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第二章
来訪者の正体と――
日々は過ぎていく――シェリア・カイゼリン嬢、彼女が殺害された日が目前となっていた。
大晦日は明後日となっていた。この日の夕方から夜にかけて。『あの男』はやってくるはずだ。私は人気のない場所で待っていた。
「へっへっへっへっ」
リッカも茂みに隠れて待機していた。ただ、あの男の来訪を待つ。
「――失礼します。シャーロット・ジェムさんですね?」
「!」
来た!と私は構えた。
「至急の用件につき、あなたの元へ直接参りました。報酬は惜しみません――一刻の猶予もないのです。どうか、聞き入れてください」
「……」
「依頼内容は――あなたの魔力で人を殺めることです。相手につきましては、契約成立時にお話します」
「……立派な殺人依頼ですね!」
私は速攻で氷の魔力で男を拘束した。勢いつけて覆面も剥がす。露わになった男の顔も撮影道具で撮っていた。
「な、なんてことを!」
「話してくださるなら、お返ししても構いません。あなたが殺したい相手、動機から話してください」
「ふ、ふざけた話だ。私は……」
「急いでるんです――人が、シェリア・カイゼリン様が殺されるかもしれないんです!」
私は一刻もこの男から洗いざらい吐かせたかった。賭けに出たようなものでもあった。
「な、シェリア様が……!?」
この人からしたら、青天の霹靂だったんだ――狙いはカイゼリン様ではないということ?
「わ、私は言わないぞ」
男はまだ黙秘を貫くようだった。往生際が悪い……! なら、私はこう告げてみせる。
「――リヒター氏ですか。リヒト・リヒターさんのお義父様」
「……!」
リヒト・リヒターとは似ても似つかない男。養父ならばそれも当然だった。
「……あなたが殺したいのは――リヒトさん。そうですね?」
「私は……いや」
男は項垂れた。それでも言おうとはしない。
「……そう、ですか」
私は男、義父の目的はそうだと判断した。動悸まではわからないままだった……この男から得られる情報はここまでかとも思っていた。
「……本当に返してくれるのか。君は……殺されると言った。なら、話させてくれないか」
「……!」
私は前のめりになるも、今は心を宥めさせる。心して聞こう……。
「あなたが話し終えてからですが、お渡しはします。では、お願いします」
「……ああ。わかった。昨日、奴が話にやってきた――自分はリヒターの家を出たいと懇願してきたよ」
「!」
「当然、却下した。私は相手にもしなかった。奴は役割を放棄したのだ」
彼はそう訴えていた、そう動いていた。
当初より早まっていたのも、彼がよりリヒターでなくなること、それを望んだから?
もっと日々を繰り返していたら、もっと告げるのが早まっていたということ?
「子が生まれなかった私達が迎えた養子だ。奴は極めて優秀だった。まさに、カイゼリン家に仕えるに相応しい――アレはそれだけの存在だ」
――『厳選』した甲斐があったと。義父である彼はそう言う。
養父は『彼』を後継者としてしか……いいえ、道具としてしか見てなかった。
もっと愛情でもあったのなら……何かが変わっていたかもしれないのに。私の胸は痛くなった。
「それもだ。シェリア様の御前で申してきた。奴は、シェリア様にも醜く縋っていたよ。寛大なあの方は『奴の愚行は』許してはくださったよ――これからも支えてほしいと。自分もしっかりするから、生涯尽くして欲しいと」
「カイゼリン様……」
私は何ともいえない気持ちになった。
今ままでとは違うカイゼリン様、そうだったんだと思う。主として相応しくなると告げるようになった彼女。立派になった、それでいて。
生涯と言った。ずっと、カイゼリン家に仕えよと――『リヒター』からは逃れられないと。
「だが、あの恩知らずが……! 私にはわかった。あの者は殺意を宿していると! 私はもう、奴を消すしかないと! ……誰も取り合ってはくれない。君の店が頼みの綱だった」
男はリヒター家として、カイゼリン家に仇なす者を消すのみ。養父はそれだけ、カイゼリン家に身も心も捧げていたんだ……なりふり構わないほどの。
「……あなたは」
私は事実を突きつけられた。シェリア・カイゼリン嬢殺害事件――犯人はリヒト・リヒターであるのだと。
様々な思いが私の中を巡っていく。苦しい、胸が苦しくなる……それでも。
「……行こう」
……進もう、今はただ。
「――こちらはお渡しします。失礼します」
「ま、待ちたまえ! 私はこのままというのか!」
「時間が経てば溶けるので、そのままでいてください」
私は約束通り、映像記録は返した。養父の彼は拘束したまま、置いていった。殺人に関する罪は問われることはないにしろ、不審者として詰問されるのかな。
「……」
知ったことではなかった。
「わふっ」
「うん、お待たせ」
待機させていた子犬と共に、彼から去っていった。
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