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第三章
国民的歌手のおでまし
しおりを挟む「――先生、今の内に確認というか、お願いしたいことがあります」
本校舎に入ると、私は改めてモルゲン先生にお願いをした。
「ああ、わかってるよ。リッカの申請だろ?」
「先生……お見通しでしたね」
まだ学園にトラウマがあるリッカが、いられるように。正式な手続きを踏むことにしていた。先生も言ってくるだろうって、思われていたんだ。
「ああ、お見通しだ。お前のことだからな」
「そうですか……」
こういうところだった。いつもの思わせぶりだと、私は渇いた笑いだった。
「ああ……これが例の他人事モードか。ま、いいけどな。――この際な、学園長に直接掛け合うつもりだったんだ」
「おお……飛ばしてきましたね」
「だろ? でも、その方がわかりやすくていいだろ。俺に任せてくれ、シャーロット」
「はい、よろしくお願いします」
先生は自信に満ち溢れていた。そんな彼を見た私だってそう、信じる気持ちを強くなっていた。先生ならって。
「さて、今回はどうする? 学園長ルート、辿っていくか?」
カイゼリン様の事件のループ時、手続き終えたら学園長による案内をされていた。私はその時、数名の生徒との接触があった。何かと気になる存在の彼らではあったけれど。
「いえ――当初の目的通りでお願いします」
「了解だ」
目的はリナ・ゼンガーさん。この時間ならば、いる場所も予測がつくから――。
その後、学園長への挨拶も済まし、手続き後に編入学が完了した。
「ようこそ、ブルーメ学園へ。歓迎するぞい」
「はい、よろしくお願いいたします」
温厚そうなご老人が、学園長だった。その人柄も好ましいもの。私は頭を下げた。
「――失礼いたします、学園長。私の方からもお願いがございます。シャーロット・ジェムですが、家族同然の子犬がおりまして。一つ、許可を頂きたく存じます」
「ほう、ワンちゃんとな?」
「はい――」
先生の交渉の甲斐もあって、リッカの手続きまで完了した。私はひたすら感心感動していた。実に見事な手腕だった。
「ありがとうございました……! 学園長先生、モルゲン先生もです」
「ほっほっほっ」
「良かったな」
すんなりと話が通った。私は感謝してもしきれなかった。先生方も温かな眼差しだった。
「――ご歓談中、失礼いたします。学園長、お客様が見えられております」
秘書さんが電話応対をしていた。受話器口を手で塞ぎながら伺っている。どうやら来客ということで、学園長室に訪れるようだった。
「はて? 約束はあったかのう?」
「はい、約束はございません。ただ、当校の卒業生ということもありまして……それだけではなく」
「ほほう、そうかのう。卒業生なら良いぞい。遊びに来てくれたのなら大歓迎じゃ」
「かしこまりました。ええ、通してください――さようでございますか。ええ、お待ちしておりますが……失礼いたします」
秘書さんはどこか納得がいかない顔で、相手が切ってから電話を切った。
「もうすでに発たれたとのことです。じきに参られるとのことでした」
「ふむ、せっかちさんじゃのう。どの子が来るか、楽しみにしてよう」
学園長がのほほんとした御仁だったから良かったものの……一方的な人だなって印象を持った。
「学園長。私達はここいらで失礼させていただきます」
先生は退室するとのこと。私も失礼しますと、準じようとしていた――その時、ノックの音がした。話題の来客者のようだった。
「――お久しぶりです、学園長。突然の訪問、お許しください」
「……!」
よく通る、男性の声だった。聞き惚れるものでもあった。
「お、まさかじゃが。ああ、入ってよいぞい」
「では、失礼して。ああ、お元気そうですね」
学園長が許可すると、扉は早速開かれた。この学園の卒業生という彼は、学園長を懐かしそうに見つめていた。
「おや、先客かな? これは失礼したね」
男性は私たちにも穏やかな笑みを見せた。すらりとした体で、若々しさもある彼。見た目はそれこそ、若手教師のモルゲン先生とそこまで年の差なさそうな、といった感じだった。
「おお、紹介するぞい、ご存知かとは思うがのう――ルイ・ゼンガー君じゃよ」
「!」
とても学生の子供がいるように見えなかった。歌声ぐらいしか知らなった私、実物を見る機会がなかったもので……言い訳しつつ。そう、彼が。
国民的な歌手にして、春の女神を歌で讃える一族――そして、今回の被害者となる男性だ。
「……」
モルゲン先生は観察するかのようだった。ルイ・ゼンガー氏に気付かれないように。とはいえ、いつまでもそうしてはいられない。名乗ることにしたようだった。
「初めまして。私はこの学園の教師を務めております。アインスト・モルゲンと申します。こちらは編入生です」
「よろしくお願いいたします」
先生、私の名前を紹介しなかった? 何かお考えでもあると思い、私も挨拶のみに。ルイ・ゼンガーさんも笑顔で会釈をしてくださった。そして、先生に向けては。
「――ああ、モルちゃん先生ですね! リナからお噂はかねがね」
「……ええ、リナさんはそう呼んでいますね。朗らかなご息女ですね」
モルちゃん先生……モルちゃん。そんな可愛い呼び名で呼ばれていたとは。先生はとことん笑顔だった。
「リナと仲良くしてくださっているのですね。いやぁ、嬉しい限りだ」
ルイ・ゼンガーさんも笑っている。そう彼は笑顔。笑ってはいるけれど……。
「……」
先生もまた、笑顔でありつつも。ルイ・ゼンガーさんを注視していた。といっても、長々と見ているわけにもいかず、今度こそ退室ということになった。
「今度こそお暇するか――では、学園長。ありがとうございました。ほら、出るぞ」
「は、はい。ありがとうございました。失礼いたします」
一礼して、私たちは退室することにした。
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