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第三章
今度は国民的歌手が……
しおりを挟む「!」
私はハッと目覚めた。ここは鳥籠の夢だ。また殺され、また戻ってきたんだ……。
「シャーリー……」
力ない声で私を呼ぶ声。小さくてふわふわした純白の子犬。
人の言葉も喋れる彼の名は、リッカだった。春の女神を主人と呼ぶリッカもまた、繰り返しの日々記憶も有している。私の心の支えでもある相棒なんだ。
「……大丈夫だよ、リッカも私も生きてる」
「うん……」
リッカの前では笑ってみせるも……私は残った感触に震えていた。『死神』に刺された箇所。まだ、胸を突き刺さされた感触が残って、消えてくれない。
「……しっかりしないと」
死の恐怖に怯えながらも、私たちは乗り越えてきたでじゃないの。また、力を合わせて乗り越えていけばいい。私はそう誓おうとするけれど。
「……」
……私の手は震えたままだ。これ以上震えるな、と自身を叱咤した。
「――ルイ・ゼンガー」
私が口にしたのは、今回の犠牲者の名前。
「僕、知ってる。春の女神様に歌ってくれる人」
「うん、そうだよ」
名前だけ知っている男性、彼は国民的人気歌手だ。春の女神の祭典での歌い手も務めたことがある。今年……ううん、来年となってしまったね。彼が有力視されていた。
その前にあるのが、大晦日の式典である。そこでもルイ・ゼンガーが歌うことになっていた。
「……」
ルイ・ゼンガーとは接点はない。でも、『娘さん』なら。
彼の愛娘、『リナ・ゼンガー』なら学園の生徒だった。そちらから接点をもつことにした。もたなければ、また犯人にされてお終いとなってしまうから。
「…ふう、わからないことばかり」
それでも、私は顔を上げた。リッカもそうだ。また訪れる繰り返しの日々に向けて、今は体を休めることにした――。
「――シャーリー、起きて?」
「ん……」
冷えた朝の空気の中、私は目を覚ます。顔を覗き込んでいるのは、お馴染みのワンコ――一緒に暮らすようになったリッカだった。
「おはよう、リッカ」
「おはよう。あのね、もう『来てる』よ」
私は体を起こす。リッカは枕の近くで体を伏せていた。知らせたということで、リッカは再び睡眠をとるようだ。
「……来てる。そっか、急ぐね」
時計は朝の五時、早朝だ。リッカが来ているといっていた人物、予想がついた。朝早くからの訪問――それだけ心配させてしまっているんだね……。
私は最低限の支度をし、螺旋階段を下って玄関へ向かう。この日もおそらく、十二月の初旬のはず。
また、繰り返しの日々は始まろうとしていた。
「……おはよう、アルト」
「……おはよ、シャーロット」
私の家兼仕事場。その前には、一本の木が立っていた。そこで、待っていたのは長身の青年だった。
彼はアルト・モルゲン。同じ孤児院で育った幼馴染だった。
生まれつきの癖毛は短めであり、くっきりとした目鼻立ちに甘い顔立ち。溌剌とした笑顔を見せたり、浮かれたり。
……拗ねたり、羨んだりと。
そんな彼が、今は決してそんなことはなく。沈痛な面持ちをしていた。
「……アルト」
私はアルトの心情が痛いほどわかっていた。彼がこうも辛そうにしているのも、その理由さえも。
「……あんなさ、笑って過ごして。別れた後に、なんだこれ」
「……うん」
大晦日の夜、アルトとも一緒に過ごしていた。楽しい時間を過ごしていた。あのワンコもお腹がパンパンになるほど、ご馳走を堪能していた。そんな幸せな夜に訪れたのが、あの惨劇であって……。
「なんなんだよ、これ……。いつまで続くんだよ……」
アルトは本当に辛そうだった。長年一緒に過ごした幼馴染が……殺されてしまったから。それも、冤罪によって。
「なんで俺はいつも……!」
拡声器で知らされることになったことに、アルトはまた絶望していた……。
「ごめんね、何度も。俺こんなんでさ」
「ううん」
失う悲しさは私もわかるもの……君が悲しんでくれるのも。
アルトもまた、繰り返しの日々の記憶を持つようになった。といっても、最初からではなかった――執着心を越えた先で、だった。
「……何度も。俺は、シャーロットの力になるから。俺だって、君との未来を見たい」
「うん、ありがとう。私もそうだよ。一緒にいられるようにね」
今は自身と私との在り方を向き合って、共に繰り返しの日々を乗り越えようとしていた。
「シャーロット。ありがと……」
笑うアルトに、シャーロットも微笑んだ。
「そうだよ、俺達の未来じゃんか。こんなん、君と俺のトゥルーエンドの為に、頑張るしかないじゃんか……!」
アルトはその……もう隠すこともなくなって。色々と……。
「俺達、というか。みんな、というか」
「現実ってやっぱつれぇ……」
私が望むのは、みんなが笑っていられる未来。そこは正直に訂正していた。アルトは項垂れていた。
「……みんなか。リッカは? まだ寝てる?」
「うん。私を起こしたあと、寝てるよ」
「そっか」
アルトもまた、リッカが喋れることを知っている。それでいて、リッカを可愛がっている筆頭的存在でもあった。
「とりあえず、上がってくれる?」
「お邪魔しますっ!」
立ち話もなんだし、家に入ってもらうことにした。
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