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第三章
ゼンガー氏のゴシップ事情
リナさんの撮影が終わったら、先生と話す約束をしていた。本日二度目の面談室訪問だった。
「失礼します、シャーロット・ジェムです」
先生は在室だよね? 私は面談室の扉をノックした。
「ああ、開けるな」
部屋の中から先生の声がした。ドアを開けて迎えいれてくださった。
「失礼します――」
私が入室すると、後ろ手で扉を閉めるのは先生で……鍵もしっかりと施錠された。
「……」
私は今になって実感する……実感してしまう。この場にはリッカたちもいない。
モルゲン先生と完全に二人きりで。
「……はは」
何も意識することもないでしょうに……自分で自分が笑えてくる。
『教師と生徒とか……はは、ないだろ』
実際にモルゲン先生が言っていたこと。自惚れるのも、先生に失礼だよね。
「息子さんもいらっしゃったんですね」
「ん? ああ、まあな」
お兄さんも通っていたとはは驚きだった。それでも近づくのはリナさんのみでいいのかな? 不思議であった。
「ケイン、兄の方な? どうも掴めないのもあるが……ゼンガー氏と疎遠というかな」
「そうなんですか……?」
「……まあ、もっと言うとな? ――リナともほとんど交流がない」
「……あ」
だから、だから声を掛けなかったのかな……。
少なくともお兄さん側からの悪意は感じなかったけれど……私が知らないだけなのかな?
お兄さんのこともあるけれど、先生が仰りたいのはつまり――リナさんを介した方が、いいってこと?
「まあ、そうだなぁ……」
それはそれで先生は難しい顔をなさっていた。
「確執でもあるのか、どうなのか……兄と父は」
「ええ……」
さすがに親子同士で……どうこうとか。私は考えたくなかったけれど……。
「……ま、あれだ。リナはほら、アルトのこともあるだろ?」
「それは、ええ……まあ……」
歯切れの悪い返事ですみません、先生。リナさんも手強そうだけれど、アルトに好意を寄せていると専らの噂だったから。アルトに懐柔させるっていうのが……先生の考えであって。
「ところで。座らないのか?」
先生は珍しく座っていた。自分の隣か前の席を勧めてくるけれど、私はそれとなく遠慮した。メンタル的にも立っていた方が落ち着いたからだった。
「お気遣いありがとうございます。私は立ってますから」
私的にも……先生と並んだり、とか。対面して、とか。こう、臆してしまうというか……どうしてかな。
「……そうか」
先生も強制する気はなかったようで、疲れたら座ってと言うくらいで終わった。
そんな先生は、机の上に新聞紙を並べていた。私の視線に気づくと、悪戯めいた笑みで言う。
「――ああ、これな。なに、ミーハー気分ってことで。本物にあって浮かれているから、記事も集めていた。そんな浮かれ教師ってことでひとつ」
「あはは……」
「さてと。彼こそ、稀代の歌い手。『本物』の歌手であると――」
先生は記事を追っていた。内容はルイ・ゼンガーにまつわるもの。どれも彼を称賛しているものだった。家族の記事もある。仲良し一家としても評判のようだ。仲良し……という認識でいいってことかな?
「公演でのお守りは、愛娘とのお揃いのペンダント。ただ、年頃の娘は最近はつけたがらない、だとさ」
「わりと赤裸々ですね」
先生は記事の内容を読み上げていた。語るゼンガー氏、娘を溺愛しているのは確かなよう。
「だな。開けっぴろげなもんだ。あとは、否定的な記事もあるな――『誇りを忘れたか』、か」
「……誇り。リッカが言ってましたね。春の女神に歌を捧げていたとか」
「ああ、そうだ。ただ、彼かその親世代か。一族に反して……拝金主義になった。そこまで書かれているな」
「辛辣ですね……」
私は感想を零した。あれだけの人気者でも批判は受ける、辛辣だなぁって……。
「……本物ねぇ」
先生は御自身で言っていた言葉、それにひっかかりを覚えているようだった。
「モルゲン先生も気になりますか」
「ああ、お前もか」
とても華がある人物、有名であることにも鼻にかけない。家族も大切にしている。ルイ・ゼンガー氏は素晴らしい人物だと思えた――でも、今となっては。
「……あの人、胡散臭いんだよな。あの笑い顔、見たか? 俺達を見てる時、学園長相手でもそうだ――目が笑ってないんだよな」
「……そういう人、なんでしょうか。なら、私のも――」
私も気になったことをお伝えする。ただ娘の撮影現場をじっと見ていたこと。その様子がなんともまあ……。
「ああ、なるほどな。タイミング見計らったといえばそれまでだけどな。実際、その後中断させていたんだろ」
「はい」
「……被害者だからな。言い方は気をつけるが、それでもなんだ……中々の人物だな、ルイ・ゼンガーは」
「……それは、まあ」
先生は曲者だと言いたいようだった。私には否定は出来なかった。
「……」
怪しいのはゼンガーさんだけではないんだ。
もっと状況を把握してから。その時に改めて相談をすることにしよう。
「――現状はこれくらいか。リッカにはお前から言ってもらうとして。あとの二人は、俺から話しておく」
「はい、お願いします。でも、私も機会がありましたら」
彼らにも情報は共有しておいた方がいいよね。私はそう思ったけれど、先生は首を振っていた。
「場を選ぶ話題だろ? 時として人の目を気にしなくてはならない、そのような話題だ。だから、先生に任せておいてくれな?」
「は、はい……」
「いい子だ、シャーロット」
「ええ……お願いいたします?」
先生は是が非でもっていった感じだった。そうだね、ここは先生にお願いしておこう。リッカはお泊りから帰ってきたらで――。
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