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第二章
鳥籠の夢――紫の瞳の人②
「――お、ここ空いてんな」
男が扉付近を両手で触れた。拘束されている彼でも届く位置だった。しかもそこは、かつてリヒターさんの錠前があったところで……待って? いやいや待って?
「ま、まさか」
この人がしそうなこと、想像できてしまった。杞憂であってほしかったけれど、この流れだとそうではない。
「あの! 待ってください、やめてください!」
私は慌てて外側に近づいて、男を止めようとする。そんな私を男は笑っていた。
「待てといわれて、待つヤツがいるかっての」
男は何やら詠唱をすると、紫色の淡い光が扉に絡みついていく――錠前の誕生が、私の目の前で行われていた。まさかだった。
「ふうん。色は反映されねえのな」
変哲もない錠前だった。男が指で弾いても変わらないものは変わらない。
「あああ……」
さっきは錠前が減ったと喜んでいたのに。まさか増えるのを目にしてしまうとは――私はガクッとなった。
「おいおい、シャーロットちゃん? 喜べよ? こんだけ執着されてんじゃ、悪い気もしねえだろ?」
「悪い気もって、それどころじゃ……」
「おいおーい。モテ期じゃねえかよぉ。喜べよ……な、悪い気はしなかっただろ?」
男はとことん絡んできた。私が後ずさりをすると、それを面白そうに眺めていた。
「あなた、何を――」
「幼馴染のイケメン君に溺愛されっぱだったり? 堅物クンが独占欲を露わにしたり? いやぁ、すごかったよなぁ」
「あなたは……」
この男はどこまで知っているの……どうしてそうも楽しそうなの。
「で、オマエものめり込んでいった。楽しんでたんだろ? ――オレも同じようなもんだよ」
「……私は。そんな私もいたりもしたし。好意なら嬉しかったりもします」
でも、と私は相手に伝えた。
「……彼らが苦しんでいるのもわかっていたから。そんな苦しみを知っていて、楽しめたりはできない。私といて幸せになれないとも考えちゃう」
「いい子ちゃんめ。流されたりもしてんのになぁ」
私の言葉を聞いた男はつまらなさそうにしていた。
「そ、それは。あんな風に迫られたら。免疫とかあればともかく、慣れてないこっちの立場にもなって欲しいというか」
「へいへーい、満更でもないと」
「……! 私は、本当に恋愛が苦手なんです。もう、心乱されたくもない。穏やかに過ごしたいだけ」
いつまでも絡み続ける男に、こっちも苛立っていた。この煽るような表情もなんだというの……!
「私は恋をして、裏切られた……! 信じていたのに、あっけなく終わったの……!」
「!」
あ……声を荒げてしまった。相手の人が目を丸くしている。とりあえず……この人は煽ってきている。こっちも冷静に、冷静に……。
「あなたが面白がるようなこと、何も起きませんから……なにせ、恋愛下手なので」
「……頑ななのなぁ」
男は手慰みにまた鳥籠を揺らしていた。それも腹立たしいからやめて欲しいと、私は冷ややかな目を向けていた。
「……オモシレー女」
「え」
冬花からシャーロットと生きてきて、初めて言われたフレーズ――『面白れぇ女』。リアルで聞くことになるとは思っていなかった。
「はは、オレも面白くなってきた……そんな頑ななヤツをさ、オレが溶かしてやんの」
男は不敵の笑みを見せた。
「ま、オレにも事情はあっからさ。表立ってオマエには接触はできねえけど」
「……?」
「楽しみだわぁ――オマエがオレに溺れる日が」
私の前に現れた、紫の瞳をした不審な男。錠前を一つ増やしたこの男。今にも私を食らおうとしている彼に不安を感じたまま。
鳥籠の夢は終わった。
私はうなされていた。汗だくのまま、目を覚ます。部屋の時計を見ると、もう夜明け前だった。
「シャーリー、大丈夫?」
小さな影があった。リッカが顔を覗いてきていだ。
「うん、大丈夫……」
最悪な男に会った。このこと、リッカにもいずれは話さなくちゃ。気を引けたりもするけれど……。
この純白無邪気ワンコにあのような人のことを……って、リッカ? 彼はベッドから下りていた。どうしたのかな?
「――ねえ、シャーリー。お外見て? 夜が明けるよ」
「あ……」
私も窓に寄って、カーテンを開けた。今、太陽が昇り始めていた。
「ねえ、リッカ――今日、大晦日だね」
「うん!」
何事もなく大晦日がやってきた、やってきたんだ……! おかしな人に出くわしたものの、今は希望に満ち溢れていて――。
男が扉付近を両手で触れた。拘束されている彼でも届く位置だった。しかもそこは、かつてリヒターさんの錠前があったところで……待って? いやいや待って?
「ま、まさか」
この人がしそうなこと、想像できてしまった。杞憂であってほしかったけれど、この流れだとそうではない。
「あの! 待ってください、やめてください!」
私は慌てて外側に近づいて、男を止めようとする。そんな私を男は笑っていた。
「待てといわれて、待つヤツがいるかっての」
男は何やら詠唱をすると、紫色の淡い光が扉に絡みついていく――錠前の誕生が、私の目の前で行われていた。まさかだった。
「ふうん。色は反映されねえのな」
変哲もない錠前だった。男が指で弾いても変わらないものは変わらない。
「あああ……」
さっきは錠前が減ったと喜んでいたのに。まさか増えるのを目にしてしまうとは――私はガクッとなった。
「おいおい、シャーロットちゃん? 喜べよ? こんだけ執着されてんじゃ、悪い気もしねえだろ?」
「悪い気もって、それどころじゃ……」
「おいおーい。モテ期じゃねえかよぉ。喜べよ……な、悪い気はしなかっただろ?」
男はとことん絡んできた。私が後ずさりをすると、それを面白そうに眺めていた。
「あなた、何を――」
「幼馴染のイケメン君に溺愛されっぱだったり? 堅物クンが独占欲を露わにしたり? いやぁ、すごかったよなぁ」
「あなたは……」
この男はどこまで知っているの……どうしてそうも楽しそうなの。
「で、オマエものめり込んでいった。楽しんでたんだろ? ――オレも同じようなもんだよ」
「……私は。そんな私もいたりもしたし。好意なら嬉しかったりもします」
でも、と私は相手に伝えた。
「……彼らが苦しんでいるのもわかっていたから。そんな苦しみを知っていて、楽しめたりはできない。私といて幸せになれないとも考えちゃう」
「いい子ちゃんめ。流されたりもしてんのになぁ」
私の言葉を聞いた男はつまらなさそうにしていた。
「そ、それは。あんな風に迫られたら。免疫とかあればともかく、慣れてないこっちの立場にもなって欲しいというか」
「へいへーい、満更でもないと」
「……! 私は、本当に恋愛が苦手なんです。もう、心乱されたくもない。穏やかに過ごしたいだけ」
いつまでも絡み続ける男に、こっちも苛立っていた。この煽るような表情もなんだというの……!
「私は恋をして、裏切られた……! 信じていたのに、あっけなく終わったの……!」
「!」
あ……声を荒げてしまった。相手の人が目を丸くしている。とりあえず……この人は煽ってきている。こっちも冷静に、冷静に……。
「あなたが面白がるようなこと、何も起きませんから……なにせ、恋愛下手なので」
「……頑ななのなぁ」
男は手慰みにまた鳥籠を揺らしていた。それも腹立たしいからやめて欲しいと、私は冷ややかな目を向けていた。
「……オモシレー女」
「え」
冬花からシャーロットと生きてきて、初めて言われたフレーズ――『面白れぇ女』。リアルで聞くことになるとは思っていなかった。
「はは、オレも面白くなってきた……そんな頑ななヤツをさ、オレが溶かしてやんの」
男は不敵の笑みを見せた。
「ま、オレにも事情はあっからさ。表立ってオマエには接触はできねえけど」
「……?」
「楽しみだわぁ――オマエがオレに溺れる日が」
私の前に現れた、紫の瞳をした不審な男。錠前を一つ増やしたこの男。今にも私を食らおうとしている彼に不安を感じたまま。
鳥籠の夢は終わった。
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「シャーリー、大丈夫?」
小さな影があった。リッカが顔を覗いてきていだ。
「うん、大丈夫……」
最悪な男に会った。このこと、リッカにもいずれは話さなくちゃ。気を引けたりもするけれど……。
この純白無邪気ワンコにあのような人のことを……って、リッカ? 彼はベッドから下りていた。どうしたのかな?
「――ねえ、シャーリー。お外見て? 夜が明けるよ」
「あ……」
私も窓に寄って、カーテンを開けた。今、太陽が昇り始めていた。
「ねえ、リッカ――今日、大晦日だね」
「うん!」
何事もなく大晦日がやってきた、やってきたんだ……! おかしな人に出くわしたものの、今は希望に満ち溢れていて――。
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