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第三章
愛情料理
「――私達、学園に行く前に色々立ち寄るところがあるんだ。リヒターさんはこの後、どうするの?」
私は台所に立っていた。朝食の準備をしながら、リヒターさんに確認していた。
「私はと申しますと……黙って出てきたことになりますので。その説明に一度戻らせていただきます」
「うん、わかった。カイゼリン様だね。委員会のこともあると思うから、どこかで時間もらえるかな? 紹介したい人がいて」
「委員会……ええ、そうですね」
リヒターさん、何か考えている? いえ、と彼は言い直す。
「ひとまずは、お気になさらないでください」
「うん……?」
リヒターさんがそう言うのなら。それはそれとして、私は誘ってみた。
「朝ごはんだけでも食べていかない? もうすぐで出来るから」
「……よろしいのでしょうか」
リヒターさん、作っている私をまず目視。次にソファに座って子犬を撫でているアルトを。謎の視線。
「なんで俺みるの。まあ……どっちでもいいんじゃない? 食べないなら俺が二人分食べるだけだし。つか、朝ごはん抜くのも良くないだろうし。俺、そこまで鬼じゃないんで」
「リヒターも一緒に食べよう?」
爆睡していたリッカも、ご飯の匂いで起きてきたようだね。鼻をクンクンさせていた。
「……では、お言葉に甘えまして」
「うん、食べてって。シンプルだけど」
良かった。朝食抜きで学園までも大変だろうし。
「いえ、あなたが作るのなら。どのような料理も絶品になるかと存じます」
「なにいってんの、シャーロット! 君が作るんだから、絶品グルメだって」
「……」
「……」
二人の発言が被った。褒めてくれるのは嬉しいんだ……でも、この殺伐とした空気が。
「ええ、まあ……アルト様も同様のお考えなのですね」
「そういうこと。俺は何度も食べているけど、飽きることもないし。つか、幸せ者だし。シャーロットの愛情料理をさ、たくさん振る舞ってもらってるわけだし?」
一旦引き下がろうとしたリヒターさんに対し、アルトはさらにマウントをとってきた……アルト。
「……リヒターさん、気にしないでね。ホントに手間かけてないから。あと、アルト。愛情料理は誇張しすぎ」
「はい――」
リヒターさんは普通に返事しようとしたのに。
「それはー、受け取る側がそう思ったならー、そうなんですー。俺はー、シャーロットの愛情料理でここまで育ったようなものですー」
被せてくるのはアルト。長ったらしい言い回しに、さすがにリヒターさんも眉を少し寄せた。私もね、少しイラっとした。
「ジェム様。アルト様は朝からこのようなのですね。大変ではありませんか?」
「……大変というか」
リヒターさんにしては珍しく、彼の声には苛立ちも含まれていた。
「あー、イヤミとかきかないんで。シャーロットはそれ込みで俺と一緒にいてくれるんで」
「……さようでございますか」
アルトは全く堪えてなかった。リヒターさんもこのへんで止めることにしたようだった。
「さて、ジェム様。それでしたら、リッカ様の朝食は私にお任せください」
リヒターさん、台所にやってきた。せめてものお礼にって。
「いいの? ありがとう。リッカも喜ぶよ。ねっ?」
「わーい! ありがとー」
リッカ、すごく嬉しそう。ああ、微笑ましい。その隣にいるのは……すごい形相のアルト。リッカを撫でる手も止まる。
「……俺だって作るし。リッカ、待っててな」
「アルト行っちゃうの?」
「う……」
リッカがつぶらな瞳を向けてきた。撫でてもらって気持ち良かったところに、アルトが離れようとしていたからだね。なんだかんだでリッカに弱い彼は、撫でを続行していた。
「えへへ」
「……俺はこのモフモフを置いてはいけない。でもなぁ……ぐぬぬ」
台所にいる私たちを見ているんだろうね……恨みのこもった視線が。
リヒターさんはリッカの分だけではなかった。私たちの朝食まで手がけてくれた。
時折、リヒターさんは私にスプーンで味見させようとしていた。これは単なる味見だと言わんばかりだったけれど……そこは、ごめん。私はさりげなく遠慮はしていた。
「ざまあと思いつつ……ぐぬぬ」
リッカを撫でる手は優しいものの、アルトは顔を引きつらせていた。
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