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第二章
鳥籠の夢――紫の瞳の人①
「ん、ここは……」
ひんやりとした床だ。私はゆっくりと覚醒して――即、飛び起きた。
「え、どうして……」
鉄製の鳥籠、いつもの夢の中だ。ここは起点となる場所でもあった。あの、繰り返される日々。大体は生命を終えた時に――。
「まさか……」
私はとっさに自分の左胸を触る……殺された感触も、記憶もない。
「どういうこと……」
てっきり大晦日前日に事件が再発し、自分が犯人されたと思っていた。でもそうじゃないみたい。
私はホッとしつつも、次は錠前を確認した。アルトとリヒターさんのそれは無くなっている。現在は、大型一つに、中型二つ。
「……進展、あるんだよね。数は変わってなくても」
この錠前は一体何だというの。私は改めて考える。そして、今になって気づく。
――この錠前たちと事件はリンクしているのだと。
「無関係じゃないんだ。誰かとか、本当にわからないけど。でも、いつかは無くなっていったら」
私にとっては当たり前すぎて、考えたこともなかったこと。そう、自分を捕えている鳥籠から出られる未来もあるのかと。
「……そうだよ。その可能性だってあるんだ」
私の目の前が明るくなった。その前に困難に立ち向かう必要も当然ある。それでも未来に明るい光がさしてきた。そう思うことができた。
「うん、まずは錠前を減らそう――」
――チャリ、チャリと。また鎖を引きずる音がした。私は小さく悲鳴を上げた。体の震えも止まらない。
「……か、関係しているかもしれないんだから!」
こうして私の夢に訪れる存在は限られている。リッカか――錠前の関係者か。
「……うん!」
今度こそ気絶しないよう、気を強くもつことにした。
鎖を引きずる音は次第に大きくなってくる……来た!
「……あの犬、いねえな」
男の声がした。前、リッカがいた時にも鎖の音がした。この男は三度目の来訪になる?
「――お、いたいたぁ。シャーロットちゃーん? 今日も閉じ込められてんなぁ?」
かったるそうに喋る人……しかも『シャーロットちゃん』って。私の名前、知ってるの? こっちは面識はないだろうし、会ったことなんて。
鎖の音の主が私の前に姿を現わした。本当に覚えのない男だった。
あちこちが破れた白い服に、逞しい胸筋を覗かせる男。両手は石の手錠で拘束されている。見た目はそうでも、悲壮感を感じさせることもない。
男から溢れ出るのは、自信。纏うのは色香。肩くらいの艶やかな黒髪、長めの前髪からは目を覗かせていた。相手を今すぐにでも捕食しような鋭い目だ。にやりと笑った口元には牙のような犬歯があった。
野性味が溢れる、欲望をも隠そうとしない――そんな、紫の瞳の男だった。
「……あの、どちら様でしょうか」
私は尋ねてみた。いつの間に柵まで近づいて、しかも掴んで揺らしているこの男。興味深そうにしているこの男。本当に見たことがない人だった。
「……あー。なるほどなぁ。そうなるか、だよなぁ」
「あの、本当に見覚えなくて」
「だろうな。わかるわかる。ま、しゃーねーわな」
男が一人納得していた。こっちは置いてけぼりだった。
「で――これがか。なるほどねぇ」
男の目線は錠前たちにいった。鳥籠を閉じている存在だ。
「でけえのが、一個。中くらいのが、二個。そんだけ、閉じ込めたいのか。大きいほど思いが強さかっていうと、そうでもねえのか」
「……あの、何かご存知だったりしないですか」
こうして男は夢を訪れてきたのだ。私は質問してみた。
「いんや? 知らねえな」
「そうですか。なら、たまたま訪れただけなんですね」
リッカもそうだったし、ふらりと迷い込んできたのかもしれない。怪しい男であっても、鳥籠に関係しないのなら、私もそこまで構えることもないかと思いだした。
「たまたま、じゃねんだわ」
「へ」
「オマエにこうして逢ってみたかったんだよ――ずっと、見てはいたんだけどな」
「え」
私のことを事前に知っていた。かといって、錠前は彼のものではないという。頭が混乱してきた……!
「わかりやすく言うとだ。オレはオマエに興味があるってことだ」
「すみません、わかりません」
「だよなぁ!」
私としては何もわかりやすくなってなくて。目の前の人は気にせず、けらけら笑っていた。
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