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第二章
ほら、一目惚れでしょう?
迎賓館までカイゼリン様を送っていった。警備兵に彼女は迎え入れられていた。私は安心し、自分も女子寮に帰ることにした。
女子寮も見えてきた。これで一日も無事終わと、そう思っていた時だった。
「――シャーロット。一人になるのを待っていました」
「リヒターさん……」
影から這い出たかのように、リヒターさんが姿を現わした。
「まあ、人目があっても良かったのですが。あなたを攫えば済む話ですから」
「……あの、リヒターさん。本当に初対面なので。そういうこと言われても、私は――」
「――『困ります』、ですか」
「……え」
かつてリヒターさんに向けていったことだ。それは、カイゼリンジョークによるものであった。
「不思議なんです。私とあなたは確かに初対面。でも、私はあなたを知っている」
リヒターさんは私の腕を掴んできた。容赦ない力は……のけることもできない。
「……リヒターさん。本当に初対面なんだよ? こんなことされたりとか」
「……初対面、初対面と何度も何度も。では――一目惚れした。これなら納得がいきますか?」
「いや、一目惚れって」
そのようなことと縁が遠そうな人が。そういう当人はいたって真剣であり。
「そのさらさらな髪も。大きな瞳もそう、そうですね。普段は怯えるようで、被虐心をくすぐるものなのに。それでいて、強い眼差しを向けてくることもある。強がりだって、わかりきっているのに。そんな無理しているところがたまらない」
「あの、リヒターさん?」
「すっとした鼻筋も、嘘をついた時は少し膨らむんです。ばれてないと得意になっているのが、また、おかしくて。頬もとても弾力がありそう。悪戯心で触ってみると、顔を赤くしながら怒ってくるんだろうって」
真顔で言っているのは、私のあらゆる特徴のこと……私自身が気づいてないようなことまで。
「その柔らかそうな唇だって、そう――私はその感触を知っている気がして」
「……もう、そのへんでいいです」
「おや、まだ言い足りませんが。ほら、一目惚れでしょう?」
「……」
一目見て恋をした情報量ではなかった。明らかに別のループの情報が入っている。特に例の時とか……。
「きっと、あなたを知れば知るほど、私は惹かれていくんです。シャーロット、私はあなたのことを――」
「それ以上は言わないでください」
私は言葉で拒絶した。あなたがどのような思いを抱えてようと。
「……ああ、まずは態度で示した方がわかりやすいでしょうか」
どう示してこようとも。
「示されようと、私はもう受け入れない」
気持ちだけは負けないと、私はリヒターさんを見た。彼はへえ、と呟く。さぞ、余裕のない姿で彼の目に映っているんだとしても――私は退けない。
「……シャーロット」
焦れたリヒターさんが顔を近づけようとすると――。
「――はい、そこまで」
殺気立った声がした。足元では唸る犬の声がした。
「あ……」
私は気が緩みそうになった。おそらく散歩中のアルトとリッカが、そこに現れたからだ。
「で、リヒター? 何してくれてんの。フルボッコしてもいい?」
「……それは、大丈夫だから」
アルトが暴れると、リヒターさんもただでは済まなさそう。私はアルトを宥めることにした。
「ぐるるるるる……!」
「……」
リヒターさんの意識はアルトではなく――唸る犬に意識がいっていた。アルトは歯牙にもかけていないようだった。
「……仕切り直します。では、シャーロット。また明日」
「!」
リヒターさんは私の腕を離したものの、今度は私の手に口づけて……きた。アルトが飛びかかる前に、彼は颯爽と去っていった。
「くそっ、リヒター……」
「あの、ありがとう……本当に、ありがとう」
……私は意地で渡り合っていたけれど、いつ流されるかわからなかった。前のループのようになし崩しになっていたかもしれない。
「……うん。俺らね、迎えにくることにしたから。リッカの散歩にもなるし」
「わんっ」
それはとっても心強い。私は素直に甘えることにした。
「ありがとう」
カイゼリン様も喜んでくれるだろう。本当に安心したのだけれど、そうなると気になることも浮上してきた。アルト、彼を付き合わせて大丈夫なのかな、と。
「アルト、課題の方は大丈夫?」
「……」
「アルト? あの……大変そうだったら」
「全然平気ダヨ。愛の力でなんとでもなるヨ」
アルトは親指を立てていた。どこか不安に残る大丈夫だった。私は遠慮したくなったけど、本人に懇願された……自分の楽しみを奪わないで欲しいと。
「それとさ……恰好悪いけど言っとく。フルボッコとか言ったけどさ、ハッタリっていうか」
「え……」
アルトから驚きの発言が飛び出してきた。
「いや、ガチれば俺が勝つけどね? いや、本当本当。でも、あいつ隠してたんかなって。秘めたる強さっていうか……なんか、リッカにびびったのか。退いてくれて良かったっていうか」
「へっへっ」
「そ。リッカのお手柄なー」
アルトの方でワンコを労っていた。
「……ってなわけで。シャーロットの方でもさ、あいつを警戒しといてね」
「うん、わかった」
その後、アルトたちは女子寮まで送り届けてくれた。寮の玄関口まで来ていた。
「あれ?」
リッカは帰ろうとしない。
「へっへっへっへっ」
撫でられ待ちしているようだった。私に元気を出してほしいからってこと? リッカ……甘えさせてもらうね? 撫でまわすね?
私はアルトに見守られながらも、リッカを心ゆくまでナデナデしていた。
私も多忙な日々を送っていた。自治委員会にて、カイゼリン様のサポートを続けていた。最初は一人だったのが、支持者は増え続けていた。
今や半数の支持を得ていた。
「……」
「……」
変わらずリヒターさんは私を見てくる。こちらも最低限の挨拶はするも、それくらいのものに留めていた。
本日も活動終了時間となった。私はカイゼリン様に呼び止められる。渡されたのは包み?
「わたくしから貴女へ。立派な委員ですもの。明日から着用なさって?」
カイゼリン様からの贈り物、それは自治委員の制服だった。
「ありがとうございます……!」
認められた思いで、私は喜びに満ち溢れていた。カイゼリン様も満足そうに微笑む。
「……」
「……」
リヒターさんが険しい目つきでこちらを見ている。私も気づいてはいても、気づかないふりをするしかなかった。
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