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第三章
アイドルの素の……!?
「良かったねぇ、リッカ。リナさん、お気遣いありがとうございました」
飲み終えて満足した子犬を、私は再び抱えた。
「……そんなんじゃねーし。勝手に決めつけないでよね」
「すみません……」
そんなんじゃねーし……口調まで変わっていた。もうね、泣きたくなっていた。もう……もうこれ以上現実を見せないでほしいんだ……。
私が打ちひしがれていたところ――更なる追撃を受けることになる。
「――ていうかぁ、そこのワンちゃん? いっけないんだー」
「!」
リッカ? リッカがなんだというの……!? リナさんは猫撫で声で続ける。
「――そこの泉、聖なる泉なんだよね。春の女神ゆかりの。もちろん飲用禁止」
「!」
「わるいんだー。いっけないんだー。リナ、弱み握っちゃったー」
リナさんは歌うかのように、笑って――リッカを煽り追い詰めていた。
「くぅーん……」
リッカは口をあんぐり開けていた まさか、飲んだ水をもどそうとしてない……!?
「リッカ、リッカは悪くないから……!」
私は片手でリッカの顎を閉じさせようとする。責任を感じているリッカは口を開けようとしていた。もう攻防戦だった。
「そうそう。リナ、犬苦手だけどわかってるから。こういうのって、飼い主の責任じゃない? ねえ、シャーリー?」
「……はい。私の責任です。リッカは悪くないから」
この人の善意かと思い、そのまま信じてしまったのは私。私は自分が情けなくて仕方なかった。
「……ふふ」
リナさんは満足そうに笑っては……私を上目遣いに見上げた。
「じゃあ、シャーリー? ――リナの『玩具』になって?」
「……はい、リナさん」
玩具……悪戯っぽく笑うリナさんが言うこと。あまり良くない内容だとはわかる。それでも。
……断れはしなかった。想像とは違う形で近づくことになってしまった。
「ふふ、嫌そう。そうだ、呼び方も変えてよ。――リナ様、ここはそうじゃない?」
「……」
腕の中のリッカが不安そうにしていた。リッカの性格上、気にしてもいるし、責任も感じているよね……。
「はい、よろしくお願いします。リナ様」
君には気にしないでほしかったから。それにね、リッカ?
私はこれを好機と考えることにした。このような形にしろ、リナさんともっと接触できると考えたら、チャンスでもあるんだって。
「ふうん……」
リナさんからの値踏みするような視線。心穏やかなものではないけれど、私は努めて笑顔であろうとした。
「……つまんないの。リナ、行くわ」
「はい、リナ様」
「……」
先行くリナさんが神妙な顔をして振り返った。何かが気にくわなかったようで。
「……やっぱり、戻して。そう呼ばせていることこそ、イメージダウンだし」
「はい、リナさん」
私はそれはそれで良かった。迷いなく戻す私を見て、リナさんは複雑そうな表情を浮かべていた。それでもこちらに背中を見せて去っていく。
彼女はいなくなってから、それなりに時間は経っていた。それでも私たちは。
「きゅーん……」
「……」
泉のほとりに残ったままだった。リッカは伏せをしながら泉の水面を眺めていた。
「うーん……」
私は手持ちの水筒でリッカに水分はとらせた。でも、リッカが飲みたかったのは、この泉の水なんだよね。
「くーん……」
リッカは葛藤ワンコなんだね……大好きな女神様のゆかりの水、飲みたい。だけれど、禁止されていたというならって。
「綺麗だね、泉……」
「わふっ……」
涎たれたままだね、拭いておこう。リッカ、飲めなくても、涎ダラダラでも、ここにいたいんだよね。じゃあ、私も一緒にいよう――。
「……良かった、まだいた」
息を切らしながらやってきた少女――リナさん!? 何故かわからない、彼女が戻ってきた。
「……飲んでません、飲んでませんからね!」
私は慌ててリッカを抱え上げた。この子は本当に飲んでないので、無罪ワンコなんです!
「逆に怪しくね?」
「飲んでませんから……!」
リナさんが疑惑の目を向けて来ようと、私は主張するまで……! この、健気に耐えていたモフモフを思うと……!
「それ、帳消しでいいから」
「え」
「いいって言ってんの……っと。あのね、リナからのおねがーい? ね、シャーリー?」
「……」
私はポカンとしていた。リッカの泉の件、許されたの? それもお願いがあるって。
……というか、このギャップというか、温度差ともいうか。
「……」
裏の顔を知ってしまった私としては、安請け合いなんて――。
「……ちっ。シャーリー、だめ……? リナのお願い、聞いてくれないの……?」
……推す相手が涙目で、私にお願いを。お願いを……!
「な、内容にもよりますけれど? どういったものでしょうか?」
私は声を上擦らせながらも、話を聞くことにした。舌打ちなんて聞こえてない。『こいつ、ちょろ……』なんて声も聞こえていない……!
「あんたのワンちゃん、貸しなさいよ」
「こ、困ります……!」
私は反射的に答えた。リッカを胸元で強く抱きしめる。そんな私を見て、長い溜息をはいたのはリナさん。
「ずっととかじゃねーから。すぐだし。リナの撮影に参加してほしいの」
「撮影、ですか……?」
私は抱きしめる力を緩めた。
「そ。なんでも? あんたとか……アル君とか? 連れ歩いていたワンコがさ? かわいいって話題になってんの!」
おお……リッカが見つかってしまった。それに、リナさんの口からアルトのことまで。
「ってなると、カワイイの相乗効果っしょ? ファンのみんなが、つよつよコラボを見たいって言い出してさぁ?」
そういうことだったですね。確かに神コラボかと。
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