた。もはやリヒトさんの狂信者といっていい、自治委員会の彼らがいた。
 いつからいたというの。
 いつまでいるの。

「――彼らですか」
「!」

 リヒトさん、いつの間に部屋に入ってきていたの……? しかも、後ろから抱きしめてきて。

「ここにいる限りは手出しは出来ません。私も再三、帰るようには伝えてはおりますが」
「それだけ、リヒトさんを慕っているとは思うよ」
「……そんなつもりではなかったのですが。あちら側が勝手に私に理想を抱いているだけです」
「仕方ないよ。リヒトさん、理想というか。慕いたくなる気持ち。憧れずにいられないとか」

 この人は狙ったわけではなく、天然でやってこうなっているんだ。ただ彼として在るだけで、これだけの信望を集めてきたんだ。彼に惹かれる気持ちは、私にも理解できるもの。

「……ねえ、シャーロット」

 リヒトさんはきつく抱きしめだした。私が苦しくなるくらいにだった。

「……私の父もそうでした。音楽家、そこまでは話したでしょう? 彼にも熱狂的な信者はいたのです。彼らは母との結婚も反対していました。二人は、逃げるようにここで暮らしていたのです」
「……うん」

 私は苦しくても、それを言えはしなかった。彼の言葉に傾ける。

「身ごもっていた母が私を出産して。三人で暮らしていたんです。この家にいれば、安全なのに……あろうことにも母は家を飛び出してしまった。追いかけてきた父共々『賊』に――」
「……」

 私はあえて口にしなkった。彼が言う『賊』、それは父親の信者によるものだったと。

「お願い、シャーロット……いなくならないで」
「……うん」

 朝焼けが眩しかった。






 大晦日を迎えた。リヒトさんは休業すると宣言していた。一日中二人きりだ。

「リヒトさん、休んでて?」

 働き詰めだったリヒトさんは、家のことをやろうとしていた。私としては休んでほしいのに。

「いえ、この機会ですから。用具の手入れも念入りにしておきたいです。あなたにも家の事を任せきりですから」
「私はいいんだよ? ふふ」
「私が申し訳ないのです……って、シャーロット?」
「ははっ、なんか思い出しちゃって」

 どうしてリヒトさんって、こうも忙しないのかな。休めばいいのに、こうも動こうとするのかな。私はどうしても思い出してしまうんだ。

「なんか『リヒターさん』って感じで。なんか、懐かしくなっちゃって。すごいよね、あれだけの大量の作業をこう捌いて捌いてって感じで」

 カイゼリン様にこき使われていたのは気の毒だったよ。でもそれはそれで彼はイキイキしていたような。私は笑みが零れた。

「……私はリヒトです」
「あ……ごめん」

 リヒトさんが気を悪くしていた。そう、なんだ。これは彼にとっては良くない思い出になるんだ……。

「……そうですね。せっかくの休日だ。私は何をしているのでしょうか」

 リヒトさんは手にしていた道具を、テーブルに置いた。それから私を抱え上げてきた……!

「リヒトさん!?」
「休みなんですから。二人でゆっくりしませんか?」
「それは嬉しいけど、大掃除とかご飯作りとかやっときたいなって」
「ご心配なく。家はいつも綺麗ですし、作り置きも用意してます。元々、あなたと落ち着いてご飯を食べるために、用意したものでした」

 リヒトさんは説明しながらも、二階に上がっていく。ここは私の部屋だった。片手でドアを開けると、私をベッドの上に横たわらせた。リヒトさんもベッドの上に乗ってきて……。

「……」
「……」

 そのまま私たちは何度もキスをする。何度も互いの唇を触れ合わせた。言葉はない。会話もない。気まずいことなんてない。それが、二人の愛情表現だから。

 まだ一日は始まったばかり。私はきっと、彼に長く愛されることなるんだ――。


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