144 / 557
第二章
守られる日々⑭
これ以上あやふやにしたくなかった。ずっと煙に巻かれているようだった。そして――大事なことを見失っているかのようだった。
「あなたの好きな人って……本当に私なの?」
この質問でモヤモヤが晴れてくれると。私はそう信じていた。
ここからが歪み出したんだって、私はそう思っていた。
「シャーロット、一体何を――」
「お願い、答えてほしい」
本当はカイゼリン様が好きだった、『彼』はそうだったはずなのに。
繰り返しの日々での『彼』を、私は見てきた。彼がどれだけカイゼリン様第一に動いていたが。カイゼリン様の為と言っていたのか。
何かが狂ってしまったから。リヒトとなった彼は、私に愛を囁き続けることになってしまって。
――歪んでしまったから。狂ってしまったから。
私も、そして彼こそが。
「あなたの本当を見せて。私達、きっと何かを間違えてしまっているから。気を取り戻して」
「……シャーロット」
「……」
「……はあ」
リヒトさんは溜息をついた。私は固唾を飲む。
「……なるほど、ね。それであなたはいまいち、私に心を預けてなかったと。私があれだけあなたへの思いを示していたというのに」
「リヒトさん……」
ああ……歪めて狂わせてしまった。私はそのことに罪悪感が募るばかりだった。
「――それで、シャーロット? まさかですが、私がカイゼリン様を好きだと思ってますか?」
「うん。そうとしか思えなくて」
カイゼリン様、だって。彼の呼び方までも捻じ曲げてしまったなんて。
「……とんだ勘違いを。と言いたいところですが、私の言動がそう思わせていたのかもしれません。不安にさせていたのですね。ごめんなさい、シャーロット」
リヒトさんは私の頭を撫でてきた。その手つきは優しかった。
「……カイゼリン家は、リヒター家の主でもある。ほら、孤児でしたから。私は『リヒター』になりきっていたに過ぎないのです。カイゼリン様はあくまで、カイゼリン家のご令嬢。根が善人であることは助かりましたが、それだけです」
「でも……」
「私は『リヒター』家の者として仕えていたのみです」
彼は冷たい声音でそう語っていた。私は彼の顔を見れずにいた。
「まだ納得いかないですか。そうでしょうね。本当の私という話でしたし。ならば――邪魔だった」
「!」
リヒトさんのこんなにも冷酷な声。私は聞いたことがなかった。
「いかがですか? 紛れもない私の本音です。ああ、邪魔だといえば、そうですね……いい加減、あの人達も」
忌々しげに語るリヒトさん。私の視線に気がつくと。
「――いえ、今のは気にしないで」
リヒトさん綺麗に微笑んで見せた。私の顎をとっては顔を上に向かせた。二人の視線が重なる。
「リヒターは偽りで。リヒトが本当の私です。あなたと出逢って、あなたが取り戻してくれた。本当の私は、あなたを愛しているんです」
「……私は」
私は不自然なまでに目をそらした。そのことにリヒトさんが苛立ってもだった。
私は彼の――『本音』を知った。彼の想いも。なら、私は……。
「……私は『リヒターさん』が好きだった」
「……シャーロット?」
「――そうだ。本当の私は、リヒターさんとカイゼリン様。お二人が好きだったの」
私の瞳に輝きが戻った。今度こそリヒトさんの目を見た。
「リヒトさんが一番大事、あなたの根幹だってわかるよ。でも、私が見てきたのはリヒターさんだった。自分では気づいてはないだろうけど、必死だった彼を見てきたの」
「……それは、本当の私ではありません――シャーロット、俺を見て。俺はリヒトだ」
「……」
リヒトさんは私の両肩を掴んできた。私は目の前の彼を見ていた――本当の彼を。
「あなただから、曝け出せる。みっともない姿も、情けない姿も。欲に塗れた姿だってそう。あなたが受け入れてくれたから! ……あなただから、リヒトとしていられたのに」
敬語喋りでもなくて、整然と淡々とした口調でもない。この彼を私は知っていた――幼かった頃の彼。
ずっと抱え込んできた存在なんだ……彼にとって。
「……リヒトさん。私にも責任はある。私が、気安くリヒトでいてもいいよって、口にしたから。あなたがどんな思いでいたかも知らないで」
私が言った言葉に、リヒトさんも眉をひそめた。次第に顔も歪ませていく。
「……そうだよ。ねえ、シャーロットは覚悟がなかった?本当の俺を見つけて、知って。本当はそれほどの思いなんてなかったのに、それなのに……俺に寄り添ったの?」
「……そうだね。ただ、あなたの負担を軽くしたいって考えて。それ以上のことは考えてもいなかった。あなたへの覚悟はなかったんだ」
「覚悟なんてなかったのに、ずかずかと踏み込んできたんだ……軽率に」
「……ごめんなさい」
彼を案ずる気持ちはあったものの。私は彼に流されていただけだった。
「……ふう、失礼しました。昔の私が出てました」
「……」
『リヒトさん』と『リヒターさん』はこんなにも違う。
私は思い知らされた――彼がどれだけ自分を殺して生きてきたのだろうかと。
「……今更、後戻りなど出来ません。あなたに気持ちが無かったとしても、もういいです。あなたを溺れさせればいい。私を本当に好きになってもらえばいいだけの話」
「……」
「私はあなたを逃がしません。ずっと愛し続けますから」
……そっか、リヒトさんの想いは変わらない。私は彼をよけて、ベッドから下りた。
「……おやすみなさい、リヒトさん。私、下のソファで寝るから」
「シャーロット!」
あなたにおすすめの小説
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
天咲リンネ
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。