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第二章
リヒターの選択
しおりを挟む朝日は昇り、日が差し込む。いつものベッドとは違う感触? 私は微睡みの中、目覚める。
「ここって……」
そうだった、リヒト・リヒターさんの生家だった。彼とブランコで会話したあと、私は眠気に襲われてしまっていて……彼に部屋まで連れてきてもらって。
「へっへっへっへっ」
犬の呼吸の音がした。ベッドの下からだ。ああ、間違いなく……!
「リッカ!」
「おはよ、シャーリー!」
ベッドに乗ったリッカは、私の頬をべろべろ舐めていた。ひとしきり舐め終えると、私に話しかけてきた。
「あのね、シャーリー――みんな、下で待ってるの。行ける?」
「待ってるって……」
この家の持ち主はリヒターさん。でも、彼は早々に連れてかれている可能性も早い……急がないと!
「……うん。その人には悪いけど。私、カイゼリン様に話をしに行かないと」
ここでもキーはカイゼリン様。彼女の言動によっては、減刑も出来るはずと信じて。
私は二階にあった洗面台を借りて身支度をした。寝ていた時の自治委員の制服で、待っているという人たちに挨拶をしに行くことにした。申し訳ないけど、軽くで……!
「ねえ、シャーリー。カイゼリンへのお話?」
「……うん。そうだね、リッカには言っておくね。私、リヒターさんの罪が軽くなるように。そのためにカイゼリン様にお願いしにいきたいの」
「リヒターの罪?」
リッカは話す度に首を傾けていて、可愛い、可愛んだけど……ちょっとそれどころではなくてね?
「あとでお話するね。まずは待っている人に――」
「リヒター、怒られてないよ?」
「え――」
そうこうしている内に、私たちは階段も下りて居間へとやってきていた。
「――おはよう、シャーロットさん。悪い、起こしてしまったか」
待ち人がモルゲン先生なのは想定内、聞きつけてきそうなアルトがいないのが意外だった。
「……あー、いつもの彼な? あいつ、寝てたからな。そっとしてやった」
みんな、ってリッカは言っていたわけだから。そうなると――。
「……おはようございます、ジェム様」
「!」
所在なさげにしているリヒターさんがいた。大柄の彼が、ソファに肩身狭くして座っていた。
……そうだね。『ジェム様』なんだ、私は。あの夢の通り――彼がそう望んだのだから。
私もそうしよう。普通に挨拶もして、初対面同然の私たちに。
「おはようございます」
「……はい」
リヒターさんは俯いたままだ。
「やれやれ……仕方ないな」
説明役を先生が引き受けることに。
「ああ、リヒターさんの件な――シェリア・カイゼリン嬢がな。何もなかったと言っているんだ。まあ、部屋も元通りになっていたしな。何もかも跡形もなくだ」
「カイゼリン様が……」
「その上で、リヒト・リヒターにまだ側にいて欲しいだとさ。償いたいとも言っていた。寛容だよな」
「!」
自分を殺そうとした男だろうと、カイゼリン様は側に置くことを選んだ。寛容というか、寛容が過ぎるともいうか……それでも。
……私にとって、喜ばしい結果だったから。本当に……本当にありがとうございます。
「……拍子抜けではあります。私の罪など許されることもないと、思っておりました」
「本人が無いって言っているわけでだな? 痕跡もないし。ここで騒ぎ立てようものなら余計な混乱を招くだけだろ?」
先生はリヒターさんの隣に座って、彼の肩を組みだした。すごい密着しているなぁ……そんな先生も表情を引き締めていた。
「っつてもまあ、お前がどうなんだ、なんだよな。シェリア嬢に仕えるままでいいのかって……ここにいるのは俺達だけだ。お前がどこへ行こうと、知らない振りも出来る」
「モルゲン先生……」
それは私も気になっていたことだった。リヒターさんは自分の生き方に疑問を抱いたからこそ、今回の事件が起こったようなものであった。あの腕時計の影響はあったとしても。
「……諦めない、か」
私を一瞬だけ見ると、リヒターさんは隣のモルゲン先生に目を向けていた。
「お気遣いいただきまして、ありがとうございます。私達は……歪んだ主従関係でありました。互いに見てみない振りをしてきましたから。それを省みる努力を怠ってもおりました」
それがこれまでの二人の関係だった。今の、そしてこれからの二人はきっと、違う。
「――私はシェリア・カイゼリン様に仕えて参りたいです」
――これ以上のない恩赦であると。リヒターさんの出した答えだった。先生は頷いた。
「……わかった。まあ、今のシェリアさんなら傍若無人ぶりもなくなっていると思うがな」
「失礼いたします。私の主に対し、言葉が過ぎてはおられませんでしょうか」
「先生はな、お前の切り替えが怖いよ……」
リヒターさん、どこか吹っ切れたようだった。早速先生を問い詰めたりもして……うん、切り替え早いですよね……。
「……うん」
私たちにとって――これが最上の結果なんだ。リッカも尻尾を振っていた。ね、リッカ?
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