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第二章
本当のわたくし達は……
最早対立状態。ギスギスした雰囲気のまま、活動時間が終了した。委員たちすぐに立ち上がった。さっさと帰る気だった。
「委員長、帰りましょう」
「そうだ委員長、どこかで交流を深めませんか?」
リヒター派の委員たちが、これみよがしにリヒターさんをそう呼んでいた。
「いえ、皆さんは先に帰っていてください――シャーロット、残るのでしょう? 私もそうしますから」
リヒターさんは取り巻きから逃れ、こっちに声を掛けてきた。まだ残っていたことを気にして、だとは思う。
「リヒター、良いかしら……?」
カイゼリン様も一緒に残って作業をしていた。彼女はリヒターさんの顔色を伺っていた。
「……」
「リヒター……」
リヒターさんは無言で踵を返した。カイゼリン様は去り行く彼の背を見送っていた。
「あの、カイゼリン様。ジェムさん。私も、今日早く帰らないといけなくて。明日は大丈夫ですから!」
カイゼリン様を慕う彼女も用事があると、すまなさそうにしていた。
「……え、ええ。ほほほ、お陰様で助かったわ。お疲れ様」
「ありがとうございました。お疲れ様です」
彼女のおかげで捗ったこと。そして、カイゼリンの味方となってくれたこと。感謝してもしきれなかった。
「……」
「……」
あの女生徒が帰った後も、カイゼリンと二人で黙々と作業していた。
「……」
人任せだったカイゼリン様、彼女はこうも頑張っていた。そうだね、これまでのループでもそうだったね。自分でどうにかしようとしていた時もあったんだ。
『……そんな、お情け。わたくしはいらないわ!』
カイゼリン様は誇り高い。そうなると……あの時の私は余計なことをしてしまった。いたずらに彼女のプライドを傷つけただけだったと。
「ひっく……」
「……カイゼリン様?」
泣き声が聞えてくると思ったら……隣でカイゼリン様が泣いていた。ポロリと涙が流れていた。
「あ、あの、お辛いですか? 少し、休まれますか?」
私は動揺しながらも、彼女の背中をさすった。無理させ過ぎちゃったのかな……。
「……わたくしは、平気よ。ただ、どうしてこうなのかしらって」
「……」
私はカイゼリン様の言葉に耳を傾けた。
「わたくしは、ポンコツなのよ! いつだってそう!」
カイゼリン様は両手を顔で覆って、ついに本格的に泣き出した。
「い、いえ。そんなことは」
思ってはいない。思ったことなどない。思ってはいけない。
「いいえ、ポンコツなのです! だから、リヒターもわたくしを見限ったのよ!」
「そんなことは……」
そんなに連呼してほしくなかった、こちらとしても。
「……気休めはよして頂戴。わたくしは――『彼の主』としてふさわしくあろうとしたのに」
「え……」
「リヒター――リヒトは、わたくしと出会った頃、優秀ではあった。だけれど」
カイゼリン様が語るは、二人の過去だった。
「とても虚ろな瞳をしていたの。わたくしもその頃からポンコツで。わたくしたちは、協力関係を結んだのよ」
――完璧な主と僕でいよう。それが自分達の与えられた役割だと。
「……『シェリア』呼びも強制したも同然のもの。私が幼心に願ったことも、彼は忠実に守っていた――名前にこだわる彼が、どのような思いだったのでしょうね」
――主に呼ぶようにと命じられたから、と。長い睫毛を伏せる彼女。
「……そんな」
「ええ、見せかけで。騙し騙しの関係です。それでも、少なくともわたくしにとっては、支えになっていたの」
お互いなりきることで、絆になっていたこともあったはず。支えとなっていたはずなんだ。
「……尊いな」
私は羨ましくなった。それは恋愛関係をも超えたもの、そうだと思えたの。お互いの存在があったからこそ、ここまでやって来られたんだって。
「……わたくしはそれだけ。『リヒト』には触れられなかった。いうならばハリボテの関係。彼の望みは叶えられなかったの」
「カイゼリン様、それは違います」
「……いいえ」
カイゼリ様ンはハンカチで涙を拭いた、そして。
「違わないわ……わたくしは、あなたが救ってくれたらと思っているの」
「!」
私の目を見て、そう告げてきた。
「ふふ、おかしな話ね。会ったばかりの方にね。でもね、わたくし。あなたとは初めて会った気がしないのよ。貴女はわたくしに寄り添おうとしてくれていた」
あなたはご存知だったみたいね、と。カイゼリンは懐かしむように微笑んだ。
「カイゼリン様……ええ、どこかでお会いしことあるかもしれませんね」
「ふふ」
そこからは和やかに時間が過ぎていった。これ以上遅くなるとまずくもあった。今ならまだ、部活で残っている生徒や教師の目もある。本日はここまでとなった。
「……」
まだ事件が発生する日からは遠い。でも、カイゼリン様を一人にさせるのも問題だから。私は彼女にお願いすることにした。
「あの、お願いがあります。必ずどなたか付き添いをつけてください。私が可能な時はそうします。ただ、絶対とも言えないから」
「……貴女」
「お願いします」
唐突な願いだったでしょうに。それでもカイゼリン様は快諾してくださった。
「ええ、わかりました。わたくし、声をかけるようにしますわ……今日はその、一緒に帰ってくれるのでしょう?」
「はい、もちろんです」
もじもじしているカイゼリン様……可愛いなぁ。私はそう思いながらも彼女を送ることにした。
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