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第三章
節度ある善良なる教師、登場
リヒターさんは後片付けまで颯爽とこなしたところで、私に話しかけてきた。
「――ジェム様、こちらの素材は売り物でしょうか」
カウンターに陳列されているもの。草花とか鉱石といったもの。いずれも薬品類ではなく。
「それ? うん、アルトが手に入れてくれたものだね。ほしかったら、アルトに払ってあげてね」
「いやいや、シャーロットの売上ですー、魔法屋の商品ですからー」
すかさず入ってきたのは、アルト。
「いやいや、アルトの――」
「いやいやぁ、シャーロットの――」
私たちのやりとりは続いていた。アルトはどこか楽しそう。リヒターさんは無表情で眺めていたけれど。
「キリがございません、ええ、そういうことで」
どこか辟易した口ぶりだった。リヒターさんはどっちに……?
「ジェム様にお支払いをしたく存じます」
「やるじゃん、リヒター」
この二人、意気投合としていた。いやいや、本当にそれはアルトが受け取るべきで――。
「しいては――リッカ様の生活の潤いの為に」
「ありがとうございましたー!」
……うん、リッカの為ならね。リッカ代ということで。平和的解決。
「……時間もできたものですから。私もあなたを見習って調合を試みようかと」
薬師免許はありませんが、と加えつつ。リヒターさんはいくつか購入していた。薬、ではないのかな。何を作るんだろうね。ちゃんとしたものはできそう、だってリヒターさんって。
「そうだね。手、器用だもんね」
「ええ……そうですね」
リヒターさんは……微笑んでいた。そんな、ねえ、優しげな笑顔で……ねえ?
「へえー……くわしいんだぁ……」
アルトがジト目で見てくる……。
「……失礼いたしました。私は先に戻らせていただきます。またお逢いしましょう」
リヒターさんは恭しく頭を下げると、カイゼリン様の元へと戻っていった。自治委員会の話があるみたいだけれど、そこまで時間はとらないって。昼過ぎには合流できるとも言っていた。
私たちはというと。
推薦状の件で郵便配達の施設にも寄り、街の広場にある女神像にも祈りを捧げていく。そこは変わらない。それから王立ブルーメ学園に向かうことにした。
「――よう、お前達」
学園の正門前で、ある男性が待ち構えていた。彼は門番兵に話しかけ、こちらで引き受けると通していた。門番さんに敬礼されるような存在でもあった。
大人の男性。おそらく天然の、巻きが入った耳くらいまでの髪を真ん中に分けている。退廃的、妖艶さもあるその見た目からして、彼が何者かは想像が難しい、そのような容姿の人。
「モル……っと」
私は言いかけて、やめた。この時点で彼の名を知っていることも、ましてや呼ぶのもおかしいよね。
「……ああ、初めまして、だな。俺はアインスト・モルゲンだ。この学園の教師、高等部を受け持っている。お前はシャーロット・ジェムだろ? 学院長から話は聞いている」
「はい、初めまして。シャーロット・ジェムと申します。お世話になります。よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしくな」
私はお辞儀をした。最初から入学する気の私を見て、モルゲン先生も満足そうに微笑んだ。
「――って、兄貴? なんで待ち構えてんの……」
弟のアルトがドン引きしている……。
「なんで待っていただけで、そんな引かれなきゃならないんだ……」
弟の塩対応に、兄である先生は嘆いていた。
先生側は色々と気にかけているようでも、アルトとしてはどうも上手く関われないようだった。といっても、以前に比べれば少しずつでも距離は縮まっているんだよね。
「いや、引くでしょ。こんな怪しい教師がさ、スタンバってるの。可愛い女子生徒狙い過ぎて、あからさま過ぎ。引くわ」
「……もう、やめてくれ。俺は散々言われ続けてきたし、要求を飲んでもきたんだぞ? もう、いいだろ?」
先生は参っていた。以前にも、教師としての姿勢を散々説かれていたから……。
「な、シャーロット? 俺は節度ある善良な教師だからな?」
「へ、あ、はい。そうだとは思います」
急に話を振られてしまったので、私は間抜けな返答になってしまった。私もね、そうだと思う一方で――教師モルゲンが思わせぶりな態度をしてきたこと。生徒にしてきたことも存じていた。生返事だった。
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