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第三章
リッカのいない夜……
話している内に、私の部屋がある階に着いた。そのまま私の部屋の前まで進む。
「……となると、『彼女』にもなんだけど」
私の隣室の住人。その部屋の前にて、女子寮長さんは構えていた。妙に緊張もしているようだ。
「……」
私は知っている。自分の隣人はどういった女性か。また、寮長さんがこうなるのも共感できるような女性でもあるかも。それでも知らない振りをしないと、だった。
「大丈夫だよ、シャーロット君! 私もこれでも寮長だからねっ! どんな相手だろうと、積極的に交流しておかないと!」
「おお……」
輝かしい寮長ぶりだった。私には眩しかった。
よし、と気合を入れた寮長さん、彼女は隣室の扉を叩いていた。
「……」
「……」
相手からの反応は無かった。まさかの留守だったようだ。
「……って、留守って。外出でしょうか。門限とかまずいんじゃ」
私の方が冷や汗をかいてていた。隣人は門限破りというロックなことをしてくれちゃって……!
「そうだね、留守ときたか。この時間とは……ふふふ。豪胆な人物のようだ」
かえって寮長さんの火がついたのかな? 苦手意識どころではなくなったようで、闘志を滾らせていた。
「――あら? 私の部屋に御用かしら?」
「!?」
寮長さんの肩に手を置いて、彼女の耳に息を吹きかけたのは――包容力がありそうな艶やかな女子生徒だった。今、戻ってきたばかりのようだった。硬直してしまった寮長さんはそのままに。
「それに……」
狙いを定めるかのように、彼女は私を見つめていた。
「……」
クラーラ・メーディウムさん。私と同じ編入生であり、『聖女』として名高いという。繰り返しの日々で会ってはいるものの、私は初対面の振りをすることにした。
「初めまして、シャーロット・ジェムです。編入したばかりになります。お世話になります」
「……ふふ」
「!?」
クラーラさんは意味深に笑った。私は……捕食される感覚に陥り、ぞくりとなった。
「――それで、寮長さん? お話あったんでしょう? どうぞ入って?」
「はう! ……いいや、私は寮長なんだ。望むところだ!」
「あら、可愛らしいこと。さあ、じっくりお話しましょ?」
クラーラさんは寮長の肩をそのままで、部屋に押しやった。
「……」
私は大丈夫だと信じることにした。寮長さんも、クラーラさんも……大丈夫だよね?
私は部屋に入り、見渡した。快適な空調に、必要なものは一式揃っている部屋。中でもベッドは格別だった。例のベッドも立派ではあるけれど、あらぬことを考えなくて済むから……。
手荷物を片付けたりして、私は一日を振り返る。
アルトだけではなく、リヒターさんも記憶を保有することになった。
入学の手続きで学園長室に赴いたら、今回の被害者ルイ・ゼンガーと遭遇した。
「……それで、リナさんとも接触できた」
学園のアイドル的存在、リナ・ゼンガーの撮影現場に立ち会うこともできた。明日は、仕切り直しの撮影ツアーが催される。お昼過ぎに行われるんだよね。
「そうだ」
今の内にクローゼットを開けて、確認しておくことにした。
明日は制服で参加することにした。指定のコートも手にとる。外での移動には必需品だった。
「謎技術だよね」
着用者の体型に合わせて変化する制服。デザインに独特さはありつつも、ブレザーとスカートといった定番ものだった。リボンも数色用意されていた。どれにしようかなと眺める。
「……うん、赤と金はやめておこう」
ある二名を思わせる色だし。気になって手にとったのは、黄色だった。
「近いといえば近いけど。というか、そこまで誰も気にしないよね」
控えめな色合いの黄色リボンが、私は一番好ましく思えていた。
それから片付けも終えた。あとは、食堂で夕飯を食べることになるね。
「リッカ……」
私は愛しの彼の名を呼んだ。本日はアルトのところにお泊りしている。うん、朝にでも迎えにいこう。寂しい気持ちを我慢してだ。
明日もまだ休日ではあるものの、本格的に動き出していた――。
翌朝、私は男子寮に向かっていた。到着すると、すでにアルトはいた。リッカをしっかりと支え、安定した抱え方で待機していた彼。
「男子寮には入らせません。なので、出待ちしてみました。散歩帰りだったし」
「ええ……」
入らせませんって……私は困惑するも、今はリッカの話をすることにした。早朝から迷惑だったかな、っていうのも杞憂で済んだのかな?
「アルト、ありがとう。ほら、リッカいこっか」
「……」
「アルト?」
「……リッカを離したくない」
私の方はお礼を言って預かろうとするも、アルトは手放さない。こっちがもう一度トライしても、アルトはリッカを手放そうとはしなかった。
かつて犬が苦手だと言っていたアルトが、随分と変わったものだね……。微笑ましく思いつつも、それはそれだった。
「気持ちはわかるけどね。テスト受けないといけないんでしょ」
「うう……シャーロットが現実をつきつけてくるんだ」
これからアルトは総テストもある。リッカもワンっと激励していた。『うう……』と、アルトは観念して、リッカをこちらに。
「シャーロット……リッカをお願いね……」
「うん、わかった……」
リッカを託すと涙目だった。前から思っていたけれど、アルトはすっかりリッカの世話係となっていた。某おばあさんに続き、リッカの保護者ポジションを狙う者はまだまだいるんだね……。
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