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第二章
帰りましょう、私達の家へ――
「……」
私はリヒトさんの寝室を訪れた。彼は自室に戻ってきていて、仰向けになって眠っていた。私は音を立てないよう、静かに歩く。
「……どういった風の吹き回しですか」
リヒトさんは寝たまま、顔だけこちらに向けてきた。
「あなたが恋しくなったから」
「はは、見え透いた嘘を」
リヒトさんは自嘲めいた笑いをした。私は彼が起きていても、まだ近づいていた。
「リヒトさんは優しいね」
「……急になんですか」
「私はあなたの気持ちを踏みにじっていた。殴られる覚悟もあった」
「私は野蛮人か何かですか。あなたは確かに酷い人ですが、大事な人ですから」
「……うん。あなたはそう」
「それと、お互い頭を冷やした方がいいと思った。それだけです」
私はベッドの上に手をついた。リヒトさんの顔に近づく。たじろぐのは彼。
「……シャーロット?」
「さようなら――『リヒト』さん」
リヒトさんの唇を指でなぞると、彼の口がうっすらと開く。そこに押し込んだのは――錠剤だった。
「……!?」
リヒトさんに飲ませたのは睡眠剤だった。私の私物入れから持ってきたもの。一番強力なものだから、あの彼でも太刀打ちができないだろうと。
「……」
私は彼が寝たのを見届けると、部屋を出た。
しばらく彼は起きて来ないよね。私は玄関までやってきた。彼が在宅の為、鍵は内側にあるもののみだ。私はこれを壊すことにした。
「っ!」
何重もの仕掛けを私はまとめて凍らせた。作業机からトンカチを失敬する。殴りつけて、鍵を破壊した。断片が床に散っていった。
「……」
鳥籠の錠前もそうだったらいいのに、とか考えている場合ではない。あの彼のことだ。強力な睡眠剤であっても、いつ起きてくるかわからない。
私は扉を開けた――冷たい風が打ちつけた。ああ、私にとって久々の外だ。このまま新鮮な空気を吸いたいと思っていたけれど、そうはさせてくれないようだね。
「うん、そうだよね……」
待ち構えていたのは、自治委員たちだ。彼らはずらりと並んでいた。私は氷の力で足止めしようとするけれど――彼らは武器を隠し持っていた。
「……」
私は内心焦るも、ここを逃げ切ればいいと考えた。自分にはこの魔力がある。逃げに徹すれば凌げると思っていたけれど。
「……!」
彼らのそれは訓練されていた。一生徒の武力ではなく。多勢に無勢となってしまっていた。
「ああ……っ」
私の左胸に弓矢が刺さる。続けざまに斬り刻まれて……。
「委員長を返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ」
彼らの憎悪が刻まれていく……私の意識が遠のいていく……。
「……」
あのまま彼に守られていれば良かったのかな……ううん、それは違うと思った。
私が望む未来は――ここではない。
「シャーロットさん!? ああ、なんてこと!」
「……?」
女性の声がした。その人は雪道を何度も転びながらも、やってきた……カイゼリン様?
「わ、わ、わたくしには何もわからなくて。彼らが、あの彼らが。こ、こんな、酷いことをするなんて」
カイゼリン様は消えゆく私を抱きしめていた。彼女は正気、なの……?
「……逃げて、カイゼリン様」
「え?」
カイゼリン様にはきっと見えてない。まだ彼らは殺る気だった。おそらく、カイゼリン様まで手にかけようとしている……私を庇う彼女は害悪とみなされているんだ。
「お願い、カイゼリ……」
もう、声にならなくて……私はもう……。
死ぬ間際の幻覚だったのかな……真実だったのかな? 私にはもう、それがわからない……。
怒りに震えた『彼』が斧で委員たちを殺めていたことを。
「あなた、何をっ……!?」
私の亡骸を抱いたまま震えるカイゼリン様から、私を奪い取って。
「……ああ、シャーロット。こんなにも冷たくなってしまって」
カイゼリン様に背を向けて、そして私を抱えて――彼はふらつきながら去っていく。
「帰りましょう、シャーロット。私たちの家へ――」
私はリヒトさんの寝室を訪れた。彼は自室に戻ってきていて、仰向けになって眠っていた。私は音を立てないよう、静かに歩く。
「……どういった風の吹き回しですか」
リヒトさんは寝たまま、顔だけこちらに向けてきた。
「あなたが恋しくなったから」
「はは、見え透いた嘘を」
リヒトさんは自嘲めいた笑いをした。私は彼が起きていても、まだ近づいていた。
「リヒトさんは優しいね」
「……急になんですか」
「私はあなたの気持ちを踏みにじっていた。殴られる覚悟もあった」
「私は野蛮人か何かですか。あなたは確かに酷い人ですが、大事な人ですから」
「……うん。あなたはそう」
「それと、お互い頭を冷やした方がいいと思った。それだけです」
私はベッドの上に手をついた。リヒトさんの顔に近づく。たじろぐのは彼。
「……シャーロット?」
「さようなら――『リヒト』さん」
リヒトさんの唇を指でなぞると、彼の口がうっすらと開く。そこに押し込んだのは――錠剤だった。
「……!?」
リヒトさんに飲ませたのは睡眠剤だった。私の私物入れから持ってきたもの。一番強力なものだから、あの彼でも太刀打ちができないだろうと。
「……」
私は彼が寝たのを見届けると、部屋を出た。
しばらく彼は起きて来ないよね。私は玄関までやってきた。彼が在宅の為、鍵は内側にあるもののみだ。私はこれを壊すことにした。
「っ!」
何重もの仕掛けを私はまとめて凍らせた。作業机からトンカチを失敬する。殴りつけて、鍵を破壊した。断片が床に散っていった。
「……」
鳥籠の錠前もそうだったらいいのに、とか考えている場合ではない。あの彼のことだ。強力な睡眠剤であっても、いつ起きてくるかわからない。
私は扉を開けた――冷たい風が打ちつけた。ああ、私にとって久々の外だ。このまま新鮮な空気を吸いたいと思っていたけれど、そうはさせてくれないようだね。
「うん、そうだよね……」
待ち構えていたのは、自治委員たちだ。彼らはずらりと並んでいた。私は氷の力で足止めしようとするけれど――彼らは武器を隠し持っていた。
「……」
私は内心焦るも、ここを逃げ切ればいいと考えた。自分にはこの魔力がある。逃げに徹すれば凌げると思っていたけれど。
「……!」
彼らのそれは訓練されていた。一生徒の武力ではなく。多勢に無勢となってしまっていた。
「ああ……っ」
私の左胸に弓矢が刺さる。続けざまに斬り刻まれて……。
「委員長を返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ」
彼らの憎悪が刻まれていく……私の意識が遠のいていく……。
「……」
あのまま彼に守られていれば良かったのかな……ううん、それは違うと思った。
私が望む未来は――ここではない。
「シャーロットさん!? ああ、なんてこと!」
「……?」
女性の声がした。その人は雪道を何度も転びながらも、やってきた……カイゼリン様?
「わ、わ、わたくしには何もわからなくて。彼らが、あの彼らが。こ、こんな、酷いことをするなんて」
カイゼリン様は消えゆく私を抱きしめていた。彼女は正気、なの……?
「……逃げて、カイゼリン様」
「え?」
カイゼリン様にはきっと見えてない。まだ彼らは殺る気だった。おそらく、カイゼリン様まで手にかけようとしている……私を庇う彼女は害悪とみなされているんだ。
「お願い、カイゼリ……」
もう、声にならなくて……私はもう……。
死ぬ間際の幻覚だったのかな……真実だったのかな? 私にはもう、それがわからない……。
怒りに震えた『彼』が斧で委員たちを殺めていたことを。
「あなた、何をっ……!?」
私の亡骸を抱いたまま震えるカイゼリン様から、私を奪い取って。
「……ああ、シャーロット。こんなにも冷たくなってしまって」
カイゼリン様に背を向けて、そして私を抱えて――彼はふらつきながら去っていく。
「帰りましょう、シャーロット。私たちの家へ――」
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