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第三章
愛娘はアイドル!
学園の南にあるのが、教職員寮だった。そこにある面談室、防音性能に優れた密室の部屋。お馴染みの作戦会議の場所でもあった。
立ったままの先生に、座る生徒二人。
空いた席で伏せの姿勢をしているのはリッカ。姿が見えなくなっている。可愛いので私たちは特に突っ込まずにいた。可愛い。
「――リヒターが話しかけてきたぞ」
「モルゲン先生、それって」
先生が言わんとしていること、それは私たちはわかっていた。
既にリヒターさんは先生も絡んでいるとふんでいて。確証を得た上で、話をしにいったようだった。
「ああ、そうだ。リヒターは色々と察しているんだろうな……だからこそ、俺の方から大体説明しておいた」
「……リヒターさん。わかりました、先生。ご説明ありがとうございました」
「ああ。あいつも飲み込み早いからな。そんな労力もなかったよ。というか、スムーズ過ぎたな」
「はは……」
私は彼らしいと思った。
「あとな。今日、というか明日もか。様子見で来ることはあっても、基本休むことにしたようだ。委員会活動の縮小だ。シェリア……シェリア・カイゼリン嬢も承知してくれたってな」
「あ……そうなんですね」
リヒターさんがどれだけ委員活動で多忙だったか知っていたから。私は胸を撫で下ろした。働き詰めだった彼が適度に休むことも考えだした。カイゼリン様も彼の要求を受け入れてくれた。
「良かった」
あの繰り返しの日々も無駄ではなかった。私はそう思えた。
そうなると、リヒターさんの件は話がついた。話に来ることもそうであるし、自治委員会に挨拶をしにいくこともなくなった。
これから話す本題のことも、あらかじめ先生と済ませてそう。段取りの良い彼だからこそ。
「――それで本題だ。今回の被害者は、『ルイ・ゼンガー』氏だ。国民的歌手で、今年の式典の歌い手ともなる方だ」
大晦日に開かれる式典は、年の終わりを厳かに祝うもの。国の首都にて催される。そこで歌い上げるのが、国民的スターでもあるルイ・ゼンガーさんだった。
「ああ、そうだな。ルイ・ゼンガー氏だが、幸いというべきか、その娘さんが通っている」
リナ・ゼンガーさん。繰り返し日々の中、その姿を見たことはあった。やりとりもしたことはあったけれど、ほとんど怒られていたなぁ……。
学園内のアイドル的存在。都でも有名なんだよね。私は彼女がプロデュースしているという商品、メイク道具とかお菓子とか。目にしたことがあるから。本当にすごい人なんだなぁ。
「あー、ゼンガー先輩ね。はいはい……あ、二年生ね。俺らの一個上」
学園の有名人ということで、アルトもその存在は知っていたみたい。早速教えてくれたんだ。
「そっか、ありがと」
「ううん。つか、それだけ。本当にそれだけ。関係ないから」
「う、うん?」
アルトはあくまで興味がない、それだけの関係。それを主張してくる。私は珍しいものをみた気分になった。
「ほーう」
「……なに、兄貴」
先生は色々と事情を知っている。自分の弟のことなら尚更のようだった。
「いや、微笑ましいなってな。俺もそこまで無粋じゃないからな」
「いや、十分ノンデリだけど。その知ってます感。ちらつかせ感」
揶揄う気があり過ぎる先生、アルトにとっては不快でしかなかったよう。
「……ふむ」
私からしてみれば、訳のわからない話。それでいて、本当に珍しいなって。誰かとの関係性を指摘されて、こうも落ち着かない様子なアルトは。
「ほらぁ、兄貴のせいじゃん! 他人事モード発動じゃん! ……ああ、もう」
アルトが頭に手をやると、私に話しかけてきた。
「……嘘をつきました。ごめんなさい。でもね、俺からは本当に何も無くて。相手先輩だし、失礼じゃない範囲でってだけでしか。前は向こうからわりと絡んできたんだけど、話をしてこなくもなったし」
「なるほど」
リナ・ゼンガーさんはアルトに話しかけていた。アルトがモテているってことだね。
「ほんと、それだけ。だって、俺は――」
「なあ、アルト。お前は気が乗らないだろうけどな。それって、こちらとしては有利な手札だぞ。むしろ、お前から仕掛けろともいうべきか。それも考えている」
「……いや、まじ何言ってんの。俺に何やらせる気。そんなの誠意ないし、ゼンガー先輩にも失礼だろ」
アルトは相手の気持ちを考えていても、先生は訂正をしたりはしない……本気だからこそ。
「――いいか、アルト。ああ、シャーロットもだな。娘さんを懐柔できれば、ルイ・ゼンガーとも近づきやすくなる。俺達の生存率も上がる。それでも、お前は抵抗あるのか?」
「……それは」
それを言われたらアルトは弱い。何も危害を加えろと言われているわけではなくて。ただ、自分を良く思っているであろう女子生徒に、甘い顔をすればいいだけだと。
「俺がお前の立場だったら……そうだな。手段は選んでられない。それだけ追い詰められたらだけどな。利用しようと罪悪感も無くなるだろうな」
「……モルゲン先生」
先生はどう思われようが、なりふり構わないと。暗にそう告げていた。そうして、愛情を抱いていない相手に、愛を囁くのだと。
嫌だな……どうして思っちゃうのかな。
――あの片桐先生のようだって。もちろん別人、無関係だとしても。
「……とりあえず、相手を気分悪くさせないくらいなら。いつもやってることだし。愛想笑いくらいなら、だけど」
アルトはやっぱり気が進まないようだった。
「……アルト」
アルトが動く必要もあるかもしれないけれど、彼ばかりというわけにもだった。私からも動こう。
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