春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ

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第三章

トリコになったのは




 次の目的地に向かう。私は気になっていたので、小声で訊くことにした。

「あの、モルゲン先生。良かったのでしょうか」

 先生ならもっと粘るなり、聞きだすなりしてそうだったのに。なにせ、相手は重要人物で。娘さんとの接触も大事だけれど、一番の目的の人物ともいえた。

「ん? ああ、現段階であれ以上はな……そうか、あのような人だったのか」

 先生は観察していたなりに、何かを得ていたようだ。でもどうしたものか、憚られる内容なのかな? 先生は周囲を窺っている……?

「……何か、お考えなんですね」
「そういうことだ――お」

 学園長室からの帰りの階段で、人だかりができていた。
 ――きっと、そこに『彼女』はいる。

「ま、普段なら通行の邪魔だぞ……なんだけどな」
「それは、まあ……」

 モルゲン先生、教師としての職務を今は放棄されるようで。それも機嫌を損ねることは避けたかったから。私だってそう。ここは静観していよう。

 多くのギャラリーに見守られ、階段でたくさんのポージングをしている彼女――リナ・ゼンガーだった。
 黒髪ツインテールに、完成度の高い、映えるメイクもしている。生来の顔立ちの良さを生かしたもの。着用しているのは制服ではあるものの、フリルやフードを使った改造制服でもあった。彼女が可愛いから許される。それが共通認識といえるもの。

「ああ、注意したいものだな」
「……先生」

 先生は苛立ってそうだった。重度の服装違反に対し、それを指をくわえて見逃すしかない現状に対して。先生、何気に厳しいから……。

「……あれ?」

 視線を感じた――リナさんからだった。彼女は顔を顰めていた。気に障るようなことをしたかな? 小声で話していたし、遠巻きに見ていたくらいであって……なんだろ、ドキドキしてきた。

「……中断、ちゅうだーん!」

 リナさんは大きく手を振って交差させていた。バツのポーズだ。撮影は中断されることに。

「モルちゃん、ちょっとー!」

 ずかずかとやってきたのはリナさんだ。彼女は機嫌が宜しくなく、頬を膨らませていた。その姿もまた、見学者からは可愛いともてはやされていた。

「モルちゃん……いや、今は気にしないぞ。リナ? どうかしたか?」

 先生は笑顔を貼りつけているかのようだった。内心では気にしてそう……。

「どうかしたか――じゃないっての。気が散るんだけど。モルちゃん、存在の主張激しいし。何気に厳しいし」

 先生の存在がちらついて集中出来なかった、そういうことみたい。憤っているのは、リナさんの方もだった。

「ああ、悪かった。邪魔したな。俺はどのみち用事があるからな。去るよ」

 先生はただ立っていただけだったのに。それでも彼はその理不尽さも受け入れていた。

「いいけど。『リナ』は優しいから! さ、階段での撮影続けよ?」

 『優しい自分に感謝して』とリナさんはふんぞり返っていた。機嫌が直ったのか、彼女はスキップしながら撮影に戻ろうとしていたけれど。

「――見ない顔ね。あんた、もしかして編入生?」
「!」

 私はいきなり話しかけられたこともあり、竦み上がった。ほぼ初対面の相手――それでいて、重要人物の一人。うん……人見知りを発動している場合ではないと、勇気を振り絞ることにした。

「は、初めまして! へ、編入生のシャーロット・ジェムです! 高等部一年、です!」

 声が思いっきり裏返ってしまった。人見知り発動してしまっていた。周囲からは笑い声が……。

「……お前らなぁ」 

 先生がとりなそうとしていたところ、前に出てきたのはリナさんだった。

「――ふうん、シャーロットね。シャー、シャーかぁ……うん、シャーリー! そう呼んであげる。嬉しいでしょ?」

 リナさんは呼び方を探っていたようだ。

「……」

 笑いとばすことをしなかったリナさん。彼女の人となりに触れた気がして、私は妙な気持ちになった。

「……あ」

 それでもって、そのあだ名はちょっと困るものでもあって。色々と……某幼馴染絡みで。

「何よ、不服?」

 リナさんが口を尖らせると、取り巻きのような彼らも睨みつけてきた。リナさんのシンパともいえる存在なんだろうね。
 ……うん、某委員会を思い出させてくれる。

「……そう、だね」

 私の気持ちとしてどうなのか。そう呼ばれて嫌ということは、もちろんない。リナさんも『何よ』って、眉を寄せていた。うん、お返事をしましょう。 

「いえ、シャーリーでも嬉しいです」
「そっ、ならシャーリーね」
「は、はい……」

 ややこしいことになってしまったなぁ……。
 リナさんが狙っているという存在が、アルト。その彼もかつては私をそう呼んでいた。もう気にしてないとは思うんだけど……リッカもそう呼んでいるわけだし。
 リナさんは会心の出来だと拍手していた。ファンの皆さんも一緒に拍手をしていた。なんにせよ、好意でつけてくれたようなものなんだから。

「はい。可愛い響きだと思います」

 私も笑って返した。

「ふうん……」

 またしても。リナさんからガン見されていた。落ち着かない……どうしたんだろ。

「……よくみると可愛いのね、あんたって」
「え……」

 睫毛バシバシ、唇プルプルの美少女から言われてしまった。私は現実感がなく、信じ難かったけれど。

「ま、リナの方が断然で可愛いけどね!」
「はい、その通りです」

 速攻で現実に引き戻された。その通りだった。

「張り合いのないこと。いいけど……さーて、みんなも待たせているし」

 リナさんは頃合いだと、撮影を再開するようだった。それならば。

「あの、私も見学しててもいいですか?」
「いいわよ。ふふ、リナったら罪作り。編入したばかりの子、虜にしちゃった」

 リナさんは手持ち鏡を取り出して、自分の状態を確認していた。どこまでも可愛い顔と陶酔していた。

「虜……」

 私は彼女の言葉を反芻していた……虜。

「何よ。違うっていうの? だって、リナよ? この可愛さよ? 可愛さカンストしているでしょうよ」

 リナさんは不満そうな顔をしていた。私はそんな彼女の表情を見てもそう、思わずにはいられなくて。

「あ……すみません。その、そういう顔も可愛いなとは、思ってます」
「ふん、当然でしょ。リナが可愛いのは常識なんだから!」
「ふふ、そうですね」

 私が最初にリナさんを見た時もそう。それからも見学する度にそうだった。前世の頃もアイドルに夢中だったりした。その時の思いが蘇るようだった。

「虜になった。その通りなんだと思います」

 本当にそうだって、はにかんだ私。

「……」

 目を大きくして見ているのは、リナさんだった。

「……リナの方が可愛いんだから。いいわ、見せつけてあげる!」
「え……」
「え、じゃないわよ! いい? リナの方が可愛んだからね!」

 リナさんはぷりぷりしながら、撮影に戻っていた。そこはプロ意識、すぐに表情を戻していた。

「わあ……」

 私が虜になったというのは、偽りではない。表情豊かなリナに目を奪われていたんだ。

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